第四章 〜絆〜(連載中)
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「あァ、悪い。おっさんの言う通り、ちゃんと説明しなきゃ分かんねーよな。……ついさっき柚希から電話があったんだよ。でも話の途中で切れちまってな。未だしばらくはそっちに滞在するとは言ってたが、何だか胸騒ぎがしてかけ直したら、もう出た後だっつーからよ」
『そうだったのか……じゃあ柚希ちゃんはうちを出てから銀時くんに連絡を入れてたんだね。でも何でしばらくここにいるなんて嘘を……』
「俺にも分かんねーよ。そっちにいる間に、アイツに何か変わった素振りは無かったか? 知らねー奴と会ってたとか……やたらと江戸のニュースを気にかけてたとか」
『変わったことと言われても、僕の知る限りでは思いつかないな。テレビも毎日一緒に観てはいたけど、特に気にするようなニュースは無かったよ。でも銀時くんがそんな風に聞いてくるってことは、ひょっとして江戸で何か大きな事件でも起きているのかい? まぁこちらは田舎だから、そもそも都会の番組の放送数が少ないんだ。だからってのもあるのかもしれないけど、ここ最近は江戸のニュース自体目にしていないよ。……君の望む答えになってるかな?』
記憶を掘り起こしながら答える緒方に、電話向こうの銀時の表情は見えない。
だからこそこの時の銀時が、憤怒と悲愴の綯交ぜになった恐ろしい顔をしていた事に気付くことはなかった。もちろん、自らの答えが実は最も望まぬものだったことにも。
荒れる心の内を気取られぬよう、一度受話器を口元から離して深呼吸した銀時は、天井を見上げることで声を高くごまかして言う。
「あァ、そっちの状況が分かって助かるわ。だがこれだけの情報じゃァ、ここから先の柚希の足取りは追えねよな」
『未だ帰らないと言っておいて、サプライズで驚かそうとしてるってことは無いのかい?』
「いや、電話で話してた感じじゃァ、そんな素振りは無かった」
緒方が口にした希望を、銀時が一蹴する。
柚希のことを誰よりも近くで見ていたからこそ、断言できてしまうのだ。電話の向こうに遊び心は存在していなかったと。
『だとしたら柚希ちゃんは一体どこへ……』
見つからぬ答えを求め、沈黙する。
そのまま無音の時が流れてきっかり一分後。先に口を開いたのは緒方だった。
『このまま考えていても埒があかないし、一度電話を切っても良いかな。丁度患者さんも途切れてるから、お昼休みを早めて公衆電話を見てくるよ。もしかしたら柚希ちゃんの手がかりがあるかもしれないしね。何か見つかったらすぐに連絡を入れるから、そちらの番号を教えておいてくれるかい?』
「悪ィなおっさん。本来なら俺が行かなきゃなんねーんだが……」
『こういうのは近くにいる人間が動くものさ。今はとにかく一分でも早く行動した方が良い』
そう言って銀時の電話番号をメモした緒方は、『じゃあまた後で』と電話を切る。そして診療所の入り口に『休診中』の札をかけると、慌ただしく公衆電話へと向かった。
受話器を置いた銀時はというと、今はただ緒方からの連絡を待つしか無く、もどかしさを募らせる。
「バカヤローが」
いつでも電話に出られるようにと社長椅子に腰掛けた銀時の顔には、怒りとも悲しみとも取れる複雑な表情が浮かんでいた。
「居場所が分かってて会えねェのと、居所が分からず会えねェのとじゃ、意味が全く違うっつーの」
デスクの引き出しを開け、中から取り出したのは柚希の扇子。荷物をまとめる時、銀時が一本だけ避けておいた物だ。
壊さぬように、でも強く握り締めた銀時は、その扇子に唇を寄せる。柚希を思い描きながらのキスは、悲しいほどに優しかった。
『そうだったのか……じゃあ柚希ちゃんはうちを出てから銀時くんに連絡を入れてたんだね。でも何でしばらくここにいるなんて嘘を……』
「俺にも分かんねーよ。そっちにいる間に、アイツに何か変わった素振りは無かったか? 知らねー奴と会ってたとか……やたらと江戸のニュースを気にかけてたとか」
『変わったことと言われても、僕の知る限りでは思いつかないな。テレビも毎日一緒に観てはいたけど、特に気にするようなニュースは無かったよ。でも銀時くんがそんな風に聞いてくるってことは、ひょっとして江戸で何か大きな事件でも起きているのかい? まぁこちらは田舎だから、そもそも都会の番組の放送数が少ないんだ。だからってのもあるのかもしれないけど、ここ最近は江戸のニュース自体目にしていないよ。……君の望む答えになってるかな?』
記憶を掘り起こしながら答える緒方に、電話向こうの銀時の表情は見えない。
だからこそこの時の銀時が、憤怒と悲愴の綯交ぜになった恐ろしい顔をしていた事に気付くことはなかった。もちろん、自らの答えが実は最も望まぬものだったことにも。
荒れる心の内を気取られぬよう、一度受話器を口元から離して深呼吸した銀時は、天井を見上げることで声を高くごまかして言う。
「あァ、そっちの状況が分かって助かるわ。だがこれだけの情報じゃァ、ここから先の柚希の足取りは追えねよな」
『未だ帰らないと言っておいて、サプライズで驚かそうとしてるってことは無いのかい?』
「いや、電話で話してた感じじゃァ、そんな素振りは無かった」
緒方が口にした希望を、銀時が一蹴する。
柚希のことを誰よりも近くで見ていたからこそ、断言できてしまうのだ。電話の向こうに遊び心は存在していなかったと。
『だとしたら柚希ちゃんは一体どこへ……』
見つからぬ答えを求め、沈黙する。
そのまま無音の時が流れてきっかり一分後。先に口を開いたのは緒方だった。
『このまま考えていても埒があかないし、一度電話を切っても良いかな。丁度患者さんも途切れてるから、お昼休みを早めて公衆電話を見てくるよ。もしかしたら柚希ちゃんの手がかりがあるかもしれないしね。何か見つかったらすぐに連絡を入れるから、そちらの番号を教えておいてくれるかい?』
「悪ィなおっさん。本来なら俺が行かなきゃなんねーんだが……」
『こういうのは近くにいる人間が動くものさ。今はとにかく一分でも早く行動した方が良い』
そう言って銀時の電話番号をメモした緒方は、『じゃあまた後で』と電話を切る。そして診療所の入り口に『休診中』の札をかけると、慌ただしく公衆電話へと向かった。
受話器を置いた銀時はというと、今はただ緒方からの連絡を待つしか無く、もどかしさを募らせる。
「バカヤローが」
いつでも電話に出られるようにと社長椅子に腰掛けた銀時の顔には、怒りとも悲しみとも取れる複雑な表情が浮かんでいた。
「居場所が分かってて会えねェのと、居所が分からず会えねェのとじゃ、意味が全く違うっつーの」
デスクの引き出しを開け、中から取り出したのは柚希の扇子。荷物をまとめる時、銀時が一本だけ避けておいた物だ。
壊さぬように、でも強く握り締めた銀時は、その扇子に唇を寄せる。柚希を思い描きながらのキスは、悲しいほどに優しかった。