第二章 ~松陽~(83P)
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「これって親父様が持ってた刀だよね。ひょっとしてもらったの?」
そう言って刀に手を伸ばし、触れようとした時――。
ヒュンッ! と空を切り裂く音が響く。見ればそこには抜刀した少年。そして少し離れた場所には、たった今地面に着地したばかりの柚希の姿があった。
「あっぶな……っ! あと一瞬遅れてたら死んでたわよ。何してくれるわけ!?」
どうやら柚希は少年の動きを機敏に察知し、瞬時に刀から飛び逃れていたらしい。それは皮肉にも松陽との出会いから今日までの学びが実戦で活かされた、初めての瞬間だった。
まさか避けられるとは思っていなかったのか、驚いた表情で立ち尽くす少年を睨みつけた柚希は、地面の砂利を少年に向けて蹴り上げる。咄嗟に顔を庇ったところを見計らい、走り寄った柚希は少年の刀を手刀で叩き落すと蹴り飛ばした。
そのまま流れるように少年の腕を後ろに捻り上げ、地面に押さえつける。
「もう刀を向けないって約束できる?」
逃げようともがく少年をしっかりと押さえながら柚希は言った。しかし答えは無く、ただ暴れるだけ。
「ちゃんと答えなさいよ。危ない事はしないって約束出来たら放してあげるから」
柚希としても、確約が無ければ危険過ぎて野放しには出来ない。だからこそ何とかして本人の口から、その答えを引き出したかった。
ところが――。
「約束信じるはバカ。みんな俺殺したい」
柚希がようやく耳にできたのは、心が冷たく凍り付いた少年のたどたどしくも悲しい言葉で。まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなかった柚希は、言葉に詰まってしまう。
だがせっかく会話が成り立ち始めたのだ。相変わらずもがき続ける少年を押さえながらも、次に自分が何をすべきか必死に考えた。
「だったら……」
刀が手の届かない場所まで飛んでいることを確認した柚希は、ゆっくりと少年を押さえていた手を放す。そしてその手を少年の頭へと移動し、白い髪を優しく撫でた。
何が起こっているのか分からないのか、体はうつ伏せのまま頭を上げた少年の目に映るのは、自信ありげに笑う柚希の顔。
「私が約束を守ってあげる。私は君を殺さない。この手で君を傷付けたりはしない」
「嘘。白い鬼殺される。お前俺を白い鬼って言った」
「それは噂の話だもん。目の前にいる君は人間だし、私には君を殺す理由も無い。私は今まで誰かを殺した事なんて無いし、これからもしないよ。その代わりいつでも頭を撫でてあげる」
そう言いながら少年の頭を撫で続ける柚希。
「殺すなんて物騒な事をするより、こうやってモフモフしてる方が絶対良いもん。って言うか君の髪、見てくれよりも柔らかくて気持ち良いね。何か白い子犬を撫でてる気分。……そうだ、名前を教えてくれないんだったらいっその事『シロ』って呼んじゃっても良いよね。白い髪の子でシロちゃん。よし、決定」
「なっ……! 俺の名前は……」
「『シロ』です」
「ちが……っ」
「はいご一緒に。『僕の名前はシロちゃんです』」
「だから……」
柚希のペースに呑まれてしまった少年は柚希の手を振り払う事も、この場を離れる事も思いつかない程に混乱している。
松陽が戻った時には、二人して地面に座り込んだまま柚希に頭を撫でられ続け、疲れ切って毒気の抜かれた少年の姿があった。
そう言って刀に手を伸ばし、触れようとした時――。
ヒュンッ! と空を切り裂く音が響く。見ればそこには抜刀した少年。そして少し離れた場所には、たった今地面に着地したばかりの柚希の姿があった。
「あっぶな……っ! あと一瞬遅れてたら死んでたわよ。何してくれるわけ!?」
どうやら柚希は少年の動きを機敏に察知し、瞬時に刀から飛び逃れていたらしい。それは皮肉にも松陽との出会いから今日までの学びが実戦で活かされた、初めての瞬間だった。
まさか避けられるとは思っていなかったのか、驚いた表情で立ち尽くす少年を睨みつけた柚希は、地面の砂利を少年に向けて蹴り上げる。咄嗟に顔を庇ったところを見計らい、走り寄った柚希は少年の刀を手刀で叩き落すと蹴り飛ばした。
そのまま流れるように少年の腕を後ろに捻り上げ、地面に押さえつける。
「もう刀を向けないって約束できる?」
逃げようともがく少年をしっかりと押さえながら柚希は言った。しかし答えは無く、ただ暴れるだけ。
「ちゃんと答えなさいよ。危ない事はしないって約束出来たら放してあげるから」
柚希としても、確約が無ければ危険過ぎて野放しには出来ない。だからこそ何とかして本人の口から、その答えを引き出したかった。
ところが――。
「約束信じるはバカ。みんな俺殺したい」
柚希がようやく耳にできたのは、心が冷たく凍り付いた少年のたどたどしくも悲しい言葉で。まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなかった柚希は、言葉に詰まってしまう。
だがせっかく会話が成り立ち始めたのだ。相変わらずもがき続ける少年を押さえながらも、次に自分が何をすべきか必死に考えた。
「だったら……」
刀が手の届かない場所まで飛んでいることを確認した柚希は、ゆっくりと少年を押さえていた手を放す。そしてその手を少年の頭へと移動し、白い髪を優しく撫でた。
何が起こっているのか分からないのか、体はうつ伏せのまま頭を上げた少年の目に映るのは、自信ありげに笑う柚希の顔。
「私が約束を守ってあげる。私は君を殺さない。この手で君を傷付けたりはしない」
「嘘。白い鬼殺される。お前俺を白い鬼って言った」
「それは噂の話だもん。目の前にいる君は人間だし、私には君を殺す理由も無い。私は今まで誰かを殺した事なんて無いし、これからもしないよ。その代わりいつでも頭を撫でてあげる」
そう言いながら少年の頭を撫で続ける柚希。
「殺すなんて物騒な事をするより、こうやってモフモフしてる方が絶対良いもん。って言うか君の髪、見てくれよりも柔らかくて気持ち良いね。何か白い子犬を撫でてる気分。……そうだ、名前を教えてくれないんだったらいっその事『シロ』って呼んじゃっても良いよね。白い髪の子でシロちゃん。よし、決定」
「なっ……! 俺の名前は……」
「『シロ』です」
「ちが……っ」
「はいご一緒に。『僕の名前はシロちゃんです』」
「だから……」
柚希のペースに呑まれてしまった少年は柚希の手を振り払う事も、この場を離れる事も思いつかない程に混乱している。
松陽が戻った時には、二人して地面に座り込んだまま柚希に頭を撫でられ続け、疲れ切って毒気の抜かれた少年の姿があった。