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第二章 ~松陽~(83P)

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 ふと目を覚ますと、窓の外がうっすらと白み始めていた。
 そろそろ日の出の時刻か、と柚希が体を起こせば、視界に入るのは隣で幸せそうに眠る銀時の姿。

「いくつになっても、この寝顔は変わらないのね」

 そう言って小さくクスリと笑った柚希は、音を立てないよう静かに布団を抜け出した。
 細心の注意を払いながら玄関を出ると、少しだけ何かを考えていたようだったがすぐに小さく頷き、屋根の上を目指す。
 一番高い場所に腰を下ろすと、未だ眠りに就いている町をぼんやりと眺めた。

「記憶が戻って二日目か……。わざわざあの頃の事を、夢にしてまで見せてくれなくても良いのにね」

 忘れたくとも忘れられない幼き日の記憶を、先ほどの夢が鮮明に蘇らせる。
 ずっと家族に守られて生きてきた子供が、着の身着のまま放り出されてしまえばどうなるか、誰だって想像に難くないだろう。
 幸いなことに柚希が一人きりで過ごした時間はごくわずかだったが、それでも初めての孤独は心に深い傷を負わせていた。

「どうせなら、皆が生きてる時の夢を見せて欲しかったな」

 大きく伸びをし、空を仰ぎ見る。零れ落ちそうになっていた涙を何とか堪えようとしていた柚希だったが、抵抗虚しく熱い物が一筋頬を伝って落ちた。 

「残念。失敗しちゃった」と、開き直るように目を瞬かせた柚希は、グイと手の甲で涙を拭く。もう何度こうして家族を思い、涙を流してきただろう。だがその度に柚希は前を向き、歩き続けてきたのだ。
 心の傷は決して癒えていないものの、子供の頃に比べれば精神的に強くなり、一人で生きていく術も身に着いている。悲しみをこらえ、気持ちを切り替える事も出来るようにはなっていた。

「それにしても、随分遠い過去が出てきたなぁ。夢は未来を暗示するって聞いたことあるけど、あの出来事がどう繋がるんだろう」

 こめかみを指で押しながら、当時の記憶を辿ってみる。あまり深くは思い出したくないのか、おどけたようにウンウンと唸りながら頭を回転させていると……。

「な~にウンウン言ってんだよ。便秘ですかァ? こんなトコで頑張られても困るんで、規定の場所でお願いできますかねェ」

 不意に後ろからかけられた声。だが既に気配を察知していた柚希は、軽やかに飛び上がって声の主の背後を取り、素早く手を伸ばす。

「えっと、この白いモジャモジャをトイレに流せば良いって事ですか~?」

 柚希の手がワシワシとかき混ぜたのは、銀時の頭。身長差のせいで頭頂部には手が届かず、襟足を崩す形となった。

「ちょ、タンマタンマ! 夕べしっかりトリートメントしたサラサラの天パ、大切に扱ってッ!」
「……サラサラの天パって何よ……っていうか、レディに対する声のかけ方からして間違ってるよね、シロ」

 名を呼ばれ、銀時が肩をすくめながら振り向く。だがその顔には笑みが浮かんでおり、この状況を楽しんでいる事が分かった。
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