第二章 ~松陽~(83P)
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あれは、未だ残暑の厳しかった夏の終わり。
家族が殺され、身寄りも無かった柚希は、子供ながらに一人で生きて行こうと決意した。
惨劇の事後処理だけは役人を通して片が付いたものの、それ以外は誰一人手を差し伸べてくれる者も無く、向けられるのは哀れみの眼差しばかりで。
生まれた時からの馴染みの地ではあっても、この場所に未来を見出せなかった柚希が町を出たのは、家族との永の別れから三日後の事だった。
以前母と出掛けた隣町でいくらかの食料を買い、ついでに宿を探したが、子供だけだと分かればやんわりと拒否される。仕方なく柚希は少し離れた場所にある、何度か遊んだ森へと足を向けた。どうせ戻る事は無いのだからと、大人たちに「ここより先には行くな」と言われていた境界を超え、奥深くまで歩き続ける。
森に入った時には未だ明るかった事もあり、柚希の心にも余裕はあった。
だが次第に暗くなってくれば、やはり不安は募るもの。たまたま見つけた木の洞に身を寄せてはみたが、風や木の葉ずれの音が聞こえる度にビクリと驚き、なかなか眠る事が出来なかった。
「父さま……母さま……」
もう何度目か分からない涙を流す。
二人が生きていれば、すぐに飛んできてこの涙を拭ってくれるのに。今はただ、地に吸い込まれていくだけ。
「……っく……何で私だけ……置いてっちゃったの……」
未だ十にも満たない子供だというのに泣き喚くでもなく、ただ嗚咽を堪えて震え泣く姿は、見ている者がいれば胸が締め付けられる事だろう。
一人で生きなければならないという現実と、悲しみと恐怖の綯交ぜになった小さな嗚咽は柚希が泣き疲れて眠るまで続いていた。
ふと柚希が目を覚ますと、既に日は昇っていた。洞の中にまで届く光の眩しさに目を瞬かせた柚希は、ゆっくり外へと這い出る。固まってしまった体を動かしながら辺りを見回すと、木漏れ日の中を小鳥が歌い、穏やかな風景が広がっていた。
「この森なら一応食べ物が生る木もあるし、水もある。いくらかの薬草なら分かるから薬も作れるし、生きて行けるかなぁ」
空を見上げながら呟く。木漏れ日は何も答えてはくれなかったが、それでもほんの少しだけ柚希の心を癒してくれた。
「明るい内に、水を汲んでおこう」
木の洞の奥に入れておいたリュックを取り出して背負った柚希は、川を目指して歩きだす。途中で小動物を見かけ追いかけはしたものの、やはり一人では楽しくないとまたすぐに川へと向かっていった。
やがてサラサラと聞こえてくる水の音。ほっとしながら川辺に向かいリュックだけを降ろすと、着物のまま水の中へと入っていく。歩き疲れて汗だくになっていた体に、川の水は心地よかった。
びしょ濡れのまま川から上がった柚希は、水筒を取り出す。水を汲み、そのまま一気に飲み干すとようやく人心地ついたのか、ほっとしたような笑みを浮かべた。と同時に鳴る腹の虫。
「そう言えば、夕べから何も食べてなかったっけ」
緊張が続き、食べる事を忘れていたのだろう。ようやく自分の体に目を向けられる余裕が出来てきたのか、空腹に気付いた柚希の腹は、待ちきれないと騒ぎだす。
「何食べよっかな」
自分の好きな物ばかりを詰め込んであるリュックの中身をひっくり返し、選んでいた時だった。
パキッ、と枯れ木を踏む音が聞こえ、何かが近付いて来たのに気付く。
「誰っ!?」
ビクリと飛び上がって驚いた柚希が音のした方を見ると、そこには一人の長髪の男が優しく微笑みながら立っていた。
家族が殺され、身寄りも無かった柚希は、子供ながらに一人で生きて行こうと決意した。
惨劇の事後処理だけは役人を通して片が付いたものの、それ以外は誰一人手を差し伸べてくれる者も無く、向けられるのは哀れみの眼差しばかりで。
生まれた時からの馴染みの地ではあっても、この場所に未来を見出せなかった柚希が町を出たのは、家族との永の別れから三日後の事だった。
以前母と出掛けた隣町でいくらかの食料を買い、ついでに宿を探したが、子供だけだと分かればやんわりと拒否される。仕方なく柚希は少し離れた場所にある、何度か遊んだ森へと足を向けた。どうせ戻る事は無いのだからと、大人たちに「ここより先には行くな」と言われていた境界を超え、奥深くまで歩き続ける。
森に入った時には未だ明るかった事もあり、柚希の心にも余裕はあった。
だが次第に暗くなってくれば、やはり不安は募るもの。たまたま見つけた木の洞に身を寄せてはみたが、風や木の葉ずれの音が聞こえる度にビクリと驚き、なかなか眠る事が出来なかった。
「父さま……母さま……」
もう何度目か分からない涙を流す。
二人が生きていれば、すぐに飛んできてこの涙を拭ってくれるのに。今はただ、地に吸い込まれていくだけ。
「……っく……何で私だけ……置いてっちゃったの……」
未だ十にも満たない子供だというのに泣き喚くでもなく、ただ嗚咽を堪えて震え泣く姿は、見ている者がいれば胸が締め付けられる事だろう。
一人で生きなければならないという現実と、悲しみと恐怖の綯交ぜになった小さな嗚咽は柚希が泣き疲れて眠るまで続いていた。
ふと柚希が目を覚ますと、既に日は昇っていた。洞の中にまで届く光の眩しさに目を瞬かせた柚希は、ゆっくり外へと這い出る。固まってしまった体を動かしながら辺りを見回すと、木漏れ日の中を小鳥が歌い、穏やかな風景が広がっていた。
「この森なら一応食べ物が生る木もあるし、水もある。いくらかの薬草なら分かるから薬も作れるし、生きて行けるかなぁ」
空を見上げながら呟く。木漏れ日は何も答えてはくれなかったが、それでもほんの少しだけ柚希の心を癒してくれた。
「明るい内に、水を汲んでおこう」
木の洞の奥に入れておいたリュックを取り出して背負った柚希は、川を目指して歩きだす。途中で小動物を見かけ追いかけはしたものの、やはり一人では楽しくないとまたすぐに川へと向かっていった。
やがてサラサラと聞こえてくる水の音。ほっとしながら川辺に向かいリュックだけを降ろすと、着物のまま水の中へと入っていく。歩き疲れて汗だくになっていた体に、川の水は心地よかった。
びしょ濡れのまま川から上がった柚希は、水筒を取り出す。水を汲み、そのまま一気に飲み干すとようやく人心地ついたのか、ほっとしたような笑みを浮かべた。と同時に鳴る腹の虫。
「そう言えば、夕べから何も食べてなかったっけ」
緊張が続き、食べる事を忘れていたのだろう。ようやく自分の体に目を向けられる余裕が出来てきたのか、空腹に気付いた柚希の腹は、待ちきれないと騒ぎだす。
「何食べよっかな」
自分の好きな物ばかりを詰め込んであるリュックの中身をひっくり返し、選んでいた時だった。
パキッ、と枯れ木を踏む音が聞こえ、何かが近付いて来たのに気付く。
「誰っ!?」
ビクリと飛び上がって驚いた柚希が音のした方を見ると、そこには一人の長髪の男が優しく微笑みながら立っていた。