第二章 ~松陽~(83P)
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「行かせちまって良かったのか? 知り合いじゃねェのかよ」
「……そうだけど、そうじゃないんです」
「なんだそりゃ。俺には随分深い仲に見えたがな。万事屋は知ってるのか?」
「さぁ、どうかなぁ……私にも分かりません」
困ったように笑う柚希。その顔は驚くほどに儚く見え、土方の眉間にしわが寄った。
「何を隠してんだかは知らねェが、大事になる前に片付けるなり、腹割って話すなりしておけよ」
懐から煙草を取り出し、口に銜える。マヨライターで火を点けると、胸いっぱいに煙を吸い込んだ。
――強いのか弱いのか、分かんねー女だな。
本当はここでもっと突っ込んで話を聞くべきなのだろうが、柚希の顔を見ているとそれは許されない気がしてしまって。
言いたい事を口にする代わりに土方は、柚希にかからないよう顔の向きを変え、白い煙を吐くのだった。
「万事屋まで送るか?」という土方の心遣いを丁重に断った柚希は、当初の予定通り肉屋を訪れ、帰る道すがら味噌も買い、何事も無かったかのように万事屋へと戻った。
既に仕事を終えて帰っていた銀時が「今まで何やってたんだよ」と不貞腐れているのを軽くいなし、「片付けついでにお茶の準備をしてくるね」と言って台所へと食材を運ぶ。
別件で動いている新八と神楽は未だ帰ってきてはいないようだ。ならば今の内に簡単な食事の仕込みが出来ればと、まずは袋の中身を所定の位置にしまっていく柚希だったが、ふと自分の手首に目がいった。
先ほどの男に捕らわれた際、握られた指の跡がくっきりと残った細い手首は痛々しく、あの時の恐怖を思い起こさせる。
「忘れたままだったら、こんな風に悩む事は無かったのかなぁ」
記憶とは、こうもままならない物なのかと痛む胸。犯してしまった罪を、真っ白に拭い去ることは出来ないのだと分かっているから。
「私は……どうすれば良いの? 親父様」
手首に付いた跡が隠れるようにと、袖を伸ばした。そのまま組んだ手を唇に押し当て、小さく震える声で言う。
「全てを過去にしてしまえる程、私は強くなれそうにないよ」
「何の話だ?」
しまった、と思った時には遅かった。
完全に気配を消して台所の入り口に立っていた銀時は、一体いつから自分を見ていたのだろうと柚希は思わず焦ってしまう。
だが次の瞬間、銀時の方を振り向いた柚希が見せたのは『笑顔』だった。
「……そうだけど、そうじゃないんです」
「なんだそりゃ。俺には随分深い仲に見えたがな。万事屋は知ってるのか?」
「さぁ、どうかなぁ……私にも分かりません」
困ったように笑う柚希。その顔は驚くほどに儚く見え、土方の眉間にしわが寄った。
「何を隠してんだかは知らねェが、大事になる前に片付けるなり、腹割って話すなりしておけよ」
懐から煙草を取り出し、口に銜える。マヨライターで火を点けると、胸いっぱいに煙を吸い込んだ。
――強いのか弱いのか、分かんねー女だな。
本当はここでもっと突っ込んで話を聞くべきなのだろうが、柚希の顔を見ているとそれは許されない気がしてしまって。
言いたい事を口にする代わりに土方は、柚希にかからないよう顔の向きを変え、白い煙を吐くのだった。
「万事屋まで送るか?」という土方の心遣いを丁重に断った柚希は、当初の予定通り肉屋を訪れ、帰る道すがら味噌も買い、何事も無かったかのように万事屋へと戻った。
既に仕事を終えて帰っていた銀時が「今まで何やってたんだよ」と不貞腐れているのを軽くいなし、「片付けついでにお茶の準備をしてくるね」と言って台所へと食材を運ぶ。
別件で動いている新八と神楽は未だ帰ってきてはいないようだ。ならば今の内に簡単な食事の仕込みが出来ればと、まずは袋の中身を所定の位置にしまっていく柚希だったが、ふと自分の手首に目がいった。
先ほどの男に捕らわれた際、握られた指の跡がくっきりと残った細い手首は痛々しく、あの時の恐怖を思い起こさせる。
「忘れたままだったら、こんな風に悩む事は無かったのかなぁ」
記憶とは、こうもままならない物なのかと痛む胸。犯してしまった罪を、真っ白に拭い去ることは出来ないのだと分かっているから。
「私は……どうすれば良いの? 親父様」
手首に付いた跡が隠れるようにと、袖を伸ばした。そのまま組んだ手を唇に押し当て、小さく震える声で言う。
「全てを過去にしてしまえる程、私は強くなれそうにないよ」
「何の話だ?」
しまった、と思った時には遅かった。
完全に気配を消して台所の入り口に立っていた銀時は、一体いつから自分を見ていたのだろうと柚希は思わず焦ってしまう。
だが次の瞬間、銀時の方を振り向いた柚希が見せたのは『笑顔』だった。