第二章 ~松陽~(83P)
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「血が繋がってないのに、家族になれるんですか?」
「なれますよ。確かに血は繋がっていませんが、そこはお互いの心がけ次第です」
「では、私たちはどのような関係になるのですか?」
「それはやっぱり兄と妹……ですかね?」
「おじ……お兄さんは何歳なんですか? 父さまと同じくらいの年に見えますが」
「……言い直さなきゃ呼べないくらい年上に見えますかぁ?」
わざとらしく泣き真似をする男にため息を吐きながらも何だかおかしくなってきてしまい、柚希の顔が少しずつ明るくなっていく。
「見えます!」
「断言ですか……傷付いちゃいますねぇ。では仕方ありません。貴女のもう一人の父という存在ではいかがですか?」
「もう一人の父さま……」
「それなら問題ないでしょう? そうですねぇ、『父さま』は貴女の大切な方の呼び名なので、私は『親父様』なんてのが良いかもしれません。あ、『父上様』や『パパ』なんかも可愛くて良い……」
「『親父様』で」
「……さっきから思ってましたが、結構はっきり言う方ですよね。被せながらの即答とは」
「貴方がふざけてるだけです」
厳しい突っ込みを入れた柚希の顔には、いつしか笑みが浮かんでいて。その変化を目の当たりにしていた男は嬉しそうに目を細めた。
「では今この瞬間から我々は親子になったという事ですが、ここで一つ問題を思い出しました」
優しい笑みを浮かべたまま、男は人差し指を立てて見せる。一体どんな問題なのかと柚希がその指を見つめると、不意に真剣な面持ちになった男は言った。
「お互いの名前を未だ知りません」
「あ、確かに」
「こんなに一杯喋ってたのに、自己紹介してなかったんだ~」と笑う柚希からはもう、完全に男への警戒心は消えている。
「私は吉田松陽と言います」
「私は柚希です」
「では、今日から貴女は吉田柚希と名乗って下さいね。そして私の事は『親父様』と呼ぶように」
「はい、親父様」
「……もう一回呼んでくれます?」
「親父様」
「いやぁ、何か良いですねぇ。ちょっと照れちゃいますけど」
そう言って照れ臭そうに笑いながら頭を掻く松陽に、柚希は子供らしい満面の笑みを見せるのだった。
こうして松陽と出会った柚希は、その後しばらく二人で住まいを転々としながら安息の地を探して旅をしていた。
その間柚希は、時間の許す限り松陽から様々な学びを得る。
元々それなりの学はあり読み書きも出来た事から、どちらかと言うと生きる術を優先して教え込まれた。
文明の利器の無い場所での生きる術から武術はもちろん、何故か敵から逃げる術や罠の張り方まで。普通に生活していたら知ることのなかったであろう、ありとあらゆる技術に柚希は触れていた。
ある日柚希がその事を疑問に思い、「何故こんな事を覚えなければならないの?」と訊ねた事がある。
「生きると言うことは、大変な事なんです」
いついかなる時でもニコニコと笑顔を絶やさぬ松陽がそう言いながらふと見せた遠い目は、柚希の心に強く焼き付いた。
「なれますよ。確かに血は繋がっていませんが、そこはお互いの心がけ次第です」
「では、私たちはどのような関係になるのですか?」
「それはやっぱり兄と妹……ですかね?」
「おじ……お兄さんは何歳なんですか? 父さまと同じくらいの年に見えますが」
「……言い直さなきゃ呼べないくらい年上に見えますかぁ?」
わざとらしく泣き真似をする男にため息を吐きながらも何だかおかしくなってきてしまい、柚希の顔が少しずつ明るくなっていく。
「見えます!」
「断言ですか……傷付いちゃいますねぇ。では仕方ありません。貴女のもう一人の父という存在ではいかがですか?」
「もう一人の父さま……」
「それなら問題ないでしょう? そうですねぇ、『父さま』は貴女の大切な方の呼び名なので、私は『親父様』なんてのが良いかもしれません。あ、『父上様』や『パパ』なんかも可愛くて良い……」
「『親父様』で」
「……さっきから思ってましたが、結構はっきり言う方ですよね。被せながらの即答とは」
「貴方がふざけてるだけです」
厳しい突っ込みを入れた柚希の顔には、いつしか笑みが浮かんでいて。その変化を目の当たりにしていた男は嬉しそうに目を細めた。
「では今この瞬間から我々は親子になったという事ですが、ここで一つ問題を思い出しました」
優しい笑みを浮かべたまま、男は人差し指を立てて見せる。一体どんな問題なのかと柚希がその指を見つめると、不意に真剣な面持ちになった男は言った。
「お互いの名前を未だ知りません」
「あ、確かに」
「こんなに一杯喋ってたのに、自己紹介してなかったんだ~」と笑う柚希からはもう、完全に男への警戒心は消えている。
「私は吉田松陽と言います」
「私は柚希です」
「では、今日から貴女は吉田柚希と名乗って下さいね。そして私の事は『親父様』と呼ぶように」
「はい、親父様」
「……もう一回呼んでくれます?」
「親父様」
「いやぁ、何か良いですねぇ。ちょっと照れちゃいますけど」
そう言って照れ臭そうに笑いながら頭を掻く松陽に、柚希は子供らしい満面の笑みを見せるのだった。
こうして松陽と出会った柚希は、その後しばらく二人で住まいを転々としながら安息の地を探して旅をしていた。
その間柚希は、時間の許す限り松陽から様々な学びを得る。
元々それなりの学はあり読み書きも出来た事から、どちらかと言うと生きる術を優先して教え込まれた。
文明の利器の無い場所での生きる術から武術はもちろん、何故か敵から逃げる術や罠の張り方まで。普通に生活していたら知ることのなかったであろう、ありとあらゆる技術に柚希は触れていた。
ある日柚希がその事を疑問に思い、「何故こんな事を覚えなければならないの?」と訊ねた事がある。
「生きると言うことは、大変な事なんです」
いついかなる時でもニコニコと笑顔を絶やさぬ松陽がそう言いながらふと見せた遠い目は、柚希の心に強く焼き付いた。