第四章 〜絆〜(連載中)
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そんな銀時の心の葛藤など知る由もなく。柚希は無邪気な笑顔で銀時に「ありがとう」と頭を下げる。同時に電話向こうの緒方にはしっかりと釘を刺していた。
「急ぐ時ほど落ち着いてってあれほど言ったのに! 骨にヒビでも入ったらどうするんですか」
『いやぁ面目ない。これから気をつけるよ』
「そのセリフ、耳にタコができるくらい聞いてるんですけど」
『あれぇ? そうだったかなぁ……』
「正の字で付けてますから確認しましょうか?」
『そんな物を付けてたのかい!?』
予想外の答えに驚く緒方。だがその理由は全て自分にあるのだから文句は言えない。
『まったく君って娘は……』
そう言って諦めのため息を吐きながらも、緒方の顔は嬉しそうだった。
とは言え、この話題はもう終わりにしたい。せっかくの電話が自分のうっかり話で占められてしまうのは勿体無いと、緒方は強引に話題を変えた。
『あ、ところで柚希ちゃんは今どこから電話してくれてるんだい?』
「え? ああ、ご報告が遅れてしまってすみません。お陰様で無事江戸に戻りまして、先ほど万事屋に着いたところです。そちらに滞在中はお世話になりました」
『お世話だなんて、むしろこちらが色々と助けられたよ。またいつでも帰っておいで』
「ありがとうございます。でもそれって暗に診察の手伝いに帰ってこいって言ってません?」
『いやぁ、言葉にしなくても分かってくれるなんてさすが柚希ちゃん。以心伝心、ツーカーの仲!』
「もう、先生ってば調子がいいんだから」
『それだけ君の腕を買ってるってことだよ。とは言え医者が怪我したままじゃいけないね。その後足の傷の具合はどうだい?』
「……っ」
ごく自然に出てきた傷の話に、息を呑む。
『僕が処置をしたと分かるよう、君にもらった印を押しておいたんだけど、気づいてくれたかな? それとも先に彼から話を聞いたかい?』
続く『彼』という言葉が、柚希の体を大きく振るわせた。
「彼……とは?」
答えは分かりきっているのに、別人である万が一の可能性に賭けたくて言う。しかし──
『気絶していた柚希ちゃんを診療所に運び込んだ、銀時くんとは少し印象の違う白髪パーマの青年だよ。治療中は姿が見えなくなっていたんだけどね。処置を終えたタイミングで迎えに来ると、このまま江戸に向かうと言って君を抱えて出ていったんだ』
──やっぱり朧が……
全てが柚希の想像通りだった。しかも緒方と直接顔を合わせていたことまで確定したわけだ。それは緒方の身にいつ何が起きてもおかしくないということでもある。
これまでの話では、朧が緒方やその周辺に危害を加えた様子はない。しかし何かしらの罠が仕掛けられていることも考えられる。万が一を考え、柚希はその時の状況を訊いておくことにした。
「そうだったんですね。確かに送ってはもらったのですが、実は江戸に着くまで眠っていたので話はできなかったんです。……あ、ちなみに私が運び込まれた時、何かご迷惑のかかるようなことはありませんでした?」
『迷惑かい? うーん……強いて言うなら、他の患者さんを押しのけて受付も通さず、柚希ちゃんを診察室に運び込んだことかな』
「そんなことが……すみません、私のせいで」
『謝る必要なんてないよ。実際傷が深くて緊急性が高かったし、来ていた患者さんたちも、君のことをよく知っている人ばかりだったからね。皆して君の治療を優先しろと言ってくれたよ。だから一時的に休診にして手術をすることができたんだ。あれから少しは回復の兆しが見えているかい?』
よほど心に引っかかっていたのだろう。声だけでも分かるほど前のめりな緒方に、柚希は傷のある足を見ながら答えた。
「とてもキレイに縫われていたので、今は出血も化膿もありません。傷さえ塞がってしまえば、日常生活に支障はないかと」
『……すまないね、僕の技量が足りないばかりに』
『日常生活に』という言葉を聞いた緒方の声が曇る。ただ真実を伝えただけのつもりが緒方を傷つけてしまったと気づき、柚希は慌てた。
「いえ、そんな! 先生が診て下さらなかったらきっと、自由に歩くことすらかないませんでした。本当にありがとうございました」
『そう言ってもらえるのは嬉しいよ。でも完治に至る処置をできなかったのは僕の未熟さ故だ。申し訳ない』
悔しさの滲む謝罪に、柚希の胸も痛む。だがこればかりはどうすることもできず、お互い慰めの言葉を見つけることはできなかった。
「急ぐ時ほど落ち着いてってあれほど言ったのに! 骨にヒビでも入ったらどうするんですか」
『いやぁ面目ない。これから気をつけるよ』
「そのセリフ、耳にタコができるくらい聞いてるんですけど」
『あれぇ? そうだったかなぁ……』
「正の字で付けてますから確認しましょうか?」
『そんな物を付けてたのかい!?』
予想外の答えに驚く緒方。だがその理由は全て自分にあるのだから文句は言えない。
『まったく君って娘は……』
そう言って諦めのため息を吐きながらも、緒方の顔は嬉しそうだった。
とは言え、この話題はもう終わりにしたい。せっかくの電話が自分のうっかり話で占められてしまうのは勿体無いと、緒方は強引に話題を変えた。
『あ、ところで柚希ちゃんは今どこから電話してくれてるんだい?』
「え? ああ、ご報告が遅れてしまってすみません。お陰様で無事江戸に戻りまして、先ほど万事屋に着いたところです。そちらに滞在中はお世話になりました」
『お世話だなんて、むしろこちらが色々と助けられたよ。またいつでも帰っておいで』
「ありがとうございます。でもそれって暗に診察の手伝いに帰ってこいって言ってません?」
『いやぁ、言葉にしなくても分かってくれるなんてさすが柚希ちゃん。以心伝心、ツーカーの仲!』
「もう、先生ってば調子がいいんだから」
『それだけ君の腕を買ってるってことだよ。とは言え医者が怪我したままじゃいけないね。その後足の傷の具合はどうだい?』
「……っ」
ごく自然に出てきた傷の話に、息を呑む。
『僕が処置をしたと分かるよう、君にもらった印を押しておいたんだけど、気づいてくれたかな? それとも先に彼から話を聞いたかい?』
続く『彼』という言葉が、柚希の体を大きく振るわせた。
「彼……とは?」
答えは分かりきっているのに、別人である万が一の可能性に賭けたくて言う。しかし──
『気絶していた柚希ちゃんを診療所に運び込んだ、銀時くんとは少し印象の違う白髪パーマの青年だよ。治療中は姿が見えなくなっていたんだけどね。処置を終えたタイミングで迎えに来ると、このまま江戸に向かうと言って君を抱えて出ていったんだ』
──やっぱり朧が……
全てが柚希の想像通りだった。しかも緒方と直接顔を合わせていたことまで確定したわけだ。それは緒方の身にいつ何が起きてもおかしくないということでもある。
これまでの話では、朧が緒方やその周辺に危害を加えた様子はない。しかし何かしらの罠が仕掛けられていることも考えられる。万が一を考え、柚希はその時の状況を訊いておくことにした。
「そうだったんですね。確かに送ってはもらったのですが、実は江戸に着くまで眠っていたので話はできなかったんです。……あ、ちなみに私が運び込まれた時、何かご迷惑のかかるようなことはありませんでした?」
『迷惑かい? うーん……強いて言うなら、他の患者さんを押しのけて受付も通さず、柚希ちゃんを診察室に運び込んだことかな』
「そんなことが……すみません、私のせいで」
『謝る必要なんてないよ。実際傷が深くて緊急性が高かったし、来ていた患者さんたちも、君のことをよく知っている人ばかりだったからね。皆して君の治療を優先しろと言ってくれたよ。だから一時的に休診にして手術をすることができたんだ。あれから少しは回復の兆しが見えているかい?』
よほど心に引っかかっていたのだろう。声だけでも分かるほど前のめりな緒方に、柚希は傷のある足を見ながら答えた。
「とてもキレイに縫われていたので、今は出血も化膿もありません。傷さえ塞がってしまえば、日常生活に支障はないかと」
『……すまないね、僕の技量が足りないばかりに』
『日常生活に』という言葉を聞いた緒方の声が曇る。ただ真実を伝えただけのつもりが緒方を傷つけてしまったと気づき、柚希は慌てた。
「いえ、そんな! 先生が診て下さらなかったらきっと、自由に歩くことすらかないませんでした。本当にありがとうございました」
『そう言ってもらえるのは嬉しいよ。でも完治に至る処置をできなかったのは僕の未熟さ故だ。申し訳ない』
悔しさの滲む謝罪に、柚希の胸も痛む。だがこればかりはどうすることもできず、お互い慰めの言葉を見つけることはできなかった。