第四章 〜絆〜(連載中)
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「つまりこの玉は、テロ活動の中で生まれた秘密兵器というわけですか?」
「んな大層なもんじゃねーよ。からくりを突き詰めている内にできた、偶然の産物だ」
そう言ってニヤリと笑った畑中は、柚希から受け取った玉を手元の扇子に収めると、それを柚希に渡した。
「試してみると良い」
相当の自信があるのか、多くを語らぬ畑中に、柚希はコクリと頷く。持った時の感触、大きさ、重さを確認した柚希は、正面の壁に向けて扇子を振り下ろした。
勢いよく飛び出した二つの玉が、壁に空いていた穴と寸分違わぬ位置に重なる。しかし玉が穴の中へとめり込むことは無く、柚希の手元へと戻ってきた。
「……恐ろしいやつだな」
一連の流れを見ていた畑中が、ため息を吐きながら言う。
「飛び出す玉の数を手元で調節出来ることは、敢えて説明しなかったってのに。天性の才能ってやつか? これ以上壁に傷付けないよう、配慮する余裕まで見せやがって」
「おじさんはともかく、おばちゃんに迷惑はかけたくないですもん。それと、思い通りに扱えたのは才能なんかじゃなくて、実戦経験で培った勘ではないかと。……それにしても、以前のものより格段に扱いやすくなってますね」
「細かい改良を重ねたからな。あとは嬢ちゃん自身の体躯の変化もあるだろう」
畑中が腕を曲げて力こぶを叩いて見せれば、苦笑いをする柚希。
「馬鹿力って言いたいんですか?」
「その辺は想像に任せるさ」
楽しそうにニヤリと笑った畑中は、返された扇子を受け取ると、その場にドカリと座り込んだ。
「まァ新作発表会はここまでとしてだな」
「新作発表会……言い得て妙と言って良いのかどうか」
「細けェことは気にすんな。それよかお前さん、ただ俺に挨拶に来ただけってわけじゃねェんだろ?」
見上げながら柚希にも座るよう指で示す畑中に、「さすがおじさん、察しが良いですね」と言って正面に座る柚希。そして懐から取り出した扇子を畳に並べると、深々と頭を下げて言った。
「これらの修理とメンテナンスをお願いしたくて」
「ほォ……よもやとは思ったが、未だ持ってたんだな」
「あの時頂いた全ては無理でしたが、何とかこれだけは残せました。この扇子たちは、何度も私の命を救ってくれたんです。ありがとうございました」
よほど激しい戦火をくぐり抜けてきたのだろう。幾度も修復されたと思しき跡からは、柚希がこれらをいかに大切にしてきたのかが見て取れた。
「そうか……そいつァ良かったな」
歳を重ねたせいだろうか。傷だらけの扇子を目にした瞬間、ぐっとこみ上げるものがあり、畑中の唇が震える。だが自らの意思でその震えを抑え込むと、一本一本を丁寧に確認していった。
「……さすがにガタが来ちまってるな。一本だけは、複数の人間が手を加えてる事で、ギリギリ体裁を保っちゃいるようだが」
「さすがですね。やっぱり分かりますか」
「認めたかねェが、そいつらはかなりの技術を持ってるようだ。ちっとばかし反則的な部分はあるものの、嬢ちゃんにとってはかなり使い勝手が良かっただろう」
「ええ。この扇子と、手を加えてくれた人達には、本当に助けられました」
「良い出会いがあって何よりだ」
嬉しそうに話していても、その瞳の奥には寂しさが宿っている。それに気付いた畑中は、柚希の頭をポンポンと優しく叩いた。
「ま、俺んとこに戻ってきたからには、責任持ってメンテしてやるから任せとけ」
「はい、ありがとうございます」
頼もしい言葉を返されたことで、ホッと安堵の息を漏らす柚希。だが畑中の次の言葉で、その吐いたばかりの息を飲み込むこととなる。
「メンテはしてやるが、今後お前さんはこれをどうするつもりだ? 攘夷戦争はとっくに終結してるってェのに、未だ戦い続ける気でいるのか?」
「それは……」
心の内を探られ、柚希は言葉を詰まらせた。何も言えなくなった柚希を見た畑中は、柚希の頭に手を置いたまま、神妙な面持ちで続ける。
「元々コイツは、天人たちと戦うために作ったカラクリ武器だ。そんなモンを、ガキの頃のお前さんに与えちまった俺が言えた義理じゃねェんだけどよ……命を粗末にだけはすんな。それが守れねェようなら、メンテ代一桁増やすぞ」
「何ですかそのボッタクリ発言は」
「人聞き悪ィ事言うな。俺は常々良心価格でやってんだよ。本気で桁増やされてェか?」
「滅相もない。良心価格のままでお願いしまーす」
張り詰めた空気を和ませようとしてか、おどけた仕草で頼む柚希。そこに何を感じたのか、「お前さんの心がけ次第だ」と言った畑中は、柚希の額を軽くペシリと叩いた。
「嬢ちゃんの恩人たちの痕跡を残したまま、俺の最高の技術を加えたモンにしてやるよ」
そう言って柚希の髪をくしゃくしゃとかき混ぜた畑中は、早速作業に取り掛かるべく、全ての扇子を拾い上げた。
「んな大層なもんじゃねーよ。からくりを突き詰めている内にできた、偶然の産物だ」
そう言ってニヤリと笑った畑中は、柚希から受け取った玉を手元の扇子に収めると、それを柚希に渡した。
「試してみると良い」
相当の自信があるのか、多くを語らぬ畑中に、柚希はコクリと頷く。持った時の感触、大きさ、重さを確認した柚希は、正面の壁に向けて扇子を振り下ろした。
勢いよく飛び出した二つの玉が、壁に空いていた穴と寸分違わぬ位置に重なる。しかし玉が穴の中へとめり込むことは無く、柚希の手元へと戻ってきた。
「……恐ろしいやつだな」
一連の流れを見ていた畑中が、ため息を吐きながら言う。
「飛び出す玉の数を手元で調節出来ることは、敢えて説明しなかったってのに。天性の才能ってやつか? これ以上壁に傷付けないよう、配慮する余裕まで見せやがって」
「おじさんはともかく、おばちゃんに迷惑はかけたくないですもん。それと、思い通りに扱えたのは才能なんかじゃなくて、実戦経験で培った勘ではないかと。……それにしても、以前のものより格段に扱いやすくなってますね」
「細かい改良を重ねたからな。あとは嬢ちゃん自身の体躯の変化もあるだろう」
畑中が腕を曲げて力こぶを叩いて見せれば、苦笑いをする柚希。
「馬鹿力って言いたいんですか?」
「その辺は想像に任せるさ」
楽しそうにニヤリと笑った畑中は、返された扇子を受け取ると、その場にドカリと座り込んだ。
「まァ新作発表会はここまでとしてだな」
「新作発表会……言い得て妙と言って良いのかどうか」
「細けェことは気にすんな。それよかお前さん、ただ俺に挨拶に来ただけってわけじゃねェんだろ?」
見上げながら柚希にも座るよう指で示す畑中に、「さすがおじさん、察しが良いですね」と言って正面に座る柚希。そして懐から取り出した扇子を畳に並べると、深々と頭を下げて言った。
「これらの修理とメンテナンスをお願いしたくて」
「ほォ……よもやとは思ったが、未だ持ってたんだな」
「あの時頂いた全ては無理でしたが、何とかこれだけは残せました。この扇子たちは、何度も私の命を救ってくれたんです。ありがとうございました」
よほど激しい戦火をくぐり抜けてきたのだろう。幾度も修復されたと思しき跡からは、柚希がこれらをいかに大切にしてきたのかが見て取れた。
「そうか……そいつァ良かったな」
歳を重ねたせいだろうか。傷だらけの扇子を目にした瞬間、ぐっとこみ上げるものがあり、畑中の唇が震える。だが自らの意思でその震えを抑え込むと、一本一本を丁寧に確認していった。
「……さすがにガタが来ちまってるな。一本だけは、複数の人間が手を加えてる事で、ギリギリ体裁を保っちゃいるようだが」
「さすがですね。やっぱり分かりますか」
「認めたかねェが、そいつらはかなりの技術を持ってるようだ。ちっとばかし反則的な部分はあるものの、嬢ちゃんにとってはかなり使い勝手が良かっただろう」
「ええ。この扇子と、手を加えてくれた人達には、本当に助けられました」
「良い出会いがあって何よりだ」
嬉しそうに話していても、その瞳の奥には寂しさが宿っている。それに気付いた畑中は、柚希の頭をポンポンと優しく叩いた。
「ま、俺んとこに戻ってきたからには、責任持ってメンテしてやるから任せとけ」
「はい、ありがとうございます」
頼もしい言葉を返されたことで、ホッと安堵の息を漏らす柚希。だが畑中の次の言葉で、その吐いたばかりの息を飲み込むこととなる。
「メンテはしてやるが、今後お前さんはこれをどうするつもりだ? 攘夷戦争はとっくに終結してるってェのに、未だ戦い続ける気でいるのか?」
「それは……」
心の内を探られ、柚希は言葉を詰まらせた。何も言えなくなった柚希を見た畑中は、柚希の頭に手を置いたまま、神妙な面持ちで続ける。
「元々コイツは、天人たちと戦うために作ったカラクリ武器だ。そんなモンを、ガキの頃のお前さんに与えちまった俺が言えた義理じゃねェんだけどよ……命を粗末にだけはすんな。それが守れねェようなら、メンテ代一桁増やすぞ」
「何ですかそのボッタクリ発言は」
「人聞き悪ィ事言うな。俺は常々良心価格でやってんだよ。本気で桁増やされてェか?」
「滅相もない。良心価格のままでお願いしまーす」
張り詰めた空気を和ませようとしてか、おどけた仕草で頼む柚希。そこに何を感じたのか、「お前さんの心がけ次第だ」と言った畑中は、柚希の額を軽くペシリと叩いた。
「嬢ちゃんの恩人たちの痕跡を残したまま、俺の最高の技術を加えたモンにしてやるよ」
そう言って柚希の髪をくしゃくしゃとかき混ぜた畑中は、早速作業に取り掛かるべく、全ての扇子を拾い上げた。