第四章 〜絆〜(連載中)
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痛みに顔をしかめる柚希に向けられていた視線が、朧へと移される。
「何故戯れだと?」
虚と呼ばれた男が問うた。
「恐れながら、この娘は虚様の施しを受けるに値せぬ存在かと」
「まさか君がそんな事を言うとはね。だが値するもしないも決めるのは私だよ」
「……ッ、申し訳ございません」
更に深く頭を垂れる朧。その姿に異様な物を感じた柚希は、倒れたままの状態で何も言わずに様子を伺っていた。
すると朧を見下ろしていた虚が言う。
「構いませんよ。あの男が寵愛していた娘だと言うから、一度見ておいても良いかとは思いましたが、それ以上の興味はありませんしね。あとは君に任せます」
「ハッ!」
朧の返事に満足したのか、虚は柚希には一瞥もくれぬまま踵を返すと、そのままどこかへと姿を消してしまった。
虚の気配が完全に消えた事を確認して頭を上げた朧は、同じタイミングでゆっくりと上半身を起こした柚希を振り返り見つめる。その視線が意味有りげなのが気になり、吹き出す冷や汗を拭いながら柚希は訊いた。
「言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「何もない」
「だったら私が訊くわ。あの虚という男は何者なの? 見た目は親父様そっくりなのに、中身は吉田松陽とは似ても似つかない全くの別人じゃない。そんな男に、どうして貴方は服従しているのよ」
「貴様には関係ない」
「関係ないですって!? じゃあ何で私をここに連れてきたのよ! 虚は私に興味なんて無かった。それなのに貴方がわざわざ会わせて、しかもあんな風に私をかばって……」
「かばってなどいない」
「虚の手から私を引き離して、さりげなく頬に塗られた血まで拭ったのに? 貴方がかばってくれなかったら今頃私は……」
そこまで言った柚希だったが、ハッとしたように口籠る。
その態度に何かを察した朧は、体を柚希の正面に向けた。
ガシリと柚希の顎を掴み、視線を外せないよう柚希の顔を固定する。そして自らもまっすぐ柚希を見つめた。
「いつから知っていた?」
「な、何の話?」
「吉田松陽についての話だ」
「貴方には関係ないでしょ」
「言え。さもなくば部下に命じてお前の身近な者たちを屠る」
「何よそれ。そんな脅しには……」
「言え」
朧の手に力が入り、柚希の顔が苦しげに歪む。容赦のない痛みからは朧が本気だということが伝わってきて、柚希は口を割るしか無かった。
「……正確になんて覚えてないわ。でも、診療所で働き始めて少し経ったくらいだったはず」
「何故知った?」
「医術を学んでいれば、おかしいと思って当然でしょう? 出会った頃からカサブタはおろかホクロ一つ目にしたことのない体。常軌を逸する身のこなし、そして……」
そらした視線を隠すように、まぶたが伏せられる。
「さっきの虚が私に見せつけたのと同じく、早すぎる傷の治りを目の当たりにすれば……ね」
「何故戯れだと?」
虚と呼ばれた男が問うた。
「恐れながら、この娘は虚様の施しを受けるに値せぬ存在かと」
「まさか君がそんな事を言うとはね。だが値するもしないも決めるのは私だよ」
「……ッ、申し訳ございません」
更に深く頭を垂れる朧。その姿に異様な物を感じた柚希は、倒れたままの状態で何も言わずに様子を伺っていた。
すると朧を見下ろしていた虚が言う。
「構いませんよ。あの男が寵愛していた娘だと言うから、一度見ておいても良いかとは思いましたが、それ以上の興味はありませんしね。あとは君に任せます」
「ハッ!」
朧の返事に満足したのか、虚は柚希には一瞥もくれぬまま踵を返すと、そのままどこかへと姿を消してしまった。
虚の気配が完全に消えた事を確認して頭を上げた朧は、同じタイミングでゆっくりと上半身を起こした柚希を振り返り見つめる。その視線が意味有りげなのが気になり、吹き出す冷や汗を拭いながら柚希は訊いた。
「言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「何もない」
「だったら私が訊くわ。あの虚という男は何者なの? 見た目は親父様そっくりなのに、中身は吉田松陽とは似ても似つかない全くの別人じゃない。そんな男に、どうして貴方は服従しているのよ」
「貴様には関係ない」
「関係ないですって!? じゃあ何で私をここに連れてきたのよ! 虚は私に興味なんて無かった。それなのに貴方がわざわざ会わせて、しかもあんな風に私をかばって……」
「かばってなどいない」
「虚の手から私を引き離して、さりげなく頬に塗られた血まで拭ったのに? 貴方がかばってくれなかったら今頃私は……」
そこまで言った柚希だったが、ハッとしたように口籠る。
その態度に何かを察した朧は、体を柚希の正面に向けた。
ガシリと柚希の顎を掴み、視線を外せないよう柚希の顔を固定する。そして自らもまっすぐ柚希を見つめた。
「いつから知っていた?」
「な、何の話?」
「吉田松陽についての話だ」
「貴方には関係ないでしょ」
「言え。さもなくば部下に命じてお前の身近な者たちを屠る」
「何よそれ。そんな脅しには……」
「言え」
朧の手に力が入り、柚希の顔が苦しげに歪む。容赦のない痛みからは朧が本気だということが伝わってきて、柚希は口を割るしか無かった。
「……正確になんて覚えてないわ。でも、診療所で働き始めて少し経ったくらいだったはず」
「何故知った?」
「医術を学んでいれば、おかしいと思って当然でしょう? 出会った頃からカサブタはおろかホクロ一つ目にしたことのない体。常軌を逸する身のこなし、そして……」
そらした視線を隠すように、まぶたが伏せられる。
「さっきの虚が私に見せつけたのと同じく、早すぎる傷の治りを目の当たりにすれば……ね」