第四章 〜絆〜(連載中)
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その後小一時間ほど他愛のない話をして万屋を後にした柚希は、緒方との約束通り夕食の買い物をすべく商店街を歩いて行く。道すがら店先に置かれた蕎麦を見かけ、桂の旅の疲れが取れればと思いながら診療所に戻ったが、既にそこに桂の姿は無かった。
「先生、桂くんは……?」
「急用が出来たからと、エリザベスくんと一緒に出ていったよ」
「そんな、あの傷で!?」
「傷なら大丈夫。柚希ちゃんの治療は完璧だったし、僕も今出来る処置をしておいたからね。あとは日にち薬で十分だ」
本日の診察が終わり、凝った肩をグルグルと回しながらのほほんと答える緒方。だがそれを素直に受け入れてしまうほど、柚希は単純ではない。
「完璧のはず無いじゃないですか。ここに到着したときも、あれだけ出血していたのに」
「そこはそう、僕のゴッドハンドが唸っちゃったわけだなぁ。弟子から師匠への連係プレーってやつ? いやぁ、やっぱり僕たちは最強の師弟コンビだね」
「茶化さないで下さいっ!……今からでも間に合うかな。ちょっと桂くんを追いかけて……」
傷の深さは自分が一番よく分かっている。いくら緒方が名医と言えども、縫ったはずの傷口からあれだけ出血していれば、体への負担は相当なものだろう。どんな事情であれ、ここから移動するのは無謀だと考えた柚希は、桂を連れ戻そうと駆け出した。
ところがそれを、緒方が制止する。
「待ちなさい。追いかけても無駄だよ。君が畑中くんの所に向かってすぐ、桂くんは出て行ったからね」
「何でその時に止めなかったんですか!?」
納得の行かない柚希が、攻めるような口調で聞く。自分に向けられた必死の形相に思うところはあったが、今胸の内を明かすわけにはいかない緒方はゆっくりと、柚希を諭すように言った。
「実際に傷を診て、君の治療が完璧だったと僕が確信したんだ。あの出血は……見た目ほど大変なものでも無かったよ。それに桂くんは、若くて体力もある。回復も早いだろうし、何よりエリザベスくんも一緒だから心配する必要はないよ」
「でも……」
「……そんなに僕の診立ては信用できないかい?」
ーー我ながら、卑怯な物言いだな。
そう心で思いながらも、敢えて緒方は口にした。案の定、反論のできなくなった柚希は「いえ、決して!」と慌てて両手を振る。そして一拍置き、緒方を見つめながらフッと口角を上げた。
「……分かりました。あとは桂くんの回復力と、エリザベスに任せます」
返ってきたのは緒方の思惑通りの言葉。もちろん柚希の本心ではなく、緒方を立てるためだけに発せられた物だ。それが分かっているだけに複雑な思いを抱きながら、緒方はせめてもと精一杯の笑顔を見せて頷く。そして場の空気を変えるべく、腹を叩いて「しかしさすがに腹が減ったなぁ。今夜のメニューは何だい?」とおどけると、柚希の持ち帰った買い物袋に手を伸ばしたのだった。
「先生、桂くんは……?」
「急用が出来たからと、エリザベスくんと一緒に出ていったよ」
「そんな、あの傷で!?」
「傷なら大丈夫。柚希ちゃんの治療は完璧だったし、僕も今出来る処置をしておいたからね。あとは日にち薬で十分だ」
本日の診察が終わり、凝った肩をグルグルと回しながらのほほんと答える緒方。だがそれを素直に受け入れてしまうほど、柚希は単純ではない。
「完璧のはず無いじゃないですか。ここに到着したときも、あれだけ出血していたのに」
「そこはそう、僕のゴッドハンドが唸っちゃったわけだなぁ。弟子から師匠への連係プレーってやつ? いやぁ、やっぱり僕たちは最強の師弟コンビだね」
「茶化さないで下さいっ!……今からでも間に合うかな。ちょっと桂くんを追いかけて……」
傷の深さは自分が一番よく分かっている。いくら緒方が名医と言えども、縫ったはずの傷口からあれだけ出血していれば、体への負担は相当なものだろう。どんな事情であれ、ここから移動するのは無謀だと考えた柚希は、桂を連れ戻そうと駆け出した。
ところがそれを、緒方が制止する。
「待ちなさい。追いかけても無駄だよ。君が畑中くんの所に向かってすぐ、桂くんは出て行ったからね」
「何でその時に止めなかったんですか!?」
納得の行かない柚希が、攻めるような口調で聞く。自分に向けられた必死の形相に思うところはあったが、今胸の内を明かすわけにはいかない緒方はゆっくりと、柚希を諭すように言った。
「実際に傷を診て、君の治療が完璧だったと僕が確信したんだ。あの出血は……見た目ほど大変なものでも無かったよ。それに桂くんは、若くて体力もある。回復も早いだろうし、何よりエリザベスくんも一緒だから心配する必要はないよ」
「でも……」
「……そんなに僕の診立ては信用できないかい?」
ーー我ながら、卑怯な物言いだな。
そう心で思いながらも、敢えて緒方は口にした。案の定、反論のできなくなった柚希は「いえ、決して!」と慌てて両手を振る。そして一拍置き、緒方を見つめながらフッと口角を上げた。
「……分かりました。あとは桂くんの回復力と、エリザベスに任せます」
返ってきたのは緒方の思惑通りの言葉。もちろん柚希の本心ではなく、緒方を立てるためだけに発せられた物だ。それが分かっているだけに複雑な思いを抱きながら、緒方はせめてもと精一杯の笑顔を見せて頷く。そして場の空気を変えるべく、腹を叩いて「しかしさすがに腹が減ったなぁ。今夜のメニューは何だい?」とおどけると、柚希の持ち帰った買い物袋に手を伸ばしたのだった。