第二章 ~松陽~(83P)
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「勝手に取らないで! おじさんは盗賊か何かなの!?」
渾身の力で男を押さえつけ、その動きを止めさせる。大の大人に立ち向かう事は恐怖でしかなったが、それでも柚希は必死に立ち向かった。
ところが男はあっさりとした物で。
「勝手に取ったりはしませんよ。ちょっと見せてもらっただけですから」
と言って柚希の妨害をものともせず、取り出した物を全てリュックにしまった。
「おじさんと言われたのはちょっぴりショックですが……それよりもさっきから気になっていたので確認させてもらいました。貴方、家出でもしたんですか?」
「え?」
思いもよらぬ質問に、柚希は目を丸くする。
だが確かに家を出ては来たものの、多分この男が思っている家出とは違うはずだ。柚希は質問の答えを言葉にはせず、首を横に振った。
「そうですか……こんな場所に女の子が一人、しかもこんなにたくさんの食料を持ち歩いているというのは、普通じゃありませんからね。ひょっとしてと思ったんです。じゃあ帰る場所はあるんですね」
「帰る……場所……」
それは、柚希の心を抉る言葉。
一人で生きると決めた柚希が、思い出と共に置いて来たあの場所はもう、自分を受け入れる事は無いだろう。
「帰る場所は……」
「無い」と言うには辛すぎて、言葉に詰まった。
それでも何かを答えなきゃいけないと、指が食い込みそうな程に強く自らの喉を掴む。
そんな柚希の姿を見た男はどうしたか。
「私と一緒ですね」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
頭の上から聞こえた声は、ふわりと優しい温もりを呼び込む。何かに包まれていると気付いた時にはもう、柚希の体は男の腕に抱きしめられていた。
「私も帰る場所が無いんです。いわゆる風来坊ってやつですかね」
そう言いながら、柚希の頭を撫でる男の手はとても大きくて温かい。まるで父親に撫でられているような感覚は、張りつめていた柚希の心を緩ませていく。
「今の私は独りぼっちなんです。貴女もそうなんでしょう? でなきゃ……」
柚希の頭を撫でていた大きな手が移動し、頬に触れる。ゆっくりと目の下をなぞった親指は、熱く濡れていた。
「こんな悲しい涙を流すはずないですものね」
言われてハッと気付いた柚希が自分の頬に触れると、そこには幾筋もの涙の跡。自分でも訳が分からず驚いて見上げれば、そこには男の悲し気な笑みがあった。
渾身の力で男を押さえつけ、その動きを止めさせる。大の大人に立ち向かう事は恐怖でしかなったが、それでも柚希は必死に立ち向かった。
ところが男はあっさりとした物で。
「勝手に取ったりはしませんよ。ちょっと見せてもらっただけですから」
と言って柚希の妨害をものともせず、取り出した物を全てリュックにしまった。
「おじさんと言われたのはちょっぴりショックですが……それよりもさっきから気になっていたので確認させてもらいました。貴方、家出でもしたんですか?」
「え?」
思いもよらぬ質問に、柚希は目を丸くする。
だが確かに家を出ては来たものの、多分この男が思っている家出とは違うはずだ。柚希は質問の答えを言葉にはせず、首を横に振った。
「そうですか……こんな場所に女の子が一人、しかもこんなにたくさんの食料を持ち歩いているというのは、普通じゃありませんからね。ひょっとしてと思ったんです。じゃあ帰る場所はあるんですね」
「帰る……場所……」
それは、柚希の心を抉る言葉。
一人で生きると決めた柚希が、思い出と共に置いて来たあの場所はもう、自分を受け入れる事は無いだろう。
「帰る場所は……」
「無い」と言うには辛すぎて、言葉に詰まった。
それでも何かを答えなきゃいけないと、指が食い込みそうな程に強く自らの喉を掴む。
そんな柚希の姿を見た男はどうしたか。
「私と一緒ですね」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
頭の上から聞こえた声は、ふわりと優しい温もりを呼び込む。何かに包まれていると気付いた時にはもう、柚希の体は男の腕に抱きしめられていた。
「私も帰る場所が無いんです。いわゆる風来坊ってやつですかね」
そう言いながら、柚希の頭を撫でる男の手はとても大きくて温かい。まるで父親に撫でられているような感覚は、張りつめていた柚希の心を緩ませていく。
「今の私は独りぼっちなんです。貴女もそうなんでしょう? でなきゃ……」
柚希の頭を撫でていた大きな手が移動し、頬に触れる。ゆっくりと目の下をなぞった親指は、熱く濡れていた。
「こんな悲しい涙を流すはずないですものね」
言われてハッと気付いた柚希が自分の頬に触れると、そこには幾筋もの涙の跡。自分でも訳が分からず驚いて見上げれば、そこには男の悲し気な笑みがあった。