第四章 〜絆〜(連載中)
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「ちょっとどうしたのよ、急に真っ青になってーー」
「小夜ちゃん教えて! あれって何? 一体誰を見たって言うの?」
つい先程まで幸せそうな顔を見せていた柚希が、立ち上がってテーブルに身を乗り出し、必死の形相で訊ねてくる。その顔は昔、小夜が「夜叉みたい」と言ってしまった時の柚希を思い起こさせ、正直戸惑った。
だがあの頃とは違い、二人とも大人になっている。そこに何か深い事情があるのだろうと察した小夜は、柚希の肩に手を置いて一旦座るよう促した。
「落ち着いてよ、柚希ちゃん。聞かれたことは分かる範囲で答えるから、ね」
「うん……」
静かな口調で言われてハッとしたのか、柚希は心を落ち着かせようと椅子に深く腰掛ける。そして再び訊ねた。
「取り乱してごめんなさい。改めて訊かせてくれるかな。……小夜ちゃんは何を見たの?」
「一言で言えば、白髪の男性ね。遠目だったけど天パなのは分かったから、私が知らなかっただけで、銀時くんも柚希ちゃんと一緒に帰ってきてるのかと思ってたんだけど……」
「私は桂くんと来たから、もし別件でこちらに来てたとしたら分からない。でも私が聞いてる限り、銀時は今頃江戸にいるはずよ」
「そうなの? じゃあ人違いなのかもなぁ。でも場所が場所だし……」
「いつ何処でその人を見たの?」
「昨日の夕方、松下村塾の跡地でよ。所用で近くを通った時、丁度松陽先生のお墓の方に向かう人影を見かけてね。あそこは小さな盛り土しかないから、そこに先生の遺髪を埋めたことを知ってる人しか行かないじゃない? だから私には銀時くん以外思いつかなかったんだ。それにしても、銀時くんじゃなかったら一体誰だったのかーー」
そこから先の小夜の言葉は、柚希の耳に入っていなかった。
ーーシロ以外の白髪天パで……しかもあの場所に行きそうな人物なんて、一人しかいないじゃない。何の思惑があってこの辺りをうろついてるの? まさか私を追って来たんじゃ……。
柚希の頭の中は、一番あって欲しくない可能性で占められていた。
「……ちゃん、柚希ちゃん!」
小夜が何度声をかけても、柚希からの返事は無い。「ねぇ!」と少し強めに体を揺らされ、ようやく小夜に呼ばれていたことに気付けたほどに、柚希は動揺していた。
「は、はいっ!?」
「大丈夫? そろそろ帰ろう。気分も悪そうだしさ」
「あの……ごめんなさい」
「ぜ〜んぜん問題なし。それよか落ち着いたら連絡してよ。その時にまた話を聞かせてもらうからさ。惚気とか恥ずかしい話とか、色々期待してるから」
「そういう期待はしなくて良いの!」
「あはは。そんじゃ、次回のお茶会を楽しみにしてるね〜!」
精算後、店の前で明るく別れの言葉を口にした小夜は、そのままあっさりと帰っていった。
「もう、ほんと小夜ちゃんってば……でもせっかく誘ってくれたのに、こんな形で解散になっちゃって申し訳なかったなぁ」
色々と気になっていただろうに。その気持ちを押し殺し、深く追求すること無く話を終わらせてくれた小夜に感謝する。
「いつか埋め合わせできるかな」
立ち去る小夜の後ろ姿を見送りながら呟いた柚希は、完全に小夜の姿が見えなくなるのを待って、自らも歩き出した。ただしその方角に緒方診療所は無い。
「今からでも……間に合うだろうか」
どこか重苦しい言葉を伴い店を後にした柚希が診療所に帰ったのは、小夜と別れてから二時間程が過ぎた頃だった。
「小夜ちゃん教えて! あれって何? 一体誰を見たって言うの?」
つい先程まで幸せそうな顔を見せていた柚希が、立ち上がってテーブルに身を乗り出し、必死の形相で訊ねてくる。その顔は昔、小夜が「夜叉みたい」と言ってしまった時の柚希を思い起こさせ、正直戸惑った。
だがあの頃とは違い、二人とも大人になっている。そこに何か深い事情があるのだろうと察した小夜は、柚希の肩に手を置いて一旦座るよう促した。
「落ち着いてよ、柚希ちゃん。聞かれたことは分かる範囲で答えるから、ね」
「うん……」
静かな口調で言われてハッとしたのか、柚希は心を落ち着かせようと椅子に深く腰掛ける。そして再び訊ねた。
「取り乱してごめんなさい。改めて訊かせてくれるかな。……小夜ちゃんは何を見たの?」
「一言で言えば、白髪の男性ね。遠目だったけど天パなのは分かったから、私が知らなかっただけで、銀時くんも柚希ちゃんと一緒に帰ってきてるのかと思ってたんだけど……」
「私は桂くんと来たから、もし別件でこちらに来てたとしたら分からない。でも私が聞いてる限り、銀時は今頃江戸にいるはずよ」
「そうなの? じゃあ人違いなのかもなぁ。でも場所が場所だし……」
「いつ何処でその人を見たの?」
「昨日の夕方、松下村塾の跡地でよ。所用で近くを通った時、丁度松陽先生のお墓の方に向かう人影を見かけてね。あそこは小さな盛り土しかないから、そこに先生の遺髪を埋めたことを知ってる人しか行かないじゃない? だから私には銀時くん以外思いつかなかったんだ。それにしても、銀時くんじゃなかったら一体誰だったのかーー」
そこから先の小夜の言葉は、柚希の耳に入っていなかった。
ーーシロ以外の白髪天パで……しかもあの場所に行きそうな人物なんて、一人しかいないじゃない。何の思惑があってこの辺りをうろついてるの? まさか私を追って来たんじゃ……。
柚希の頭の中は、一番あって欲しくない可能性で占められていた。
「……ちゃん、柚希ちゃん!」
小夜が何度声をかけても、柚希からの返事は無い。「ねぇ!」と少し強めに体を揺らされ、ようやく小夜に呼ばれていたことに気付けたほどに、柚希は動揺していた。
「は、はいっ!?」
「大丈夫? そろそろ帰ろう。気分も悪そうだしさ」
「あの……ごめんなさい」
「ぜ〜んぜん問題なし。それよか落ち着いたら連絡してよ。その時にまた話を聞かせてもらうからさ。惚気とか恥ずかしい話とか、色々期待してるから」
「そういう期待はしなくて良いの!」
「あはは。そんじゃ、次回のお茶会を楽しみにしてるね〜!」
精算後、店の前で明るく別れの言葉を口にした小夜は、そのままあっさりと帰っていった。
「もう、ほんと小夜ちゃんってば……でもせっかく誘ってくれたのに、こんな形で解散になっちゃって申し訳なかったなぁ」
色々と気になっていただろうに。その気持ちを押し殺し、深く追求すること無く話を終わらせてくれた小夜に感謝する。
「いつか埋め合わせできるかな」
立ち去る小夜の後ろ姿を見送りながら呟いた柚希は、完全に小夜の姿が見えなくなるのを待って、自らも歩き出した。ただしその方角に緒方診療所は無い。
「今からでも……間に合うだろうか」
どこか重苦しい言葉を伴い店を後にした柚希が診療所に帰ったのは、小夜と別れてから二時間程が過ぎた頃だった。