第四章 〜絆〜(連載中)
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それから二日ほど経った休診日。
柚希は小夜オススメのカフェで待ち合わせ、お喋りに興じていた。
この辺りは柚希が幼かった頃、皆でよく遊んでいた野原だった。しかし現在は若者たちの集うおしゃれなカフェや、小間物屋が建ち並んでいる。記憶とは大きく様変わりしたこの場所の風景と、かぶき町とはまた違った喧騒に戸惑いはありながらも、柚希は女友達との楽しい時間を堪能していた。
「この店は何を頼んでも美味しいんだけど、中でも一番有名なのは『味の特大宝石箱パフェ』なんだ」
「どこかで聞いたような名前ね。そんなに凄いパフェなの?」
「一般的なパフェの十倍の大きさなのよ」
「十倍? 冗談でしょ?」
「噂では、その日余ったデザート用食材を全盛りしてるって話だよ。実際閉店二時間前からしか注文できないメニューらしいし」
「その話が本当なら、頼む人なんていないんじゃないの?」
「いやぁ、それが意外といるみたいなのよね。大食い自慢の人とか、サークルのメンバーで集まってとか。ただ、目の前に出てくるまで内容が分からないから、当たり外れはあるらしいけど」
「『みたい』とか『らしい』って言ってるあたり、小夜ちゃんは見たことが無いわけか」
「あ、バレた? 興味はあるんだけど、さすがに一人でチャレンジする勇気はなくてね〜。ってなわけで柚希ちゃん、帰省の思い出に今日の夜、一緒にチャレンジしてみない?」
テーブルの向かいからキラキラとした眼差しで言う小夜に、「二人じゃどう足掻いても無理に決まってるでしょ!」と呆れたように返す柚希。だがすぐに何かを思い出したのか、フッと口元を緩めて言った。
「シロたちがいたら、頼んでたかもしれないなぁ」
「……銀時くんたち?」
柚希の言葉に小夜が反応する。『銀時』という名前にハッとした柚希は、少しだけ照れくさそうに頬を染めて小さく頷いた。
「うん……銀時は今、江戸でなんでも屋みたいな事をしてるんだけどね。そこの従業員の子がよく食べるのよ。銀時も相変わらず甘いものが大好きだし、あの三人なら多分ペロリだと思うわ」
「三人で食べ切れる計算ってことは、従業員は屈強な男たちってこと?」
「ううん、正反対で可愛い男の子と女の子。そんでもって多分大半を女の子が食べる計算。下手したらお代わりの可能性もあるかも」
「……銀時くんってば、ブラックホールでも雇ってるの?」
「そんなわけないでしょ。でも言い得て妙かも知れないな。どんなにおかずを作り過ぎたかと思っても、翌日まで残ることがないんだもん」
小夜の言葉がツボだったのか、お腹を抱えて笑いながら答える柚希。その楽しそうな姿を見ながら、小夜はふと思いつきを口にした。
「そういや柚希ちゃんは、今は江戸の病院で働いてるって話だったけど、もしかして銀時くんと一緒に住んでたりするわけ?」
再会して初めて柚希の口から出た銀時の名が、やけに親密に感じられたから。未だ松下村塾が健在だった頃から、柚希と銀時の間には深い絆を感じていたが、それとはまた違う感情が見え隠れしている気がしたのだ。
案の定、柚希が頷いて答える。その顔がとても幸せそうだったことから、思わず小夜は興奮気味に言った。
「ってことは……銀時くんと正式に付き合ってるの!?」
「……っ!」
小夜の言葉に、柚希の顔が一瞬で朱に染まった。その反応は、柚希が何も言わずとも答えを明確にする。あまりにも分かりやすい態度で思わず笑ってしまった小夜だったが、それは同時に小夜の中で忘れられていた記憶を呼び起こした。
「そっか。ようやくくっついたんだね」
「どういう事?」
ようやくという言葉が引っかかり、真っ赤な顔のまま柚希が訊ねる。悩む素振りを見せたものの、「昔の話だからね」と前置きした小夜は、思い出話を語り出した。
「私が松下村塾に入ってしばらく経った頃、銀時くんに言ったことがあるんだ。私も銀時くんのこと、シロくんって呼んで良い? って」
「え……?」
「今だから言える話、当時の私は銀時くんに淡い恋心を持ってたのよ。でも銀時くんはいつも柚希ちゃんばかり見ててさ〜」
「それは……元々私達は松陽先生に拾われた義姉弟のようなものだったからで……」
「もちろん家族としての情はあっただろうけど、少なくとも銀時くんは、それ以上の感情を柚希ちゃんに持ってたよ。フラレた私が言うんだから、間違いないわ」
「フラレた……?」
「そ。私も柚希ちゃんみたいに『シロ』って呼びたいって……銀時くんともっと仲良くなりたいって言った時、彼がなんて言ったか分かる?」
「……なんて言ったの?」
いつしか柚希の頬の赤みは消えている。不安な気持ちを抑え、真剣な瞳で話を訊く柚希に、小夜はクスリと微笑んで続けた。
「悪ィけど、シロってのはアイツが俺に付けた名だ。だから後にも先にも、俺をシロって呼んで良いのはアイツだけなんだよ。例え他の誰にその名を呼ばれても、俺はアイツが呼んだ時しか応える気はねェから。……そうはっきりと言い切ったんだよ」
「そんな事があったんだ……」
「なんかもうショックを通り越して清々しくてね。だからこそ、二人がちゃんとくっついてくれる日を心待ちにしてたのよ。でもそうこうしている内に松陽先生が攫われて、松下村塾もあんな事になっちゃったから……あれから随分と時間は経っちゃったけど、こうして二人が付き合ってるって話を直接聞けて、凄く嬉しいよ」
「小夜ちゃん……」
小夜の温かい言葉に、目頭が熱くなる。
自分の知らない所で語られていた銀時の想いをも知ることができ、柚希の胸は一杯になっていた。
柚希は小夜オススメのカフェで待ち合わせ、お喋りに興じていた。
この辺りは柚希が幼かった頃、皆でよく遊んでいた野原だった。しかし現在は若者たちの集うおしゃれなカフェや、小間物屋が建ち並んでいる。記憶とは大きく様変わりしたこの場所の風景と、かぶき町とはまた違った喧騒に戸惑いはありながらも、柚希は女友達との楽しい時間を堪能していた。
「この店は何を頼んでも美味しいんだけど、中でも一番有名なのは『味の特大宝石箱パフェ』なんだ」
「どこかで聞いたような名前ね。そんなに凄いパフェなの?」
「一般的なパフェの十倍の大きさなのよ」
「十倍? 冗談でしょ?」
「噂では、その日余ったデザート用食材を全盛りしてるって話だよ。実際閉店二時間前からしか注文できないメニューらしいし」
「その話が本当なら、頼む人なんていないんじゃないの?」
「いやぁ、それが意外といるみたいなのよね。大食い自慢の人とか、サークルのメンバーで集まってとか。ただ、目の前に出てくるまで内容が分からないから、当たり外れはあるらしいけど」
「『みたい』とか『らしい』って言ってるあたり、小夜ちゃんは見たことが無いわけか」
「あ、バレた? 興味はあるんだけど、さすがに一人でチャレンジする勇気はなくてね〜。ってなわけで柚希ちゃん、帰省の思い出に今日の夜、一緒にチャレンジしてみない?」
テーブルの向かいからキラキラとした眼差しで言う小夜に、「二人じゃどう足掻いても無理に決まってるでしょ!」と呆れたように返す柚希。だがすぐに何かを思い出したのか、フッと口元を緩めて言った。
「シロたちがいたら、頼んでたかもしれないなぁ」
「……銀時くんたち?」
柚希の言葉に小夜が反応する。『銀時』という名前にハッとした柚希は、少しだけ照れくさそうに頬を染めて小さく頷いた。
「うん……銀時は今、江戸でなんでも屋みたいな事をしてるんだけどね。そこの従業員の子がよく食べるのよ。銀時も相変わらず甘いものが大好きだし、あの三人なら多分ペロリだと思うわ」
「三人で食べ切れる計算ってことは、従業員は屈強な男たちってこと?」
「ううん、正反対で可愛い男の子と女の子。そんでもって多分大半を女の子が食べる計算。下手したらお代わりの可能性もあるかも」
「……銀時くんってば、ブラックホールでも雇ってるの?」
「そんなわけないでしょ。でも言い得て妙かも知れないな。どんなにおかずを作り過ぎたかと思っても、翌日まで残ることがないんだもん」
小夜の言葉がツボだったのか、お腹を抱えて笑いながら答える柚希。その楽しそうな姿を見ながら、小夜はふと思いつきを口にした。
「そういや柚希ちゃんは、今は江戸の病院で働いてるって話だったけど、もしかして銀時くんと一緒に住んでたりするわけ?」
再会して初めて柚希の口から出た銀時の名が、やけに親密に感じられたから。未だ松下村塾が健在だった頃から、柚希と銀時の間には深い絆を感じていたが、それとはまた違う感情が見え隠れしている気がしたのだ。
案の定、柚希が頷いて答える。その顔がとても幸せそうだったことから、思わず小夜は興奮気味に言った。
「ってことは……銀時くんと正式に付き合ってるの!?」
「……っ!」
小夜の言葉に、柚希の顔が一瞬で朱に染まった。その反応は、柚希が何も言わずとも答えを明確にする。あまりにも分かりやすい態度で思わず笑ってしまった小夜だったが、それは同時に小夜の中で忘れられていた記憶を呼び起こした。
「そっか。ようやくくっついたんだね」
「どういう事?」
ようやくという言葉が引っかかり、真っ赤な顔のまま柚希が訊ねる。悩む素振りを見せたものの、「昔の話だからね」と前置きした小夜は、思い出話を語り出した。
「私が松下村塾に入ってしばらく経った頃、銀時くんに言ったことがあるんだ。私も銀時くんのこと、シロくんって呼んで良い? って」
「え……?」
「今だから言える話、当時の私は銀時くんに淡い恋心を持ってたのよ。でも銀時くんはいつも柚希ちゃんばかり見ててさ〜」
「それは……元々私達は松陽先生に拾われた義姉弟のようなものだったからで……」
「もちろん家族としての情はあっただろうけど、少なくとも銀時くんは、それ以上の感情を柚希ちゃんに持ってたよ。フラレた私が言うんだから、間違いないわ」
「フラレた……?」
「そ。私も柚希ちゃんみたいに『シロ』って呼びたいって……銀時くんともっと仲良くなりたいって言った時、彼がなんて言ったか分かる?」
「……なんて言ったの?」
いつしか柚希の頬の赤みは消えている。不安な気持ちを抑え、真剣な瞳で話を訊く柚希に、小夜はクスリと微笑んで続けた。
「悪ィけど、シロってのはアイツが俺に付けた名だ。だから後にも先にも、俺をシロって呼んで良いのはアイツだけなんだよ。例え他の誰にその名を呼ばれても、俺はアイツが呼んだ時しか応える気はねェから。……そうはっきりと言い切ったんだよ」
「そんな事があったんだ……」
「なんかもうショックを通り越して清々しくてね。だからこそ、二人がちゃんとくっついてくれる日を心待ちにしてたのよ。でもそうこうしている内に松陽先生が攫われて、松下村塾もあんな事になっちゃったから……あれから随分と時間は経っちゃったけど、こうして二人が付き合ってるって話を直接聞けて、凄く嬉しいよ」
「小夜ちゃん……」
小夜の温かい言葉に、目頭が熱くなる。
自分の知らない所で語られていた銀時の想いをも知ることができ、柚希の胸は一杯になっていた。