第二章 ~松陽~(83P)
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「驚かせてしまってすみません。水の音が聞こえたので来てみたのですが、先客がいらしたんですね」
そう言うと男はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。万が一を考えて水筒を握り締めた柚希は、いつでも反撃できるよう男を正面にしながら様子を伺っていた。
「あまりの暑さに水筒が空っぽになっちゃいまして。私も水を汲ませて下さいね」
柚希を怯えさせないよう気を使ってか、適度な距離を保った場所で水を汲む。そして柚希と同じくそのまま一気に飲み干すと、プハァっと大きく息を吐いた。
「いやぁ、美味しい。ここの水は奇麗で良いですねぇ。前に通った川は少々濁っていたので、こちらに来て正解でした」
心から嬉しそうな表情で言った男は、再び水筒に水を汲みなおす。蓋をして腰に取り付けると、ゆっくり柚希の方に向き直った。
「アナタはこの辺の子ですか? この辺りは割と山深い場所かと思っていたのですが、実は近くに町か何かがあるのでしょうか」
周りを見渡しても一面大木ばかりで、人が住めるような所ではない。こんな場所に子供が一人でいるのは不思議だと、男の方も疑問に思っていたようだ。
「できれば町に出たいのですが、道を知っていたら教えてもらえると助かります」
ニコニコと柔らかな笑顔を見せながら言う男に、疚しい所は感じられない。警戒を解きはしなかったが、両親を亡くしてから数日ぶりに見る人の笑顔にどこか安心したのか、柚希は答えた。
「すぐそこのケモノ道を向こうに三十分ほど歩けば、整備された山道にぶつかります。その道が町に通じているので行ってみて下さい」
それは自分が昨日歩いてきた道。そしてもう、戻る事の無いであろう道。
説明をしながら胸の痛みを感じてはいたが、柚希は毅然とした態度で男に説明をした。
「そうですか……ありがとうございます」
相変わらずニコニコと笑みを浮かべながら礼を言う男に、もうこれで用は済んだだろうと小さく頭を下げて男に背を向けた柚希は、改めて食事をしようとリュックに手をかけた。
すると突然、目の前が暗くなる。
「お食事ですか?」
「……え?」
顔を上げると、いつの間に移動したのか先ほどの男が目の前にしゃがみ込み、リュックの中を覗き込んでいた。
「色々と入ってますねぇ。これだけあれば数日は食べていけそうだ」
「それは……っ!」
当たり前のように中身を取り出し、吟味し出す男。だがこれは柚希にとって、1日でも長く生き抜く為の糧だ。その貴重な食料を奪われてはなるまいと、柚希は慌てて男の腕に縋り付いた。
そう言うと男はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。万が一を考えて水筒を握り締めた柚希は、いつでも反撃できるよう男を正面にしながら様子を伺っていた。
「あまりの暑さに水筒が空っぽになっちゃいまして。私も水を汲ませて下さいね」
柚希を怯えさせないよう気を使ってか、適度な距離を保った場所で水を汲む。そして柚希と同じくそのまま一気に飲み干すと、プハァっと大きく息を吐いた。
「いやぁ、美味しい。ここの水は奇麗で良いですねぇ。前に通った川は少々濁っていたので、こちらに来て正解でした」
心から嬉しそうな表情で言った男は、再び水筒に水を汲みなおす。蓋をして腰に取り付けると、ゆっくり柚希の方に向き直った。
「アナタはこの辺の子ですか? この辺りは割と山深い場所かと思っていたのですが、実は近くに町か何かがあるのでしょうか」
周りを見渡しても一面大木ばかりで、人が住めるような所ではない。こんな場所に子供が一人でいるのは不思議だと、男の方も疑問に思っていたようだ。
「できれば町に出たいのですが、道を知っていたら教えてもらえると助かります」
ニコニコと柔らかな笑顔を見せながら言う男に、疚しい所は感じられない。警戒を解きはしなかったが、両親を亡くしてから数日ぶりに見る人の笑顔にどこか安心したのか、柚希は答えた。
「すぐそこのケモノ道を向こうに三十分ほど歩けば、整備された山道にぶつかります。その道が町に通じているので行ってみて下さい」
それは自分が昨日歩いてきた道。そしてもう、戻る事の無いであろう道。
説明をしながら胸の痛みを感じてはいたが、柚希は毅然とした態度で男に説明をした。
「そうですか……ありがとうございます」
相変わらずニコニコと笑みを浮かべながら礼を言う男に、もうこれで用は済んだだろうと小さく頭を下げて男に背を向けた柚希は、改めて食事をしようとリュックに手をかけた。
すると突然、目の前が暗くなる。
「お食事ですか?」
「……え?」
顔を上げると、いつの間に移動したのか先ほどの男が目の前にしゃがみ込み、リュックの中を覗き込んでいた。
「色々と入ってますねぇ。これだけあれば数日は食べていけそうだ」
「それは……っ!」
当たり前のように中身を取り出し、吟味し出す男。だがこれは柚希にとって、1日でも長く生き抜く為の糧だ。その貴重な食料を奪われてはなるまいと、柚希は慌てて男の腕に縋り付いた。