第四章 〜絆〜(連載中)
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それを知ってか知らずか、銀時が話題を変える。
「お前こそ、何でわざわざ外からかけてきてんだよ。診療所にいるんじゃねーのか?」
「あぁ……うん、ちょっと本宅用の電話が調子悪くてね。受付用の電話だといつ患者さんからかかってくるか分からないし、外に出てきたの」
「そうなのか? 面倒だしさっさと修理しちまえよな。ちなみに墓参りは済ませたのか?」
「当たり前でしょ。こちらに来てから何日経ってると思ってるのよ。でもまさかあんな小さな盛り土しかないなんて思ってもみなかったからビックリしちゃったわ」
「……なら大丈夫か」
柚希の返事に、銀時が呟く。自己完結させるつもりだったのかその声はとても小さかったが、柚希の耳にははっきりと届いており、不穏な空気が漂った。
「何よ、大丈夫って」
「何でもねェよ、こっちの話だ」
「その割には随分と真剣味があったけど」
「ほんと何でもねェから気にすんなって。んな事より、久々の里帰りはどうよ」
「……緒方先生も、畑中のおじさんも変わらず元気だったよ」
「そっか。久しぶりに柚希に会えて喜んでたんじゃねェ? アイツら、俺たちの誰よりもお前を可愛がってたもんなァ」
「シロたちがイタズラばかりしてたからでしょ。今ならあの頃の大人たちの気持ちが分かるんじゃない?」
「イタズラなんかじゃねェよ。あれは誰もが羨む利発な美少年のちょっとした戯れーー」
「あ、そうそう、おじさん達だけじゃなくて、万屋のおばさんや小夜ちゃん達にも会ったんだ。こちらも皆元気そうだったよ」
「最後まで言わせてくんないッ!?……まァあのおばちゃんは、殺しても死なねーわな。だが小夜ってのがピンとこねーな。確かいつもお前の横にいた気がすんだけど、顔が浮かんでこねェわ」
「松下村塾に通ってた近所の子。覚えてないの?」
「名前も存在も覚えちゃいるんだけどなァ……顔を見りゃ思い出せるんだろうけどよ」
記憶に深く刻み込まれていておかしくない小夜との会話ですら、銀時の中ではおぼろげなようだ。柚希は小夜に申し訳なさを感じながらも、心の底ではホッとしてしまっている自分に気付いて苦笑いが漏れた。
「まァ何にしても、懐かしい出会いが色々あったと」
「うん。あ、そうそう、よくプリンを買いに行ってた洋菓子やさんが無くなっててね」
「マジか!? んじゃ、時々いちご牛乳のセールをやってた牛乳屋は?」
「あそこはねぇ……」
柚希と同じで久しく帰っていなかった銀時も、柚希から聞かされる町の変化には驚くばかりだ。数日置きに小遣いを握って訪れていた駄菓子屋や、顔馴染みの煮売り屋など次々と当時の記憶が蘇り、話は尽きなかった。
そんな他愛のない話が続く中、柚希がチラリと視線を向けたのは、テレホンカードの残り度数。江戸との距離があるだけに、思っていた以上に減りが早くて気持ちが焦る。銀時とはもっと話をしていたいが、この後の事もあってそうゆっくりとはしていられそうにない。
「あのねシロ、大事な話があるの」
迷いはあったが、これから対峙しなければならない朧に少しでも有利になるカードが欲しいと思い、柚希は訊ねた。
「もう一度確認させて欲しいの。親父様は……吉田松陽は……死んだ……んだよね……」
「……は?」
「万が一にも生きてるってことは無いよね?」
「いきなり何なんだよその質問は。何かおかしな事でもあったのか?」
「それが……」
言いかけて、やめる。
朧に会い、松陽が生きていると言われたことを銀時にも伝えておかねば。そう思って口を開きかけた柚希の脳裏を過去の記憶が過ぎり、続く言葉を飲み込ませた。
「どうした? 柚希?」
「あ……っと、ううん、何かあったとかじゃなくて、その……お墓を見ても実感が湧かなくて……」
苦しい言い訳だとは思いながらも、真意を悟られぬようにと理由をつける。功を奏したのかは分からないが、とりあえず納得したのか銀時は言った。
「……そりゃそうか。墓っつーのは遺された者の心を慰める役割もあるってェのに、あんな状態のままだからな。間違いねェよ。松陽は俺が……この手で……」
「そ……っか……」
声から伝わってくるのは、今も尚銀時の心を苦しめている後悔と悲しみ。こんな風に傷を抉りたくなど無かったが、柚希はこの事実をはっきりさせておかねばならなかった。
松陽の首を斬り落とした当の本人から訊いた覆しようのない事実により、吉田松陽はもう確実にこの世にはいないのだと、柚希は結論付ける。となれば、朧は何故あのような事を言ったのか。銀時の心の傷を憂いながらも、朧の言葉の真意が気になって仕方なかった。
「ごめんね、シロ。辛いことを思い出させて」
「いや、良いさ。墓参りに思い出話は付きもんだろ」
罪の意識を感じているであろう柚希の気持ちを考え、明るい声で言う銀時。しかし他にも数々の問題を抱えている柚希の心は晴れない。
「うん……でも……」
「ったく、な〜にしんみりしてんだよ。せっかく久しぶりに話せてんだから、明るくいこうぜ。そういやそっちにはあとどんくらい滞在する予定なんだ?」
柚希の声のトーンからそれを察した銀時が、話題を変えた。
「お前こそ、何でわざわざ外からかけてきてんだよ。診療所にいるんじゃねーのか?」
「あぁ……うん、ちょっと本宅用の電話が調子悪くてね。受付用の電話だといつ患者さんからかかってくるか分からないし、外に出てきたの」
「そうなのか? 面倒だしさっさと修理しちまえよな。ちなみに墓参りは済ませたのか?」
「当たり前でしょ。こちらに来てから何日経ってると思ってるのよ。でもまさかあんな小さな盛り土しかないなんて思ってもみなかったからビックリしちゃったわ」
「……なら大丈夫か」
柚希の返事に、銀時が呟く。自己完結させるつもりだったのかその声はとても小さかったが、柚希の耳にははっきりと届いており、不穏な空気が漂った。
「何よ、大丈夫って」
「何でもねェよ、こっちの話だ」
「その割には随分と真剣味があったけど」
「ほんと何でもねェから気にすんなって。んな事より、久々の里帰りはどうよ」
「……緒方先生も、畑中のおじさんも変わらず元気だったよ」
「そっか。久しぶりに柚希に会えて喜んでたんじゃねェ? アイツら、俺たちの誰よりもお前を可愛がってたもんなァ」
「シロたちがイタズラばかりしてたからでしょ。今ならあの頃の大人たちの気持ちが分かるんじゃない?」
「イタズラなんかじゃねェよ。あれは誰もが羨む利発な美少年のちょっとした戯れーー」
「あ、そうそう、おじさん達だけじゃなくて、万屋のおばさんや小夜ちゃん達にも会ったんだ。こちらも皆元気そうだったよ」
「最後まで言わせてくんないッ!?……まァあのおばちゃんは、殺しても死なねーわな。だが小夜ってのがピンとこねーな。確かいつもお前の横にいた気がすんだけど、顔が浮かんでこねェわ」
「松下村塾に通ってた近所の子。覚えてないの?」
「名前も存在も覚えちゃいるんだけどなァ……顔を見りゃ思い出せるんだろうけどよ」
記憶に深く刻み込まれていておかしくない小夜との会話ですら、銀時の中ではおぼろげなようだ。柚希は小夜に申し訳なさを感じながらも、心の底ではホッとしてしまっている自分に気付いて苦笑いが漏れた。
「まァ何にしても、懐かしい出会いが色々あったと」
「うん。あ、そうそう、よくプリンを買いに行ってた洋菓子やさんが無くなっててね」
「マジか!? んじゃ、時々いちご牛乳のセールをやってた牛乳屋は?」
「あそこはねぇ……」
柚希と同じで久しく帰っていなかった銀時も、柚希から聞かされる町の変化には驚くばかりだ。数日置きに小遣いを握って訪れていた駄菓子屋や、顔馴染みの煮売り屋など次々と当時の記憶が蘇り、話は尽きなかった。
そんな他愛のない話が続く中、柚希がチラリと視線を向けたのは、テレホンカードの残り度数。江戸との距離があるだけに、思っていた以上に減りが早くて気持ちが焦る。銀時とはもっと話をしていたいが、この後の事もあってそうゆっくりとはしていられそうにない。
「あのねシロ、大事な話があるの」
迷いはあったが、これから対峙しなければならない朧に少しでも有利になるカードが欲しいと思い、柚希は訊ねた。
「もう一度確認させて欲しいの。親父様は……吉田松陽は……死んだ……んだよね……」
「……は?」
「万が一にも生きてるってことは無いよね?」
「いきなり何なんだよその質問は。何かおかしな事でもあったのか?」
「それが……」
言いかけて、やめる。
朧に会い、松陽が生きていると言われたことを銀時にも伝えておかねば。そう思って口を開きかけた柚希の脳裏を過去の記憶が過ぎり、続く言葉を飲み込ませた。
「どうした? 柚希?」
「あ……っと、ううん、何かあったとかじゃなくて、その……お墓を見ても実感が湧かなくて……」
苦しい言い訳だとは思いながらも、真意を悟られぬようにと理由をつける。功を奏したのかは分からないが、とりあえず納得したのか銀時は言った。
「……そりゃそうか。墓っつーのは遺された者の心を慰める役割もあるってェのに、あんな状態のままだからな。間違いねェよ。松陽は俺が……この手で……」
「そ……っか……」
声から伝わってくるのは、今も尚銀時の心を苦しめている後悔と悲しみ。こんな風に傷を抉りたくなど無かったが、柚希はこの事実をはっきりさせておかねばならなかった。
松陽の首を斬り落とした当の本人から訊いた覆しようのない事実により、吉田松陽はもう確実にこの世にはいないのだと、柚希は結論付ける。となれば、朧は何故あのような事を言ったのか。銀時の心の傷を憂いながらも、朧の言葉の真意が気になって仕方なかった。
「ごめんね、シロ。辛いことを思い出させて」
「いや、良いさ。墓参りに思い出話は付きもんだろ」
罪の意識を感じているであろう柚希の気持ちを考え、明るい声で言う銀時。しかし他にも数々の問題を抱えている柚希の心は晴れない。
「うん……でも……」
「ったく、な〜にしんみりしてんだよ。せっかく久しぶりに話せてんだから、明るくいこうぜ。そういやそっちにはあとどんくらい滞在する予定なんだ?」
柚希の声のトーンからそれを察した銀時が、話題を変えた。