第四章 〜絆〜(連載中)
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ならば、と柚希が話題を変える。
「改めて確認させて下さい。私を運び込んだ男には、目の下に濃い隈がありましたか?」
『ああ、あったよ。彼を見た瞬間に思わず「君も栄養剤を投与していくかい?」と訊いてしまったくらいに疲れた顔をしていてね。でも「必要ない。それよりも傷の処置を」と拒否されたんだ。とにかく柚希ちゃんを心配しているようだったよ』
「心配……?」
緒方の言葉に、柚希は目を丸くした。
「朧が? 私を?」
『あの青年は朧という名前なんだね。彼は君を診察台に横たわらせる時も、抱き上げる時も、まるで壊れ物を扱うかのようだった。傷にも応急処置が施されていたし、歩けるまでには回復できるだろうと伝えたらホッとしていたよ』
「嘘……」
『まあほとんど表情に変化のない青年だったけど、だからこそ「目は口ほどに物を言う」を体現していた気がするな』
「……」
赤の他人であれば微笑ましさを感じさせるエピソード。しかしそれが朧のこととなれば話は別だ。聞いていた柚希は複雑な気分だった。
『柚希ちゃんの傷が治るまで僕が預かろうと言った時も、ほんの一瞬だが迷う素振りを見せていた。理由は分からないけれど、君を思っての迷いだったんじゃないかと感じたよ。もちろんこれは根拠があるわけじゃない。でも、僕も医者としてそれなりに人と接してはきてるから、当たらずとも遠からずだと思う』
「先生が仰るならきっと間違い無いんだと思います。でも……すみません。私には信じられなくて……」
緒方の語りは驚きの連続で、戸惑いが大きくなるばかり。ずっと自分を苦しめてきた存在と『心配』の文字を、柚希はどうしてもイコールにすることができなかった。
『僕の言葉を盲目的に信じる必要はないよ。ただ、この診療所に柚希ちゃんを運び込んだ青年はそういう印象だった。その事実だけ頭の片隅に留めておくくらいで良いんじゃないかな』
電話越しにも柚希の戸惑いは伝わっている。心が少しでも軽くなればと、緒方は優しく言葉をかけた。
「はい……そうします」
『とりあえず、無事に柚希ちゃんが江戸に帰れたことが分かって良かったよ。連絡してくれてありがとう。……ところで、今そこに銀時くんはいるのかい?』
一旦話をまとめた緒方が、今度は銀時を名指しする。
「あ、はい。目の前に」
未だ胸の内にモヤつきを抱えていた柚希が答えると、緒方が明るく言った。
『せっかくだから、彼の声も聞かせてくれるかな? 柚希ちゃんとの再会で喜びに浮かれる銀時くんの声を聞いてみたいしね。からかい甲斐がありそうだ』
「またそういうこと言って……ちょっと待って下さいね。シロ、緒方先生にご挨拶して」
「あん? 何で俺が?」
ここまで寝たフリをしながら聞き耳を立てていた銀時が、面倒くさそうに体を起こす。
「良いからほら、早く!」
高速の手招きをする柚希に不満全開の顔を見せながらも、逆らう気は無いらしい。渋々と立ち上がった銀時は、ふわぁと大きくあくびをして柚希の横に立つと、受話器を受け取った。
「ったく……もしも〜し」
『やあ銀時くん。先日はどうも。柚希ちゃんの帰還報告、嬉しかったよ。こんなに早く連絡をもらえるとは思ってなかったからね』
この電話が銀時の本意では無かったことを察していたのだろう。からかいを混ぜて言ってくる緒方に苦笑しながら、銀時は言った。
「まァ色々あってよ。とりあえず世話んなったな」
『礼を言われるようなことなんて、何もしていないよ』
「んなことねーだろ。おっさんがいなけりゃ、柚希は江戸に帰って来られなかった。間違いなくアンタのおかげだよ。この礼は全てが落ち着いたら必ずすっから。金はねーけど」
『そう言えば柚希ちゃんが「万事屋は万年金欠」とか言ってたなぁ。別にお金なんていらないさ。それよりも一日でも早く二人で顔を見せに来て欲しいな。約束してくれるかい?』
心の底から楽しみにしているのが伝わってくる優しい言葉に、銀時の口角も上がる。だが今銀時が置かれている状況で、明確に誰かと約束などできない。
「……まァ機会があったらな」
答えに迷った末、銀時は曖昧な返事をした。
ところがこれに緒方は納得しない。
『絶対の約束だ。良いね?』
いつも温厚な緒方にしては珍しく、有無を言わせぬ強い口調。まるで魂に訴えかけているかのような真剣さは、銀時の中の否を封じた。
そうなると銀時に残された答えは一つ。
「……イチゴ牛乳飲み放題ってんなら、帰ってやらなくもねーよ」
口にしたのは、最も銀時らしい答え。
これには緒方も『相変わらずだなぁ』と言って笑った。
「改めて確認させて下さい。私を運び込んだ男には、目の下に濃い隈がありましたか?」
『ああ、あったよ。彼を見た瞬間に思わず「君も栄養剤を投与していくかい?」と訊いてしまったくらいに疲れた顔をしていてね。でも「必要ない。それよりも傷の処置を」と拒否されたんだ。とにかく柚希ちゃんを心配しているようだったよ』
「心配……?」
緒方の言葉に、柚希は目を丸くした。
「朧が? 私を?」
『あの青年は朧という名前なんだね。彼は君を診察台に横たわらせる時も、抱き上げる時も、まるで壊れ物を扱うかのようだった。傷にも応急処置が施されていたし、歩けるまでには回復できるだろうと伝えたらホッとしていたよ』
「嘘……」
『まあほとんど表情に変化のない青年だったけど、だからこそ「目は口ほどに物を言う」を体現していた気がするな』
「……」
赤の他人であれば微笑ましさを感じさせるエピソード。しかしそれが朧のこととなれば話は別だ。聞いていた柚希は複雑な気分だった。
『柚希ちゃんの傷が治るまで僕が預かろうと言った時も、ほんの一瞬だが迷う素振りを見せていた。理由は分からないけれど、君を思っての迷いだったんじゃないかと感じたよ。もちろんこれは根拠があるわけじゃない。でも、僕も医者としてそれなりに人と接してはきてるから、当たらずとも遠からずだと思う』
「先生が仰るならきっと間違い無いんだと思います。でも……すみません。私には信じられなくて……」
緒方の語りは驚きの連続で、戸惑いが大きくなるばかり。ずっと自分を苦しめてきた存在と『心配』の文字を、柚希はどうしてもイコールにすることができなかった。
『僕の言葉を盲目的に信じる必要はないよ。ただ、この診療所に柚希ちゃんを運び込んだ青年はそういう印象だった。その事実だけ頭の片隅に留めておくくらいで良いんじゃないかな』
電話越しにも柚希の戸惑いは伝わっている。心が少しでも軽くなればと、緒方は優しく言葉をかけた。
「はい……そうします」
『とりあえず、無事に柚希ちゃんが江戸に帰れたことが分かって良かったよ。連絡してくれてありがとう。……ところで、今そこに銀時くんはいるのかい?』
一旦話をまとめた緒方が、今度は銀時を名指しする。
「あ、はい。目の前に」
未だ胸の内にモヤつきを抱えていた柚希が答えると、緒方が明るく言った。
『せっかくだから、彼の声も聞かせてくれるかな? 柚希ちゃんとの再会で喜びに浮かれる銀時くんの声を聞いてみたいしね。からかい甲斐がありそうだ』
「またそういうこと言って……ちょっと待って下さいね。シロ、緒方先生にご挨拶して」
「あん? 何で俺が?」
ここまで寝たフリをしながら聞き耳を立てていた銀時が、面倒くさそうに体を起こす。
「良いからほら、早く!」
高速の手招きをする柚希に不満全開の顔を見せながらも、逆らう気は無いらしい。渋々と立ち上がった銀時は、ふわぁと大きくあくびをして柚希の横に立つと、受話器を受け取った。
「ったく……もしも〜し」
『やあ銀時くん。先日はどうも。柚希ちゃんの帰還報告、嬉しかったよ。こんなに早く連絡をもらえるとは思ってなかったからね』
この電話が銀時の本意では無かったことを察していたのだろう。からかいを混ぜて言ってくる緒方に苦笑しながら、銀時は言った。
「まァ色々あってよ。とりあえず世話んなったな」
『礼を言われるようなことなんて、何もしていないよ』
「んなことねーだろ。おっさんがいなけりゃ、柚希は江戸に帰って来られなかった。間違いなくアンタのおかげだよ。この礼は全てが落ち着いたら必ずすっから。金はねーけど」
『そう言えば柚希ちゃんが「万事屋は万年金欠」とか言ってたなぁ。別にお金なんていらないさ。それよりも一日でも早く二人で顔を見せに来て欲しいな。約束してくれるかい?』
心の底から楽しみにしているのが伝わってくる優しい言葉に、銀時の口角も上がる。だが今銀時が置かれている状況で、明確に誰かと約束などできない。
「……まァ機会があったらな」
答えに迷った末、銀時は曖昧な返事をした。
ところがこれに緒方は納得しない。
『絶対の約束だ。良いね?』
いつも温厚な緒方にしては珍しく、有無を言わせぬ強い口調。まるで魂に訴えかけているかのような真剣さは、銀時の中の否を封じた。
そうなると銀時に残された答えは一つ。
「……イチゴ牛乳飲み放題ってんなら、帰ってやらなくもねーよ」
口にしたのは、最も銀時らしい答え。
これには緒方も『相変わらずだなぁ』と言って笑った。