第二章 ~松陽~(83P)
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「この廃屋に住むようになってから早ひと月が過ぎ、ここでの生活にも慣れ、周辺の環境も見えてきました。この辺りはどうやら子供が多いのですが、何かを学ぶ環境にない子がほとんどだそうです。それならば、ここを寺子屋にして子供たちの為の手習い所を作りたいなと思いまして。これでも昔、松下村塾という学びの場を設けていたのですよ」
「しょうかそんじゅく?」
ようやく気持ちが落ち着いたのか、柚希も会話に入ってくる。
「ええ、松の下の村の塾と書いて松下村塾です」
「吉田塾とかじゃないんだ? まぁ名前はともかくとして……そんな事が思い付きで簡単に出来るもんなのかなぁ。そもそも私たちは余所者だし、あまり歓迎されないと思うけど」
「そこを何とかして欲しいんですよ。貴方たちに」
「……はぁ~~!?」
二度目の「はぁ?」は先ほどよりもキレが鋭い。眉間にしわを寄せ、こめかみに青筋を立てながら松陽に詰め寄る柚希の姿には、側にいた銀時もたじろいでしまった。
「何で私たちが? そもそも寺子屋を始めるには資金だって必要じゃない。日々の生活費だって事欠いてるのに、寺子屋なんて物を開いてたら絶対赤字になるよ」
「柚希はとことん現実的ですねぇ。そこはお月謝などで生計を立てて行けば……」
「ちゃんと受け取れば、ね。どうせ親父様の事だから、貧しい子供たちに無償で……とか言い出すに決まってるもの」
「ほんと、柚希は聡い子ですねぇ」
凄いなぁと感心しながら柚希の頭を撫でてくる松陽に、暖簾に腕押しを悟った柚希はガックリと頭をもたげる。この瞬間、柚希の敗北は決定したようなものだった。
はぁっと大きなため息を吐いた柚希が、心底嫌そうに言う。
「……で? 私たちにやって欲しい事って何?」
その答えにますますパァッと明るい笑顔を見せた松陽は、善は急げと具体的な話を始めた。
「寺子屋を始めるに当たって何が必要かを考えるとですね、まずは生徒が必要です。ってなわけで貴方たちは生徒さんを集めて下さい。そうですねぇ……さしあたっては貴方たちと同じ年頃の子が良いかも知れません」
「生徒を集めるったって、どうすりゃ良いんだよ。俺たちに知り合いはいねーぞ」
「大丈夫ですよ。子供たちがたくさん遊んでいる所に行って、貴方たちが試合をして見せれば簡単に集まりますから」
「そりゃぁ物珍しさでその場には集まるかもしれないけど……」
「案ずるより産むが易しですよ。まずはやってみましょう」
ほらほら、と追い立てられた二人が「今から!?」と驚けば、「お試しですよ。帰ってくる頃にはお昼ご飯を準備しておきますね~」と言って手を振られてしまう。
「……どーすんだよ柚希。ありゃ本気だぜ?」
「言ったら聞かない人だもんね……とりあえず行ってくるしかないか」
「ったく、メンドクセェな」
ポリポリと頭を掻いた銀時は怠そうにしながらも、先程の稽古で使っていた竹刀を二本掴み、町の方へと歩き出す。
「さっさとしねーと置いてくぞ」
「ちょっとぉ、何でシロがリーダーみたいになってるわけ? あんたは私の弟分でしょ。って言うか私の竹刀返してよ」
「ギャンギャン煩ェな。俺は今から二刀流で生きてくから良いの。んな事よりちゃっちゃと終わらせて昼飯にしようぜ」
スタスタと歩いていく銀時を慌てて追いかける柚希。そんな二人の後ろ姿を見送る松陽は満足気に「行ってらっしゃーい」と叫びながら、両手をブンブン振り続ける。
やがて姿が見えなくなると、張り切りすぎて少し痛くなってしまった肩を摩りながら、松陽は言った。
「これをきっかけにして、あの子達も友達を作ってくれるでしょう」
「しょうかそんじゅく?」
ようやく気持ちが落ち着いたのか、柚希も会話に入ってくる。
「ええ、松の下の村の塾と書いて松下村塾です」
「吉田塾とかじゃないんだ? まぁ名前はともかくとして……そんな事が思い付きで簡単に出来るもんなのかなぁ。そもそも私たちは余所者だし、あまり歓迎されないと思うけど」
「そこを何とかして欲しいんですよ。貴方たちに」
「……はぁ~~!?」
二度目の「はぁ?」は先ほどよりもキレが鋭い。眉間にしわを寄せ、こめかみに青筋を立てながら松陽に詰め寄る柚希の姿には、側にいた銀時もたじろいでしまった。
「何で私たちが? そもそも寺子屋を始めるには資金だって必要じゃない。日々の生活費だって事欠いてるのに、寺子屋なんて物を開いてたら絶対赤字になるよ」
「柚希はとことん現実的ですねぇ。そこはお月謝などで生計を立てて行けば……」
「ちゃんと受け取れば、ね。どうせ親父様の事だから、貧しい子供たちに無償で……とか言い出すに決まってるもの」
「ほんと、柚希は聡い子ですねぇ」
凄いなぁと感心しながら柚希の頭を撫でてくる松陽に、暖簾に腕押しを悟った柚希はガックリと頭をもたげる。この瞬間、柚希の敗北は決定したようなものだった。
はぁっと大きなため息を吐いた柚希が、心底嫌そうに言う。
「……で? 私たちにやって欲しい事って何?」
その答えにますますパァッと明るい笑顔を見せた松陽は、善は急げと具体的な話を始めた。
「寺子屋を始めるに当たって何が必要かを考えるとですね、まずは生徒が必要です。ってなわけで貴方たちは生徒さんを集めて下さい。そうですねぇ……さしあたっては貴方たちと同じ年頃の子が良いかも知れません」
「生徒を集めるったって、どうすりゃ良いんだよ。俺たちに知り合いはいねーぞ」
「大丈夫ですよ。子供たちがたくさん遊んでいる所に行って、貴方たちが試合をして見せれば簡単に集まりますから」
「そりゃぁ物珍しさでその場には集まるかもしれないけど……」
「案ずるより産むが易しですよ。まずはやってみましょう」
ほらほら、と追い立てられた二人が「今から!?」と驚けば、「お試しですよ。帰ってくる頃にはお昼ご飯を準備しておきますね~」と言って手を振られてしまう。
「……どーすんだよ柚希。ありゃ本気だぜ?」
「言ったら聞かない人だもんね……とりあえず行ってくるしかないか」
「ったく、メンドクセェな」
ポリポリと頭を掻いた銀時は怠そうにしながらも、先程の稽古で使っていた竹刀を二本掴み、町の方へと歩き出す。
「さっさとしねーと置いてくぞ」
「ちょっとぉ、何でシロがリーダーみたいになってるわけ? あんたは私の弟分でしょ。って言うか私の竹刀返してよ」
「ギャンギャン煩ェな。俺は今から二刀流で生きてくから良いの。んな事よりちゃっちゃと終わらせて昼飯にしようぜ」
スタスタと歩いていく銀時を慌てて追いかける柚希。そんな二人の後ろ姿を見送る松陽は満足気に「行ってらっしゃーい」と叫びながら、両手をブンブン振り続ける。
やがて姿が見えなくなると、張り切りすぎて少し痛くなってしまった肩を摩りながら、松陽は言った。
「これをきっかけにして、あの子達も友達を作ってくれるでしょう」