第一章 ~再会~(49P)

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――早く、早く逃げなきゃ! あいつの所へ行かなきゃいけないの! だって約束したんだから。絶対に帰るって……

「私は――っ!」

 叫びながら飛び起きた柚希は、最初に目に飛び込んできた光景に混乱する。そこは殺風景だが生活感のある部屋で、自らは布団に寝かされていた。床の間の掛け軸には『いちご牛乳』と書かれており、その前に置かれた木刀と奇妙なコラボレーションをしていた。
 いつの間にか着替えもさせられており、傷の手当てもなされている。あれだけ強かった痛みも、今はほとんど感じられなかった。

「ここは一体? 何で私はこんな所へ……」

 そう呟くと同時に人の気配を感じて視線を移せば、隣の部屋に一人の男の姿を見つける。

「よぉ、気が付いたか」
「あんたはさっきの……っ!」

 そこには銀時の姿があった。
 柚希が気絶する直前まで見ていた表情とは違い、死んだ魚のような目をした銀時がゆっくりと歩み寄ってくる。殺気は感じられないが、あの強さを目の当たりにしているだけに柚希は警戒し、そっと自らの懐に手を入れた。
 その時気付く。

――扇子が無い!

 慌てて辺りを見回すも、決して手放す事の無かったあの扇子はどこにも無い。
 真っ青になる柚希だったが、その姿を見た銀時は口の端を少し上げながら言った。

「探し物はこれか?」

 見ると、銀時の手には柚希の扇子が握られている。

「返して!」

 咄嗟に柚希が飛びつけば、「おっと」と、軽くかわす銀時。まるで子供をいなすかのように扱われ、腹立たしさに柚希は唇を噛んだ。

「そんなに大事なのか? これが」
「あんたには関係ない! 良いからさっさと返してよ!」
「本当にお前のだったらな」
「私のに決まってるでしょ! 他の誰の物でもないわ。私にしか扱えない代物なんだから」
「って事は……」

 容赦なくぶつけられる柚希の殺気を物ともせず、銀時がフッと笑みを浮かべる。それが心の底から嬉しそうで、柚希は戸惑った。

「何よその笑顔。気味悪いんだけど」
「これが笑わずにいられるかって―の」

 そう言って銀時が広げた扇子には、こう書かれていた。

『高杉 坂田 桂 坂本』

「お前が姫だって証拠、だな」

 扇子の文字を見て嬉しそうな、懐かしそうな表情を見せる銀時。そのままの顔で柚希と扇子を交互に見つめる姿は、柚希の心に不思議な感情を芽生えさせた。
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