第二章 ~松陽~(83P)
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あれから気が付けば数カ月が経ち、『友達』の事などすっかり忘れてしまっていた頃――。
「ちょっと良いですか?」
いつものように柚希と銀時が庭で剣の稽古をしていると、松陽に呼ばれた。
「何? 親父様」
汗を拭きながら寄って来た二人に笑顔を見せた松陽は、いちご牛乳のパックを差し出す。これは少し前に行った銭湯で初めて飲んで以来、子供たちが好んで飲むようになった事から常にストックされている食品の一つだ。
ただし以前自由に飲ませていたら、銀時がお腹を壊すほどに際限なく飲んでしまった為、一日一パックという決まりになっている。
「未だ昼飯の準備には早いだろ? それとも今から山で食料捕って来いってか?」
一瞬でいちご牛乳を飲み干した銀時は、パックを握り潰しながら言った。
この数カ月の間に銀時の語彙は格段に増え、既に出会った頃のたどたどしさは片鱗も無い。松陽の提案により毎日柚希から浴びせられていた、機銃掃射のような声掛けが功を奏したようだ。けれどもそれは、生意気で口の悪い少年を生み出すきっかけともなっていた。
「違いますよ」
「んじゃ何だってんだよ。先生はいつも勿体ぶるよな」
「ちょっとシロ! 親父様になんて口の利き方してんのよ」
「へーへー」
「んもーっ!」と怒る柚希を横目に鼻をほじくる銀時は、見事に捻くれた成長を遂げているようだ。純粋で真っ直ぐだったはずの目も、いつしか気怠そうな眼差しに取って代わられていた。
ちなみに銀時は松陽を『先生』と呼んでいる。最初の頃は柚希と同じように『親父様』と呼べば良いと言っていたのだが、銀時自身がその呼び名に違和感を覚えるらしく拒否をしていた。
何度か強引に呼ばせようとした事もあったが、
「松陽、俺の親じゃない」
と言った銀時の表情があまりにも悲しそうだったため、代替案として柚希が考え出したのが『先生』という呼び名。様々な事を教えてくれる人を先生と呼ぶのだと教えると、それ以降銀時は好んで松陽を先生と呼ぶようになったのだ。
「銀時はせっかちさんですねぇ」
そんな松陽先生が子供達二人を前にしてにこやかに発表したのは、まさかの衝撃発言だった。
「では単刀直入に言いますね。ここを寺子屋にします」
「……はぁ?」
思わず開いてしまった柚希の口は、なかなか元には戻らない。ポカンとしながら自分を見つめる柚希に、空気を読まない松陽は両手の人差し指を立てながら首を傾げ「て・ら・こ・や」と可愛く言い直した。
「寺子屋って、手習いとかをする場所だろ? 何で先生がそんなもん開くんだよ。しかもこんな廃屋で」
驚きとそれ以上の苛立ちとで口をパクパクさせたまま固まっている柚希の代わりに、銀時が尋ねる。よくぞ聞いてくれましたとばかりに手をパンっと胸の前で合わせた松陽は、生き生きと説明を始めた。
「ちょっと良いですか?」
いつものように柚希と銀時が庭で剣の稽古をしていると、松陽に呼ばれた。
「何? 親父様」
汗を拭きながら寄って来た二人に笑顔を見せた松陽は、いちご牛乳のパックを差し出す。これは少し前に行った銭湯で初めて飲んで以来、子供たちが好んで飲むようになった事から常にストックされている食品の一つだ。
ただし以前自由に飲ませていたら、銀時がお腹を壊すほどに際限なく飲んでしまった為、一日一パックという決まりになっている。
「未だ昼飯の準備には早いだろ? それとも今から山で食料捕って来いってか?」
一瞬でいちご牛乳を飲み干した銀時は、パックを握り潰しながら言った。
この数カ月の間に銀時の語彙は格段に増え、既に出会った頃のたどたどしさは片鱗も無い。松陽の提案により毎日柚希から浴びせられていた、機銃掃射のような声掛けが功を奏したようだ。けれどもそれは、生意気で口の悪い少年を生み出すきっかけともなっていた。
「違いますよ」
「んじゃ何だってんだよ。先生はいつも勿体ぶるよな」
「ちょっとシロ! 親父様になんて口の利き方してんのよ」
「へーへー」
「んもーっ!」と怒る柚希を横目に鼻をほじくる銀時は、見事に捻くれた成長を遂げているようだ。純粋で真っ直ぐだったはずの目も、いつしか気怠そうな眼差しに取って代わられていた。
ちなみに銀時は松陽を『先生』と呼んでいる。最初の頃は柚希と同じように『親父様』と呼べば良いと言っていたのだが、銀時自身がその呼び名に違和感を覚えるらしく拒否をしていた。
何度か強引に呼ばせようとした事もあったが、
「松陽、俺の親じゃない」
と言った銀時の表情があまりにも悲しそうだったため、代替案として柚希が考え出したのが『先生』という呼び名。様々な事を教えてくれる人を先生と呼ぶのだと教えると、それ以降銀時は好んで松陽を先生と呼ぶようになったのだ。
「銀時はせっかちさんですねぇ」
そんな松陽先生が子供達二人を前にしてにこやかに発表したのは、まさかの衝撃発言だった。
「では単刀直入に言いますね。ここを寺子屋にします」
「……はぁ?」
思わず開いてしまった柚希の口は、なかなか元には戻らない。ポカンとしながら自分を見つめる柚希に、空気を読まない松陽は両手の人差し指を立てながら首を傾げ「て・ら・こ・や」と可愛く言い直した。
「寺子屋って、手習いとかをする場所だろ? 何で先生がそんなもん開くんだよ。しかもこんな廃屋で」
驚きとそれ以上の苛立ちとで口をパクパクさせたまま固まっている柚希の代わりに、銀時が尋ねる。よくぞ聞いてくれましたとばかりに手をパンっと胸の前で合わせた松陽は、生き生きと説明を始めた。