第四章 〜絆〜(連載中)
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あれは、緒方診療所での仕事にもすっかり慣れた頃。
柚希が一人で買い物に出ていると、野盗らしき男たちに襲われた。
子供にしては腕が立つも、未だ扇子を所持していなかった当時の柚希では、大の男数人を何の武器もなく一度に相手することなどできはしない。案の定追い詰められ絶体絶命の危機に陥った時、助けに現れたのが松陽だった。
柚希をかばい、振り下ろされた一刀を腕に受けた松陽は、すぐさま男たちを蹴散らす。だがその傷から流れる血の量は、かなりのものだった。
松陽がこんな大怪我をした姿など見たことの無かった柚希は、激しく動揺する。「大丈夫ですから」と言う松陽の言葉も耳に入らぬまま、「手当するから見せて!」と強引に着物の袖をたくしあげた。
すると傷口が煙を上げ、凄まじい速さで塞がっていく。それは常識では考えられない現象で、柚希は思わず固唾を飲んだ。
この奇怪な現象が何なのかを知りたくて、松陽を見る。しかし合わせた目は不安と悲しみに満ちており、問い詰めようとしていた柚希を躊躇わせた。
──今訊けば、きっと全てを失ってしまう
心の内で鳴り響く警鐘。それは柚希に発する言葉を選ばせる。
「これ……通常の三倍の速さで治ってるっぽいね」
「私はシャアですか?」
想像もしていなかった言葉に思わず吹き出す松陽。
とは言え松陽も、柚希が本当に言いたかった事が何なのかは分かっている。文字通り目に見えて治っていく傷口に痛いほどの視線を感じながら、何をどう伝えるべきかと迷っていた。
やがて傷口がふさがり、流れた出た血を拭き取ってしまえば、斬りつけられた事実は完全に消滅する。その過程を、柚希はじっと見つめていた。
「あの、柚希……」
反応を伺いながらおずおずと話しかけてくる松陽に、柚希が言う。
「私はね、親父様。シロを含めた三人で、これからもずっと一緒にいられればそれで良いの」
「……はい?」
「痛みとかはもう無いんだよね?」
「え? あぁ、全くありませんよ。でも……」
「じゃあ帰ろう。助けてくれてありがとね、親父様」
「ですが柚希、私は……」
「ほら、早く早く!」
話を打ち切り、駆け出す柚希。そこからはこの件について一切口にしようとはせず、いつもと変わらぬ笑顔を見せるだけ。
松陽としては追求されないのはありがたいが、気を使ってくれる柚希への申し訳無さのほうが大きい。とは言えせっかく柚希が話を流してくれたのだからと、開きかけた口を閉じ、ゆっくりと柚希の後を追ったのだった。
様々な困難にぶつかりながらも、時は止まること無く過ぎていき。
攘夷戦争に参戦していた柚希は、自らも捕らわれることで連れ去られた松陽と再会できた。
敵の手中にありながらも、柚希と共に穏やかな時間を過ごせたことで思う所があったのだろう。朧について語る中、自らについても触れたのだ。
「一度犯した過ちを、二度と犯してはならない。そう思いながらもあの時──貴女が私をおびき出すための人質となって大怪我を負った時、思わず考えてしまったんです。朧と同じように、貴女にも私の血を与えれば……と」
「親父様の血?」
この時初めて柚希は、あの驚異的な治癒力の源が松陽の血であったことを知る。あくまで松陽の抱く秘密のほんの一部に過ぎなかったが、それでも柚希は松陽に特別な力があることだけは理解できた。
「じゃあ朧が怪我をしてもすぐに治っていたのは……」
「でも我慢して正解でした。こうして貴女は元気な姿を見せてくれている。自らの生命力で回復し、生きてくれているのだから」
柚希の言葉を遮るように言った松陽は両手を広げ、腕の中に招き寄せる。その表情はあまりにも清々しくて、柚希は続く言葉を飲み込むしかなかった。
柚希が一人で買い物に出ていると、野盗らしき男たちに襲われた。
子供にしては腕が立つも、未だ扇子を所持していなかった当時の柚希では、大の男数人を何の武器もなく一度に相手することなどできはしない。案の定追い詰められ絶体絶命の危機に陥った時、助けに現れたのが松陽だった。
柚希をかばい、振り下ろされた一刀を腕に受けた松陽は、すぐさま男たちを蹴散らす。だがその傷から流れる血の量は、かなりのものだった。
松陽がこんな大怪我をした姿など見たことの無かった柚希は、激しく動揺する。「大丈夫ですから」と言う松陽の言葉も耳に入らぬまま、「手当するから見せて!」と強引に着物の袖をたくしあげた。
すると傷口が煙を上げ、凄まじい速さで塞がっていく。それは常識では考えられない現象で、柚希は思わず固唾を飲んだ。
この奇怪な現象が何なのかを知りたくて、松陽を見る。しかし合わせた目は不安と悲しみに満ちており、問い詰めようとしていた柚希を躊躇わせた。
──今訊けば、きっと全てを失ってしまう
心の内で鳴り響く警鐘。それは柚希に発する言葉を選ばせる。
「これ……通常の三倍の速さで治ってるっぽいね」
「私はシャアですか?」
想像もしていなかった言葉に思わず吹き出す松陽。
とは言え松陽も、柚希が本当に言いたかった事が何なのかは分かっている。文字通り目に見えて治っていく傷口に痛いほどの視線を感じながら、何をどう伝えるべきかと迷っていた。
やがて傷口がふさがり、流れた出た血を拭き取ってしまえば、斬りつけられた事実は完全に消滅する。その過程を、柚希はじっと見つめていた。
「あの、柚希……」
反応を伺いながらおずおずと話しかけてくる松陽に、柚希が言う。
「私はね、親父様。シロを含めた三人で、これからもずっと一緒にいられればそれで良いの」
「……はい?」
「痛みとかはもう無いんだよね?」
「え? あぁ、全くありませんよ。でも……」
「じゃあ帰ろう。助けてくれてありがとね、親父様」
「ですが柚希、私は……」
「ほら、早く早く!」
話を打ち切り、駆け出す柚希。そこからはこの件について一切口にしようとはせず、いつもと変わらぬ笑顔を見せるだけ。
松陽としては追求されないのはありがたいが、気を使ってくれる柚希への申し訳無さのほうが大きい。とは言えせっかく柚希が話を流してくれたのだからと、開きかけた口を閉じ、ゆっくりと柚希の後を追ったのだった。
様々な困難にぶつかりながらも、時は止まること無く過ぎていき。
攘夷戦争に参戦していた柚希は、自らも捕らわれることで連れ去られた松陽と再会できた。
敵の手中にありながらも、柚希と共に穏やかな時間を過ごせたことで思う所があったのだろう。朧について語る中、自らについても触れたのだ。
「一度犯した過ちを、二度と犯してはならない。そう思いながらもあの時──貴女が私をおびき出すための人質となって大怪我を負った時、思わず考えてしまったんです。朧と同じように、貴女にも私の血を与えれば……と」
「親父様の血?」
この時初めて柚希は、あの驚異的な治癒力の源が松陽の血であったことを知る。あくまで松陽の抱く秘密のほんの一部に過ぎなかったが、それでも柚希は松陽に特別な力があることだけは理解できた。
「じゃあ朧が怪我をしてもすぐに治っていたのは……」
「でも我慢して正解でした。こうして貴女は元気な姿を見せてくれている。自らの生命力で回復し、生きてくれているのだから」
柚希の言葉を遮るように言った松陽は両手を広げ、腕の中に招き寄せる。その表情はあまりにも清々しくて、柚希は続く言葉を飲み込むしかなかった。