第四章 〜絆〜(連載中)
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万事屋に繋がる外階段をゆっくりと上がる。
直前まで松葉杖をついてはいたものの、銀時の方はそれなりに回復していたのだろう。自由の利かない足を引きずる柚希に万が一のことが無いよう、肩に手を回せるだけの余裕があった。
「痛むのか?」
「ううん、平気よ。それよりシロの方があちこち怪我してるじゃない。部屋に行ったらちゃんと診せてよね」
「俺のは大したことねーし」
「確かに治りかけてはいるみたいだけど、受けてる傷は一つや二つじゃないでしょ? シロは昔から自分の傷に無頓着なんだから」
「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ」
言い合いながらも、軸にあるのはお互いを思う気持ちだ。怪我を負いながらも、こうして再会できたことがとにかく嬉しかった。
しかし喜びに浸れるのもつかの間。
「そもそも傷を負った原因は何なんだよ。あの電話だって──」
そう言いかけた銀時の言葉が、柚希に大切なことを思い出させる。
瞬時に引いた血の気。
肩に触れた銀時の手に伝わってくる、大きな震え。
「柚希?」
それらが動揺からくるものだと察した銀時が心配して名を呼ぶと、柚希が呆然と言った。
「電話……」
「あん?」
「緒方先生に電話しなきゃ!」
「無事帰りましたってか? そりゃまァ連絡するに越したこたァねーが、帰ってきたばっかなんだし、落ち着いてからゆっくりと……」
全てが落ち着くまで連絡は控えるつもりだった銀時が、さりげなく止めようとする。しかし柚希は聞く耳を持たずで。
「そうじゃないの! 先生が危ないのよ!」
「は? 危ないって何が──」
「話は後! とにかくまずは電話をさせて!」
「お、おい、柚希」
肩に置かれていた銀時の手を振り払い、腕の力で這うように階段を上がる。勢いよく戸を開けると、柚希にしては珍しく、三和土に靴を脱ぎ散らかしたまま電話へと向かった。
受話器を上げ、緒方診療所の番号をダイヤルする。後から追ってきた銀時が柚希の後ろに立ったときには、二回目の呼び出し音が鳴っていた。
三回、四回と鳴り続ける呼び出し音が、柚希の頬に冷や汗を伝わせる。それに気づいた銀時は、背中から柚希をそっと抱きしめた。
受話器を耳に押し付けたまま顔だけ振り向いた柚希は、今にも泣き出しそうだ。しかし状況の分からぬ銀時は、柚希にかけてやる言葉を見つけられずにいた。
漏れ聞こえる無機質な音に、二人して耳を傾ける。
七回……八回……そして九回目が鳴った時──
『はい、緒方診療……アイタッ!』
ようやく繋がった受話器の向こうに聞こえた声。それは、今最も聞きたかった声に相違なかった。
「……っ!」
喜びと安堵が柚希の胸をいっぱいにする。どこかに体をぶつけたと思しき派手な音と、『っつ〜〜……』という情けない声ですら、柚希にとっては嬉しいものだった。
『イテテテテ……っと、もしもし?』
「何だか随分と派手な音がしてましたけど、大丈夫ですか?」
『いやまぁ何とか……ん? ひょっとしてこの声は柚希ちゃんかな?』
こちらが名乗らずとも、すぐに誰だか分かったらしい。耳慣れた自分の名を呼ぶ優しい声に、思わず涙が溢れそうになった。
「はい、そうです。柚希です。それより先生、どこをぶつけたんですか?」
『ん? あぁ、足の小指をね。電話からちょっと離れた所にいたんだけど、急いで走ってきたら勢い余って机にぶつけちゃったんだよ。歳のせいか、どうにも思うように体が動いてくれなくてねぇ』
それなりに痛みはあるようだが、そう大したことはなさそうだ。
緒方の無事が確認できたことで、柚希の表情からは緊張が消える。その証拠に「もう、先生ってば」とぼやく柚希の声はもちろん、緒方の無事を銀時に伝える視線は明るかった。
それを見た銀時は、柚希を抱きしめていた腕を緩める。頭をぽんぽんと叩くことで「良かったな」と伝えると、ゆっくり柚希から離れて小さく息を吐いた。そして心の中で呟く。
──思うようにはいかねーもんだな
柚希を少しでも危険から遠ざけようと、桂の提案に乗って強引に墓参りへと送り出したのに。結果柚希が持ち帰ったのは引きずるほどに深い足の傷。しかも緒方にも危険が及ぶ可能性があったというのだから、胸中穏やかではいられない。
──墓参りなんぞ行かせなきゃ、誰もこんな思いはしなかったのか? だがあのまま江戸にいたところで、将軍のゴタゴタに巻き込んじまってただろうし……
果たしてどちらの選択が正しかったのか。答えの見つからない疑問に頭を悩ませながら柚希を見る。しかし当の柚希はとても良い笑顔で楽しそうに電話をしているから。
──今更考えても意味ねーか
複雑な思いを隠すように、自嘲の笑みを浮かべる。足の傷への負担を考え、社長椅子を移動させて座らせると、自らはソファにゴロリと横たわった。
直前まで松葉杖をついてはいたものの、銀時の方はそれなりに回復していたのだろう。自由の利かない足を引きずる柚希に万が一のことが無いよう、肩に手を回せるだけの余裕があった。
「痛むのか?」
「ううん、平気よ。それよりシロの方があちこち怪我してるじゃない。部屋に行ったらちゃんと診せてよね」
「俺のは大したことねーし」
「確かに治りかけてはいるみたいだけど、受けてる傷は一つや二つじゃないでしょ? シロは昔から自分の傷に無頓着なんだから」
「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ」
言い合いながらも、軸にあるのはお互いを思う気持ちだ。怪我を負いながらも、こうして再会できたことがとにかく嬉しかった。
しかし喜びに浸れるのもつかの間。
「そもそも傷を負った原因は何なんだよ。あの電話だって──」
そう言いかけた銀時の言葉が、柚希に大切なことを思い出させる。
瞬時に引いた血の気。
肩に触れた銀時の手に伝わってくる、大きな震え。
「柚希?」
それらが動揺からくるものだと察した銀時が心配して名を呼ぶと、柚希が呆然と言った。
「電話……」
「あん?」
「緒方先生に電話しなきゃ!」
「無事帰りましたってか? そりゃまァ連絡するに越したこたァねーが、帰ってきたばっかなんだし、落ち着いてからゆっくりと……」
全てが落ち着くまで連絡は控えるつもりだった銀時が、さりげなく止めようとする。しかし柚希は聞く耳を持たずで。
「そうじゃないの! 先生が危ないのよ!」
「は? 危ないって何が──」
「話は後! とにかくまずは電話をさせて!」
「お、おい、柚希」
肩に置かれていた銀時の手を振り払い、腕の力で這うように階段を上がる。勢いよく戸を開けると、柚希にしては珍しく、三和土に靴を脱ぎ散らかしたまま電話へと向かった。
受話器を上げ、緒方診療所の番号をダイヤルする。後から追ってきた銀時が柚希の後ろに立ったときには、二回目の呼び出し音が鳴っていた。
三回、四回と鳴り続ける呼び出し音が、柚希の頬に冷や汗を伝わせる。それに気づいた銀時は、背中から柚希をそっと抱きしめた。
受話器を耳に押し付けたまま顔だけ振り向いた柚希は、今にも泣き出しそうだ。しかし状況の分からぬ銀時は、柚希にかけてやる言葉を見つけられずにいた。
漏れ聞こえる無機質な音に、二人して耳を傾ける。
七回……八回……そして九回目が鳴った時──
『はい、緒方診療……アイタッ!』
ようやく繋がった受話器の向こうに聞こえた声。それは、今最も聞きたかった声に相違なかった。
「……っ!」
喜びと安堵が柚希の胸をいっぱいにする。どこかに体をぶつけたと思しき派手な音と、『っつ〜〜……』という情けない声ですら、柚希にとっては嬉しいものだった。
『イテテテテ……っと、もしもし?』
「何だか随分と派手な音がしてましたけど、大丈夫ですか?」
『いやまぁ何とか……ん? ひょっとしてこの声は柚希ちゃんかな?』
こちらが名乗らずとも、すぐに誰だか分かったらしい。耳慣れた自分の名を呼ぶ優しい声に、思わず涙が溢れそうになった。
「はい、そうです。柚希です。それより先生、どこをぶつけたんですか?」
『ん? あぁ、足の小指をね。電話からちょっと離れた所にいたんだけど、急いで走ってきたら勢い余って机にぶつけちゃったんだよ。歳のせいか、どうにも思うように体が動いてくれなくてねぇ』
それなりに痛みはあるようだが、そう大したことはなさそうだ。
緒方の無事が確認できたことで、柚希の表情からは緊張が消える。その証拠に「もう、先生ってば」とぼやく柚希の声はもちろん、緒方の無事を銀時に伝える視線は明るかった。
それを見た銀時は、柚希を抱きしめていた腕を緩める。頭をぽんぽんと叩くことで「良かったな」と伝えると、ゆっくり柚希から離れて小さく息を吐いた。そして心の中で呟く。
──思うようにはいかねーもんだな
柚希を少しでも危険から遠ざけようと、桂の提案に乗って強引に墓参りへと送り出したのに。結果柚希が持ち帰ったのは引きずるほどに深い足の傷。しかも緒方にも危険が及ぶ可能性があったというのだから、胸中穏やかではいられない。
──墓参りなんぞ行かせなきゃ、誰もこんな思いはしなかったのか? だがあのまま江戸にいたところで、将軍のゴタゴタに巻き込んじまってただろうし……
果たしてどちらの選択が正しかったのか。答えの見つからない疑問に頭を悩ませながら柚希を見る。しかし当の柚希はとても良い笑顔で楽しそうに電話をしているから。
──今更考えても意味ねーか
複雑な思いを隠すように、自嘲の笑みを浮かべる。足の傷への負担を考え、社長椅子を移動させて座らせると、自らはソファにゴロリと横たわった。