第二章 ~松陽~(83P)
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それは当時、誰にでも起こりうる事だった。
家族皆でただ平和に、静かな時を過ごしたいと思っていただけなのに。
呆気ないほど簡単に全ては消失し、自分だけが一人とり残される。
その理由もよくある話で、父が攘夷志士だったから。
それなりに活躍していたらしく、天人たちにも相当恨まれていたという。父と私の家族は、その腹いせと見せしめに殺された。
たまたま友達と遊びに行っていた私が帰ると、家の中が赤く染まっていた事は覚えている。だがその詳細までは覚えていない。
多分子供の私にとっては、あまりにもショックが大きかったのだろう。感じていたはずの血の臭いも、きっと縋り付いたであろう冷たい感触も、記憶に残ってはいなかった。
ずっと住んでいた町だというのに、家族を亡くして身寄りの無くなった子供の私を受け入れてくれる場所は無く。あからさまに出て行けとは言わずとも、私には関わりたく無いと目をそらし、近付けばそそくさと逃げられた。
あまりの居心地の悪さにこの町を出て行く決心をした時、初めてこっそりと隣の住人に聞かされたのは、巻き添えを恐れていたという話で。
天人は攘夷志士を根絶やしにすべく、逆らう者やそれに関わる全てを同類とみなすと、町の者たちを脅していたらしい。
ならばどうして自分は殺されなかったのかと不思議ではあったが、多分私の家族が見せしめとなった事で、充分な効果が得られたからだろう。
私にとって、父は自慢の存在だった。
いつだって人との繋がりを大切にし、困っている人がいれば必ず手を差し伸べていた。
天人に襲われている者を助けるためにたった一人、不利な状況の中戦って大怪我をしたことだってある。
だからこそ私は父を誇りに思い、怪我をして帰ってきた父の助けになれればと、子供ながらに医学の知識を学ぼうとしてもいた。
母も縁の下の力持ちとして、いつも温かな笑顔を絶やさず家を守り、父を支えていたのだ。
それなのに、いざ私たちの家族に危機が迫っても、誰一人手を差し伸べる者はいなくて……。
人間とは、こんなにも薄情な生き物なのだと知ったのは、私が未だ十にも満たない子供だった頃――。
家族皆でただ平和に、静かな時を過ごしたいと思っていただけなのに。
呆気ないほど簡単に全ては消失し、自分だけが一人とり残される。
その理由もよくある話で、父が攘夷志士だったから。
それなりに活躍していたらしく、天人たちにも相当恨まれていたという。父と私の家族は、その腹いせと見せしめに殺された。
たまたま友達と遊びに行っていた私が帰ると、家の中が赤く染まっていた事は覚えている。だがその詳細までは覚えていない。
多分子供の私にとっては、あまりにもショックが大きかったのだろう。感じていたはずの血の臭いも、きっと縋り付いたであろう冷たい感触も、記憶に残ってはいなかった。
ずっと住んでいた町だというのに、家族を亡くして身寄りの無くなった子供の私を受け入れてくれる場所は無く。あからさまに出て行けとは言わずとも、私には関わりたく無いと目をそらし、近付けばそそくさと逃げられた。
あまりの居心地の悪さにこの町を出て行く決心をした時、初めてこっそりと隣の住人に聞かされたのは、巻き添えを恐れていたという話で。
天人は攘夷志士を根絶やしにすべく、逆らう者やそれに関わる全てを同類とみなすと、町の者たちを脅していたらしい。
ならばどうして自分は殺されなかったのかと不思議ではあったが、多分私の家族が見せしめとなった事で、充分な効果が得られたからだろう。
私にとって、父は自慢の存在だった。
いつだって人との繋がりを大切にし、困っている人がいれば必ず手を差し伸べていた。
天人に襲われている者を助けるためにたった一人、不利な状況の中戦って大怪我をしたことだってある。
だからこそ私は父を誇りに思い、怪我をして帰ってきた父の助けになれればと、子供ながらに医学の知識を学ぼうとしてもいた。
母も縁の下の力持ちとして、いつも温かな笑顔を絶やさず家を守り、父を支えていたのだ。
それなのに、いざ私たちの家族に危機が迫っても、誰一人手を差し伸べる者はいなくて……。
人間とは、こんなにも薄情な生き物なのだと知ったのは、私が未だ十にも満たない子供だった頃――。
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