第四章 〜絆〜(連載中)
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『もちろんケースで準備しておくさ。だから生い先短い老人を慮って、できるだけ早い帰省を頼むよ。それと──』
不意に言葉が途切れる。何か迷いでもあるのだろうか。続きをしばらく待っていた銀時だったが、さすがに耐えられなくなり先を促した。
「おいおいおっさん、変なとこで弱気になんなよ。大丈夫だって。アンタなら間違いなく長生きすっから。憎まれっ子が何とやらで、むしろお迎えの方が逃げちまわァ。っつーか未だ何か言うことあんのか?」
どちらかというと貶しに近い慰めに、緒方が苦笑する。だがお陰で何かが吹っ切れたのか「ふむ」と呟いた緒方は、大きく息を吸って言った。
『何を見ても……何があっても柚希ちゃんを信じて守ってあげなさい』
「はァ? 何だよいきなり」
『蚊帳の外にいても、中で何かが起きているってことくらいは分かるもんだよ。しかも先日君が言ってた「柚希ちゃんを苦しめてきた張本人」とやらが絡んでいるとなれば尚更だ。僕も彼とは顔を合わせたからね』
「……」
『さっき柚希ちゃんには伝えたけれど、少なくとも彼は僕の前では悪人じゃ無かった。そうだなぁ……何故だか分からないが、君たちに似たにおいを感じたよ』
「におい?」
『上手く説明できないんだけどね。彼を最初に見た時、何故かあの頃の松下村塾の子供たちが浮かんだんだ。それと同時に松陽くんの困り顔も思い出した。だからこそ、君たちは何があっても信じ合い、助け合って欲しいと思ったんだよ』
「言ってることが唐突過ぎて、意味分かんねーんだけど」
『僕自身消化できてなくて申し訳ない。でも亡き松陽くんの友として──松陽くんから引き継いだ、君たちの親代わりからの言葉として覚えておいて欲しい』
──亡き松陽の友
──親代わり
それは、何よりも重く受け止めなければならない言葉。しかも、緒方が真剣に伝えようとしたものを受け流すなど、銀時にできるはずもない。
「ったく……とりあえず覚えときゃいーんだな」
『そうしてくれると嬉しいよ。何が起きてもキミならきっと柚希ちゃんと……ん? あぁ、もうこんな時間か。すぐに行くから準備を頼めるかい?』
不意に受話器の向こうから小さく女の声が聞こえ、会話を中断させる。どうやら往診の予定が入っていたらしい。看護師と思しき女の焦る声は、既にギリギリの時間であることを伝えてきた。
『すまない、銀時くん。実はこの後予定が立て込んでいてね。ゆっくりと話しをしたいのは山々なんだが、今日のところは失礼するよ』
急いではいながらも、丁寧に説明するところが緒方らしい。出会った時から変わらぬ気遣いに小さく微笑んだ銀時は、わざと大きくため息を吐いて言った。
「相変わらずお忙しいこって。こっちは良いからさっさと行けよ。……体に気をつけてな」
『ありがとう。君たちもね。柚希ちゃんにも宜しく』
「りょーかい」
『それじゃあまた……』
急いで受話器を置こうとしたのか、語尾が遠のく。それに合わせて銀時も受話器を耳から離そうとした。
ところがだ。
『銀時くん!』
自分の名を叫ぶ声が聞こえ、慌てて再び耳に受話器を押し当てた。
「どうした?」
『あの朧という青年は、柚希ちゃんに何を見て、何を求めているんだろう』
「は? いきなり何の話だよ」
『柚希ちゃんを見る彼の目は、キミと同じであると同時に、松陽くんにも似ていたよ』
「それってどういう──」
本当に時間が無かったのだろう。言いたいことだけを言って銀時の返事も待たず、緒方は電話を切ってしまった。
不意に言葉が途切れる。何か迷いでもあるのだろうか。続きをしばらく待っていた銀時だったが、さすがに耐えられなくなり先を促した。
「おいおいおっさん、変なとこで弱気になんなよ。大丈夫だって。アンタなら間違いなく長生きすっから。憎まれっ子が何とやらで、むしろお迎えの方が逃げちまわァ。っつーか未だ何か言うことあんのか?」
どちらかというと貶しに近い慰めに、緒方が苦笑する。だがお陰で何かが吹っ切れたのか「ふむ」と呟いた緒方は、大きく息を吸って言った。
『何を見ても……何があっても柚希ちゃんを信じて守ってあげなさい』
「はァ? 何だよいきなり」
『蚊帳の外にいても、中で何かが起きているってことくらいは分かるもんだよ。しかも先日君が言ってた「柚希ちゃんを苦しめてきた張本人」とやらが絡んでいるとなれば尚更だ。僕も彼とは顔を合わせたからね』
「……」
『さっき柚希ちゃんには伝えたけれど、少なくとも彼は僕の前では悪人じゃ無かった。そうだなぁ……何故だか分からないが、君たちに似たにおいを感じたよ』
「におい?」
『上手く説明できないんだけどね。彼を最初に見た時、何故かあの頃の松下村塾の子供たちが浮かんだんだ。それと同時に松陽くんの困り顔も思い出した。だからこそ、君たちは何があっても信じ合い、助け合って欲しいと思ったんだよ』
「言ってることが唐突過ぎて、意味分かんねーんだけど」
『僕自身消化できてなくて申し訳ない。でも亡き松陽くんの友として──松陽くんから引き継いだ、君たちの親代わりからの言葉として覚えておいて欲しい』
──亡き松陽の友
──親代わり
それは、何よりも重く受け止めなければならない言葉。しかも、緒方が真剣に伝えようとしたものを受け流すなど、銀時にできるはずもない。
「ったく……とりあえず覚えときゃいーんだな」
『そうしてくれると嬉しいよ。何が起きてもキミならきっと柚希ちゃんと……ん? あぁ、もうこんな時間か。すぐに行くから準備を頼めるかい?』
不意に受話器の向こうから小さく女の声が聞こえ、会話を中断させる。どうやら往診の予定が入っていたらしい。看護師と思しき女の焦る声は、既にギリギリの時間であることを伝えてきた。
『すまない、銀時くん。実はこの後予定が立て込んでいてね。ゆっくりと話しをしたいのは山々なんだが、今日のところは失礼するよ』
急いではいながらも、丁寧に説明するところが緒方らしい。出会った時から変わらぬ気遣いに小さく微笑んだ銀時は、わざと大きくため息を吐いて言った。
「相変わらずお忙しいこって。こっちは良いからさっさと行けよ。……体に気をつけてな」
『ありがとう。君たちもね。柚希ちゃんにも宜しく』
「りょーかい」
『それじゃあまた……』
急いで受話器を置こうとしたのか、語尾が遠のく。それに合わせて銀時も受話器を耳から離そうとした。
ところがだ。
『銀時くん!』
自分の名を叫ぶ声が聞こえ、慌てて再び耳に受話器を押し当てた。
「どうした?」
『あの朧という青年は、柚希ちゃんに何を見て、何を求めているんだろう』
「は? いきなり何の話だよ」
『柚希ちゃんを見る彼の目は、キミと同じであると同時に、松陽くんにも似ていたよ』
「それってどういう──」
本当に時間が無かったのだろう。言いたいことだけを言って銀時の返事も待たず、緒方は電話を切ってしまった。