第四章 〜絆〜(連載中)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日、出来る限りの家事をやっておこうと朝早くから動き回っていた柚希の元に、一本の電話が入る。それはお登勢からで、昨日の内に銀時が帰ってきたとの報告だった。何やら遅くまでバタバタとしていたらしく、今朝は未だ寝ているようだ。
「適当なところで電話してみな」
そう言ったお登勢は、「アンタもさっさと帰っておいで」と付け加えて電話を切る。言い方はそっけないのに温かいその一言は、柚希の頬を緩ませた。
受話器を置いて時計を見れば丁度九時を回ったところだ。緒方の診察も始まり、診療所も賑やかになっている。柚希の医師としての仕事は昨日で終えているため、今日からまた緒方は忙殺されることだろう。
「……急がなきゃね」
ここを去った後、悔いが残らぬように。そしてこれまで世話になった礼も兼ねて、仕事を終えた後に少しでも寛げるようにと、柚希は時間の許す限りあらゆる家事をこなしていった。
やがて十一時を回った頃、診察の合間を狙って緒方に言う。
「そろそろ出発します。色々とお世話になりました。冷蔵庫にお惣菜を作って入れておきましたので、食べて下さいね」
「それは嬉しいけど、もう行ってしまうのかい? 名残惜しいなぁ……江戸に戻っても元気でやるんだよ。またいつでも帰っておいで」
「ありがとうございます」
「ちなみに、銀時くんには連絡が付いたのかい?」
「いえ……生憎未だなんです。連絡が取れ次第、先生にも一報入れますね」
「分かった。道中気をつけて」
「はい、失礼します。先生もお元気で」
深々と頭を下げ、次の患者と入れ替わりに診察室を出る。待合室を通って診療所を出てしまえば、たった今までいたこの場所がとてつもなく遠く感じられ、寂しさを覚えた。
だが今はそんな感情に浸っている暇などない。
こちらに来た時よりも少しだけ重くなった荷物と共に柚希がまず向かったのは、診療所から少し歩いた所にある電話ボックス。予め用意していたテレホンカードを差し込むと、もう何度かけたか分からない番号を押した。
あの無機質な留守電に切り替わること無くコール音が鳴り、ガチャリと接続音が響く。
「はいは〜い、万事屋銀ちゃんでっす。せっかく電話くれたとこ悪ィけど、現在依頼はことわーー」
「シロ!」
気の抜けた声が受話器の向こうに聞こえ、柚希は思わず叫んだ。この世でたった一人しか口にすることを許していない名を呼ばれ、銀時も驚きの声を上げる。
「柚希……?」
「シロ……良かった、やっと繋がった……!」
ずっと聞きたかった声をようやく聞けて、泣きそうになる。少しでも近くに銀時を感じたいと、柚希は受話器を強く握りしめた。
「こっちに来てから何回も電話してるのに、ずっと留守電だったんだもの。お登勢さんからは仕事でお城に行ってるって聞いてたけど、こんなにも長い間一体何していたの? まさか泊まり込みで城内の植木の剪定とかじゃないよね? だとしてもこちらの所在は分かってるんだから、合間に連絡を入れてくれたって良いじゃない。ずっと心配してたんだから!」
「分かった、分かったからちょっと落ち着けって。銀さんが悪かったから。色々あって連絡する時間が無かったんだよ。将軍のボディーガードみてェな事をしてたからな」
「将軍様のボディーガード? ほんとに? シロってばどれだけ顔が広いのよ」
「これでも結構人気者なんだわ。どうよ、妬けるだろ?」
「全部妄想だって事は理解した」
「おいおい柚希ちゃ〜ん! 何でそういう結論になるのッ!?」
自然な流れで始まるふざけたやり取りは二週間ぶりだ。江戸を発つ直前、銀時が見せていたよそよそしさもあって、妙に懐かしく嬉しい。拗ねる銀時の声にクスクスと笑いながら、柚希は言った。
「冗談よ。将軍様と顔見知りっていうのは以前教えてもらったし、沖田さんからも聞いてたから分かってるわ」
「何でここに沖田くんが出てくんだよ」
「会う度に色々話してくれるんだもん。私の知らないシロを知ることが出来て、結構面白いのよね」
「あのサド王子、いつの間に柚希に取り入ってやがった……!」
「まあまあ、そんな事より将軍様のボディーガードってどういう事なの? シロに頼まなきゃいけないほどに危険な何かがあったってことよね。体は大丈夫なの?」
本来なら将軍の警護を一般人に依頼するなど、ありえない事だ。いくつか引っかかるものを感じながら柚希が訊ねると、銀時は面倒臭そうに答えた。
「あー、それはだなァ……神楽が姫さんと遊ぶって話になった時、暇してた将軍も一緒に遊びたいって言い出してよォ。けどお前も知っての通り、神楽の遊びはちっとばかし過激だろ? 万が一怪我でもされちゃいけねーからって、扱いを分かってる俺たちが駆り出されたわけよ。ったく、迷惑な話だぜ」
「要するに、ただ一緒に遊んでただけってこと?」
「ん〜、まァ端的に言やァそうだな」
「……ほんとにそれだけ?」
「おうよ」
きっぱりと言い切られ、これ以上の事は訊き辛い。だが納得のいかない柚希は、銀時の口調や声、息遣いから少しでも何かを読み取らんと、受話器に耳を強く押し当てていた。
「適当なところで電話してみな」
そう言ったお登勢は、「アンタもさっさと帰っておいで」と付け加えて電話を切る。言い方はそっけないのに温かいその一言は、柚希の頬を緩ませた。
受話器を置いて時計を見れば丁度九時を回ったところだ。緒方の診察も始まり、診療所も賑やかになっている。柚希の医師としての仕事は昨日で終えているため、今日からまた緒方は忙殺されることだろう。
「……急がなきゃね」
ここを去った後、悔いが残らぬように。そしてこれまで世話になった礼も兼ねて、仕事を終えた後に少しでも寛げるようにと、柚希は時間の許す限りあらゆる家事をこなしていった。
やがて十一時を回った頃、診察の合間を狙って緒方に言う。
「そろそろ出発します。色々とお世話になりました。冷蔵庫にお惣菜を作って入れておきましたので、食べて下さいね」
「それは嬉しいけど、もう行ってしまうのかい? 名残惜しいなぁ……江戸に戻っても元気でやるんだよ。またいつでも帰っておいで」
「ありがとうございます」
「ちなみに、銀時くんには連絡が付いたのかい?」
「いえ……生憎未だなんです。連絡が取れ次第、先生にも一報入れますね」
「分かった。道中気をつけて」
「はい、失礼します。先生もお元気で」
深々と頭を下げ、次の患者と入れ替わりに診察室を出る。待合室を通って診療所を出てしまえば、たった今までいたこの場所がとてつもなく遠く感じられ、寂しさを覚えた。
だが今はそんな感情に浸っている暇などない。
こちらに来た時よりも少しだけ重くなった荷物と共に柚希がまず向かったのは、診療所から少し歩いた所にある電話ボックス。予め用意していたテレホンカードを差し込むと、もう何度かけたか分からない番号を押した。
あの無機質な留守電に切り替わること無くコール音が鳴り、ガチャリと接続音が響く。
「はいは〜い、万事屋銀ちゃんでっす。せっかく電話くれたとこ悪ィけど、現在依頼はことわーー」
「シロ!」
気の抜けた声が受話器の向こうに聞こえ、柚希は思わず叫んだ。この世でたった一人しか口にすることを許していない名を呼ばれ、銀時も驚きの声を上げる。
「柚希……?」
「シロ……良かった、やっと繋がった……!」
ずっと聞きたかった声をようやく聞けて、泣きそうになる。少しでも近くに銀時を感じたいと、柚希は受話器を強く握りしめた。
「こっちに来てから何回も電話してるのに、ずっと留守電だったんだもの。お登勢さんからは仕事でお城に行ってるって聞いてたけど、こんなにも長い間一体何していたの? まさか泊まり込みで城内の植木の剪定とかじゃないよね? だとしてもこちらの所在は分かってるんだから、合間に連絡を入れてくれたって良いじゃない。ずっと心配してたんだから!」
「分かった、分かったからちょっと落ち着けって。銀さんが悪かったから。色々あって連絡する時間が無かったんだよ。将軍のボディーガードみてェな事をしてたからな」
「将軍様のボディーガード? ほんとに? シロってばどれだけ顔が広いのよ」
「これでも結構人気者なんだわ。どうよ、妬けるだろ?」
「全部妄想だって事は理解した」
「おいおい柚希ちゃ〜ん! 何でそういう結論になるのッ!?」
自然な流れで始まるふざけたやり取りは二週間ぶりだ。江戸を発つ直前、銀時が見せていたよそよそしさもあって、妙に懐かしく嬉しい。拗ねる銀時の声にクスクスと笑いながら、柚希は言った。
「冗談よ。将軍様と顔見知りっていうのは以前教えてもらったし、沖田さんからも聞いてたから分かってるわ」
「何でここに沖田くんが出てくんだよ」
「会う度に色々話してくれるんだもん。私の知らないシロを知ることが出来て、結構面白いのよね」
「あのサド王子、いつの間に柚希に取り入ってやがった……!」
「まあまあ、そんな事より将軍様のボディーガードってどういう事なの? シロに頼まなきゃいけないほどに危険な何かがあったってことよね。体は大丈夫なの?」
本来なら将軍の警護を一般人に依頼するなど、ありえない事だ。いくつか引っかかるものを感じながら柚希が訊ねると、銀時は面倒臭そうに答えた。
「あー、それはだなァ……神楽が姫さんと遊ぶって話になった時、暇してた将軍も一緒に遊びたいって言い出してよォ。けどお前も知っての通り、神楽の遊びはちっとばかし過激だろ? 万が一怪我でもされちゃいけねーからって、扱いを分かってる俺たちが駆り出されたわけよ。ったく、迷惑な話だぜ」
「要するに、ただ一緒に遊んでただけってこと?」
「ん〜、まァ端的に言やァそうだな」
「……ほんとにそれだけ?」
「おうよ」
きっぱりと言い切られ、これ以上の事は訊き辛い。だが納得のいかない柚希は、銀時の口調や声、息遣いから少しでも何かを読み取らんと、受話器に耳を強く押し当てていた。