「貴女は年の割に、一人でため込む頑張り屋さんのようですが……大人に頼るのは嫌ですか？」

　何度も柚希の涙を拭いながら、男は言った。

「貴女に何があったのか、どうしてこんな所にいるのかは知りません。でも一つだけ分かるのは、貴女が今孤独を感じているという事です。それならせっかくのご縁ですし、私と一緒に行きませんか？」
「……はい？」

　それは、見ず知らずの男からの突然の誘い。さすがに柚希も目を丸くしながら首を横に振ったが、男は不思議と諦めなかった。

「お互い独りのまま生きるよりも、誰かと一緒の方が絶対楽しいです。それに未だ貴女は独りで生きるには幼過ぎる。大人が側にいる方が、何かと便利だと思いますよ」

　確かにそれは男の言う通りだった。宿はおろか、買い物をするにも相手は自分の後ろに大人の影を探している。『お遣い』という名目を使っても、やはり限度はあるだろう。

「私もそろそろ独りは飽きたので、貴女がいてくれると嬉しいです。是非一緒に『いきましょう』」

　ね？　と言って顔を覗き込んでくる男の言葉に、柚希の心は揺れていた。
　この森に入ってから未だ一日と経っていないというのに、どれだけ泣いた事だろう。このまま独りでいればきっと、悲しみの涙が渇くことなど無い。
　でももし誰かが側にいてくれれば……。

「あの……」

　揺れる心で男への答えを探していた時、ふと柚希の頭に疑問が生まれた。

「何ですか？」
「おじさ……お兄さんは『一緒にいきましょう』と言いましたが、それはどこかに『行く』のですか？　それとも『生きる』のですか？」

　そう柚希が問うと、男は驚いたように目を見開いた。そして何故かプッと吹き出すと、満面の笑みで柚希の頭を撫でる。

「いやぁ、凄い。貴女は本当に聡い子ですね。未だこんなに幼いというのに、まるで禅問答のように深い質問を投げかけてくる」

　その笑顔があまりに嬉しそうだったため、柚希は少し戸惑った。

「私は何か変な事を言ったんでしょうか？」
「違いますよ。むしろ素晴らしい事を言ったんです。……そうですね、答えとしては『両方』ですよ。『一緒に生きて行きましょう』」
「両方……」
「ええ、私は貴女に側にいてもらいたいです。……家族として」
「家族として……」

『家族』

　その言葉は、亡くしたばかりの柚希を悲しませる物のはずだったのに。今この男に紡がれる事で、いつの間にか優しい希望へと変貌を遂げていた。