第四章 〜絆〜(連載中)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「滞在時間十分……も無かったよね」
柚希が複雑な笑みを浮かべながら万屋に戻ると、丁度お茶の準備ができたところだったのだろう。千代が盆を手にして立っていた。
「あれまぁ。もう話が終わっちまったのかい?」
「はい、速攻追い出されちゃいました」
「そりゃ悪いことしたねぇ。あんなバカでも、久しぶりに会ったんだから話をしたかっただろう」
「仕事を頼んじゃったので、文句は言えません。その代わり終わったら機関銃みたいに喋ってやりますよ」
「ああ、そうしておやり。でもその前にーー」
そこまで続いた会話を一旦切った千代が、店の奥にある部屋に入るよう、柚希を促す。
「せっかく来てくれたんだ。少し私の相手もしておくれ」
そう言って千代は、テーブルを挟んで柚希と向かい合わせに座った。
茶と茶菓子をテーブルに並べながら、千代が言う。
「離れでどんな話をしてきたかは知らないけど、あんな短時間じゃまともな会話もできやしなかっただろう。せっかく来てくれたんだし、お互いの近況報告でもしようじゃないか」
「お気遣いありがとうございます」
「別に気遣いなんかじゃないよ。私もあれから柚希ちゃんがどうしていたのか、気になってたからね。桂くんからだけは、いくらか話を聞いてたけどさ」
「そうですか……とりあえず今私は銀時と一緒に江戸にいます」
「一緒に……って事は何かい? めでたく二人は夫婦になったと」
「い、いえ、結婚してるわけじゃないんですけど……」
「不純異性交遊は許さないよ」
「いや、ちょっと待っておばちゃん。目が本気で怖いから」
「あはははは。冗談だよ、冗談。もう二人とも良い大人だもんねぇ」
「……絶対今の、冗談じゃなかったよね……」
「何にしても、今は二人とも幸せに暮らしてるってことだね。安心したよ」
豪快に笑う千代に呆れながらも、柚希の顔には笑顔が浮かんでいた。まるで空白の時間など無かったように接してくれる存在は、柚希の心を軽くする。おかげで柚希は、悩むこと無く自らの胸の内を語ることができた。
「私も気になっていたことがあるので、聞いて良いですか?」
「ん? 何をだい?」
「親父様のお墓のことです。あのお墓はどういう経緯で作られたのか。どうしてあんな状態なのかを知りたくて」
千代をまっすぐ見つめながら言った柚希の脳裏に浮かぶ、松陽の墓。それは松下村塾の焼け跡にぽつんと存在する、ただの小さな盛り土だった。
「あのお墓は、そもそも誰が作ったんですか? しかも言われなければ分からない状態で、墓標すら無いとは思っていなかったので……今回こちらに足を運ぶきっかけとなる、お墓参りを提案した桂くんに聞いても『銀時に聞け』と言って教えてくれなかったんです」
「そうなのかい? じゃあ銀時くんに聞いてごらんよ」
「それだと江戸に戻ってから聞くことになるので、ご存知なら教えて下さい」
「口止めされているわけじゃないし、柚希ちゃんが良いなら……まぁ誰がと言われたら、桂くんだよ。松陽くんの訃報を伝えにやって来た彼が、松陽くんの遺髪をあの場所に埋めたのさ。墓標については私達も尋ねたけれど、今は建てられないと言ってね」
「今は……?」
「あの時は桂くんしかいなかったからね。銀時くん、高杉くん、そして柚希ちゃんが一堂に会する事が出来た時、一緒に建てるんだって」
柚希が生きているかすら分からなかったあの頃。もう無理だと思う気持ちはありながらも、柚希の生存に一縷の望みをかけていたようだ。
ーー松下村塾の仲間たちが再び集える日を。
ーーまた皆で松陽を囲める日を。
「元々は、銀時くんが言い出したことらしいよ。だから桂くんは遺髪を埋めただけで、何も建てようとはしなかった」
「シ……銀時らしいですね」
「そういや松陽くんが亡くなった時、柚希ちゃんはその場にいなかったそうだね。一体どこにいたんだい?」
話の流れから、今度は千代が柚希に尋ねる。千代もまた、胸の内に多くの疑問を抱えていた。
柚希が複雑な笑みを浮かべながら万屋に戻ると、丁度お茶の準備ができたところだったのだろう。千代が盆を手にして立っていた。
「あれまぁ。もう話が終わっちまったのかい?」
「はい、速攻追い出されちゃいました」
「そりゃ悪いことしたねぇ。あんなバカでも、久しぶりに会ったんだから話をしたかっただろう」
「仕事を頼んじゃったので、文句は言えません。その代わり終わったら機関銃みたいに喋ってやりますよ」
「ああ、そうしておやり。でもその前にーー」
そこまで続いた会話を一旦切った千代が、店の奥にある部屋に入るよう、柚希を促す。
「せっかく来てくれたんだ。少し私の相手もしておくれ」
そう言って千代は、テーブルを挟んで柚希と向かい合わせに座った。
茶と茶菓子をテーブルに並べながら、千代が言う。
「離れでどんな話をしてきたかは知らないけど、あんな短時間じゃまともな会話もできやしなかっただろう。せっかく来てくれたんだし、お互いの近況報告でもしようじゃないか」
「お気遣いありがとうございます」
「別に気遣いなんかじゃないよ。私もあれから柚希ちゃんがどうしていたのか、気になってたからね。桂くんからだけは、いくらか話を聞いてたけどさ」
「そうですか……とりあえず今私は銀時と一緒に江戸にいます」
「一緒に……って事は何かい? めでたく二人は夫婦になったと」
「い、いえ、結婚してるわけじゃないんですけど……」
「不純異性交遊は許さないよ」
「いや、ちょっと待っておばちゃん。目が本気で怖いから」
「あはははは。冗談だよ、冗談。もう二人とも良い大人だもんねぇ」
「……絶対今の、冗談じゃなかったよね……」
「何にしても、今は二人とも幸せに暮らしてるってことだね。安心したよ」
豪快に笑う千代に呆れながらも、柚希の顔には笑顔が浮かんでいた。まるで空白の時間など無かったように接してくれる存在は、柚希の心を軽くする。おかげで柚希は、悩むこと無く自らの胸の内を語ることができた。
「私も気になっていたことがあるので、聞いて良いですか?」
「ん? 何をだい?」
「親父様のお墓のことです。あのお墓はどういう経緯で作られたのか。どうしてあんな状態なのかを知りたくて」
千代をまっすぐ見つめながら言った柚希の脳裏に浮かぶ、松陽の墓。それは松下村塾の焼け跡にぽつんと存在する、ただの小さな盛り土だった。
「あのお墓は、そもそも誰が作ったんですか? しかも言われなければ分からない状態で、墓標すら無いとは思っていなかったので……今回こちらに足を運ぶきっかけとなる、お墓参りを提案した桂くんに聞いても『銀時に聞け』と言って教えてくれなかったんです」
「そうなのかい? じゃあ銀時くんに聞いてごらんよ」
「それだと江戸に戻ってから聞くことになるので、ご存知なら教えて下さい」
「口止めされているわけじゃないし、柚希ちゃんが良いなら……まぁ誰がと言われたら、桂くんだよ。松陽くんの訃報を伝えにやって来た彼が、松陽くんの遺髪をあの場所に埋めたのさ。墓標については私達も尋ねたけれど、今は建てられないと言ってね」
「今は……?」
「あの時は桂くんしかいなかったからね。銀時くん、高杉くん、そして柚希ちゃんが一堂に会する事が出来た時、一緒に建てるんだって」
柚希が生きているかすら分からなかったあの頃。もう無理だと思う気持ちはありながらも、柚希の生存に一縷の望みをかけていたようだ。
ーー松下村塾の仲間たちが再び集える日を。
ーーまた皆で松陽を囲める日を。
「元々は、銀時くんが言い出したことらしいよ。だから桂くんは遺髪を埋めただけで、何も建てようとはしなかった」
「シ……銀時らしいですね」
「そういや松陽くんが亡くなった時、柚希ちゃんはその場にいなかったそうだね。一体どこにいたんだい?」
話の流れから、今度は千代が柚希に尋ねる。千代もまた、胸の内に多くの疑問を抱えていた。