第四章 〜絆〜(連載中)
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気配を探るも、何も感じ取れない。これ以上叫んだところで引き返してくることもないだろう。ならば今自分はどうするべきか。一人取り残された柚希は、焦りながらも最善策を探った。
「シロたちと合流するにせよ、単独で朧を追うにせよ、まずは傷の具合を確認しておくべきよね」
そう言って未だ感覚の無い左足に触れる。ためらいがあるのか大きく深呼吸した柚希は、ゆっくりと包帯を解いていった。
やがて傷口を覆うガーゼが現れる。それを見た瞬間、柚希は息を呑んだ。何故ならそこには馴染みの深い印が押されていたから。未だ松陽が健在だった、平和で幸せな毎日を送っていた頃。誕生日プレゼントにと柚希が特注で作った『緒方』の印を柚希が見間違えるはずもない。
「緒方先生……」
朧の腕の中で目覚めるより以前、ぼんやりと意識が浮上した時のことを思い出す。記憶が曖昧だったために夢かもしれないと思っていたが、あれは現実だったのだと確信した。
「先生が治療をしてくれたから、こんなにも包帯がキレイに巻かれてたんだ。その事が分かるように印まで残してくれて……でもそれって、朧が私を診療所まで連れて行ったってことよね。そうなると緒方先生は? まさか朧に……!」
恐ろしい想像をしてしまい、血の気が引く。
今すぐ安否確認を、と辺りを見回すも、生憎公衆電話は見当たらない。この公園には過去何度か足を運んだことはあったが、電話の位置を意識した事は無く、どこにあるのかも分からない状態だ。
しかもここは森林公園というだけあって、かなりの広さがある。電話を探すくらいなら、むしろ万事屋に戻ってしまった方が早いかもしれない。それにもし既に朧が銀時たちを襲撃していたならば、合流し加勢することもできる。
そのためにも一秒でも早く傷を確認してしまおうと、募る焦りを抑え込みながらガーゼを外した。
ちなみに柚希が患部を直視したのは、この時が初めてとなる。
「斬られたときの感覚である程度は覚悟してたけど、これは……」
傷口を見た瞬間、柚希を襲ったのは『絶望』のニ文字。
「傷が……深すぎる……」
同時に攘夷戦争の頃の記憶が蘇る。それは銀時たちと共に戦場を荒らしまわった攘夷四天王の一人である坂本辰馬が、腕を斬りつけられた時のことだった。
あの日救護所に運び込まれた辰馬の腕の傷は、柚希の持ちうる全ての知識を総動員しても治せないほどに深かった。
辛うじて日常生活レベルのことはできても、戦場で刀を握ることは不可能だ。できることなら希望を持たせてやりたかったが、辰馬ほどの腕を持つものにそんなごまかしは通用しない。一通りの治療を終えた柚希は、何度も「治せなくてごめんね」と謝った。
すると辰馬が言う。
「おまんは何も悪くないき。わしが気ィ抜いたんが悪いんじゃ。でもまァ戦い続きで疲れもたまっとるし、この機会に体を休めるのもええじゃろ」
あははは、といつもの笑顔を見せる辰馬。その姿に、思っていたほどのショックではなかったかとホッとした柚希は「そうね、ゆっくりと休んで」と言い残し、他の患者の所へ向かうべく踵を返した。ところが背中越しにポソリと聞こえた声こそが、常に楽観的な辰馬の紛れもない本音であることに気づく。
「わしゃァもうアイツらと肩を並べて戦うことはできんのか……寂しいのぅ」
侍の魂である刀を取り上げられた気持ちはいかばかりか。そんなことにも気づけなかったのかという自分への怒りと情けなさに胸がえぐられ、涙がこみ上げた。
だが一番辛いのは辰馬だ。自分が泣き顔を見せるわけにはいかない。そう思った柚希は振り返ることなく、何も聞こえなかったフリをしてその場を後にした。
「シロたちと合流するにせよ、単独で朧を追うにせよ、まずは傷の具合を確認しておくべきよね」
そう言って未だ感覚の無い左足に触れる。ためらいがあるのか大きく深呼吸した柚希は、ゆっくりと包帯を解いていった。
やがて傷口を覆うガーゼが現れる。それを見た瞬間、柚希は息を呑んだ。何故ならそこには馴染みの深い印が押されていたから。未だ松陽が健在だった、平和で幸せな毎日を送っていた頃。誕生日プレゼントにと柚希が特注で作った『緒方』の印を柚希が見間違えるはずもない。
「緒方先生……」
朧の腕の中で目覚めるより以前、ぼんやりと意識が浮上した時のことを思い出す。記憶が曖昧だったために夢かもしれないと思っていたが、あれは現実だったのだと確信した。
「先生が治療をしてくれたから、こんなにも包帯がキレイに巻かれてたんだ。その事が分かるように印まで残してくれて……でもそれって、朧が私を診療所まで連れて行ったってことよね。そうなると緒方先生は? まさか朧に……!」
恐ろしい想像をしてしまい、血の気が引く。
今すぐ安否確認を、と辺りを見回すも、生憎公衆電話は見当たらない。この公園には過去何度か足を運んだことはあったが、電話の位置を意識した事は無く、どこにあるのかも分からない状態だ。
しかもここは森林公園というだけあって、かなりの広さがある。電話を探すくらいなら、むしろ万事屋に戻ってしまった方が早いかもしれない。それにもし既に朧が銀時たちを襲撃していたならば、合流し加勢することもできる。
そのためにも一秒でも早く傷を確認してしまおうと、募る焦りを抑え込みながらガーゼを外した。
ちなみに柚希が患部を直視したのは、この時が初めてとなる。
「斬られたときの感覚である程度は覚悟してたけど、これは……」
傷口を見た瞬間、柚希を襲ったのは『絶望』のニ文字。
「傷が……深すぎる……」
同時に攘夷戦争の頃の記憶が蘇る。それは銀時たちと共に戦場を荒らしまわった攘夷四天王の一人である坂本辰馬が、腕を斬りつけられた時のことだった。
あの日救護所に運び込まれた辰馬の腕の傷は、柚希の持ちうる全ての知識を総動員しても治せないほどに深かった。
辛うじて日常生活レベルのことはできても、戦場で刀を握ることは不可能だ。できることなら希望を持たせてやりたかったが、辰馬ほどの腕を持つものにそんなごまかしは通用しない。一通りの治療を終えた柚希は、何度も「治せなくてごめんね」と謝った。
すると辰馬が言う。
「おまんは何も悪くないき。わしが気ィ抜いたんが悪いんじゃ。でもまァ戦い続きで疲れもたまっとるし、この機会に体を休めるのもええじゃろ」
あははは、といつもの笑顔を見せる辰馬。その姿に、思っていたほどのショックではなかったかとホッとした柚希は「そうね、ゆっくりと休んで」と言い残し、他の患者の所へ向かうべく踵を返した。ところが背中越しにポソリと聞こえた声こそが、常に楽観的な辰馬の紛れもない本音であることに気づく。
「わしゃァもうアイツらと肩を並べて戦うことはできんのか……寂しいのぅ」
侍の魂である刀を取り上げられた気持ちはいかばかりか。そんなことにも気づけなかったのかという自分への怒りと情けなさに胸がえぐられ、涙がこみ上げた。
だが一番辛いのは辰馬だ。自分が泣き顔を見せるわけにはいかない。そう思った柚希は振り返ることなく、何も聞こえなかったフリをしてその場を後にした。