第四章 〜絆〜(連載中)
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その日の3時頃。
何とか全ての引き継ぎを終え、病院に無理を言って強引にもぎ取った長期休暇をスタートさせた柚希は、桂と共に松陽の墓のある松下村塾跡へと出発していた。
出発直前、柚希は改めて万事屋に電話を入れたのだが、誰も電話口に出る事はなく。代わりに流れた無機質な留守番電話は、『従業員不在のため、暫く休業します』という、聞いたことのない物だった。
不安げに受話器を握る柚希に、桂は「リーダーと新八くんも一緒なのだぞ。何を心配する必要がある」と事もなげに言う。そして柚希の手から奪い取るように受話器を取り上げると、電話を切ってしまったのだった。
「……未だ怪我が治ってないのに、どうやって長距離移動するのかと思ってたら……」
複雑な表情を見せる柚希の横には桂がいる。だが彼の体は柚希よりも幾分か高い位置にあった。
「その状態でずっと旅を続ける気?」
【問題無い】
「……貴方も大変ね」
ヒョイと出されたプラカードの文字を確認し、その持ち主に向けて言う。桂から『エリザベス』と紹介された天人は、桂を肩車して飄々と歩いていた。
「昔から誰よりもおかしな事をする人ではあったけど、こんな移動法を見せられるとは予想外だったわ」
「そうか? エリザベスは俺の大切な仲間であり、誰よりも信頼できる有能な部下でもある。お主も元攘夷志士として、エリザベスに頼ると良いぞ」
桂はそう言ったものの、柚希がエリザベスと出会ったのは病院を出発した直後だ。頼るも何も、今はまだ胡散臭い存在でしか無い。
だが桂がこれほどまでに信頼しているのだから、少なくとも悪い天人では無いだろうと判断した柚希は、
「それじゃ、これから宜しくね。エリザベスさん」
と言って、いつも患者に向けているのと同じ笑顔をエリザベスにも見せた。
【こちらこそ】
【ちなみに急ぐなら桂さんと一緒に運べる】
【遠慮なく言えばいい】
まるで吹き出しの如く突然現れ、こちらが読んだ事を確認すると消えてしまうプラカードは一体どのような原理なのか。不思議に思いながらも、何となくそこは突っ込んではいけないのだと空気を読んだ柚希は答えた。
「ありがとう。でもさすがに私まで背負ったら、エリザベスさんの負担が大き過ぎるよ」
【エリザベスで良い】
【運ぶのが一人増えたところで大して変わらない】
【むしろ時短になる。乗れ】
「でも荷物だってあるから重……えぇぇっ!?」
「重いよ?」と言おうとしていた柚希の言葉は、体がふわりと浮いた事で遮られる。そのままポフリと着地した場所は、何故か不安定に揺れていた。
「エリザベス……ってば浮いてるの!?」
「おお、凄いではないかエリザベス。お前が飛べるとは俺も知らなかったぞ。肩車より、背中に乗る方がよっぽど快適だ」
「いやちょっと待って。これって実写版のお遊び設定じゃないの!? 原作でこんな設定ってあった!?」
「お主が何を言っているのかは分からぬが、一度文字にしてしまった以上、この設定は活かさねばなるまい。エリザベス。なるべく人目に付かぬ道を選んで目的地まで飛んでくれ」
【承知】
「嘘でしょぉっ!?」
柚希が驚きの悲鳴をあげるのも気にせず、エリザベスは二人を乗せたまま目的地へと飛び立つ。そのありえない展開にしばし呆然としていた柚希だったが、高速で流れていく景色と頬に当たる風に慣れた頃にはもう、大人しくエリザベスにしがみついていた。
それは単にツッコミを諦めたのではない。
ーー本人は隠そうとはしてたけど、肩車では歩く時の振動が傷口に伝わってキツそうだったものね。確かにこの移動法の方が桂くんの負担は少ないか。
ふと目に入った桂のホッとした顔が、それだけの情報を柚希に与え、現状を納得させたのだった。
何とか全ての引き継ぎを終え、病院に無理を言って強引にもぎ取った長期休暇をスタートさせた柚希は、桂と共に松陽の墓のある松下村塾跡へと出発していた。
出発直前、柚希は改めて万事屋に電話を入れたのだが、誰も電話口に出る事はなく。代わりに流れた無機質な留守番電話は、『従業員不在のため、暫く休業します』という、聞いたことのない物だった。
不安げに受話器を握る柚希に、桂は「リーダーと新八くんも一緒なのだぞ。何を心配する必要がある」と事もなげに言う。そして柚希の手から奪い取るように受話器を取り上げると、電話を切ってしまったのだった。
「……未だ怪我が治ってないのに、どうやって長距離移動するのかと思ってたら……」
複雑な表情を見せる柚希の横には桂がいる。だが彼の体は柚希よりも幾分か高い位置にあった。
「その状態でずっと旅を続ける気?」
【問題無い】
「……貴方も大変ね」
ヒョイと出されたプラカードの文字を確認し、その持ち主に向けて言う。桂から『エリザベス』と紹介された天人は、桂を肩車して飄々と歩いていた。
「昔から誰よりもおかしな事をする人ではあったけど、こんな移動法を見せられるとは予想外だったわ」
「そうか? エリザベスは俺の大切な仲間であり、誰よりも信頼できる有能な部下でもある。お主も元攘夷志士として、エリザベスに頼ると良いぞ」
桂はそう言ったものの、柚希がエリザベスと出会ったのは病院を出発した直後だ。頼るも何も、今はまだ胡散臭い存在でしか無い。
だが桂がこれほどまでに信頼しているのだから、少なくとも悪い天人では無いだろうと判断した柚希は、
「それじゃ、これから宜しくね。エリザベスさん」
と言って、いつも患者に向けているのと同じ笑顔をエリザベスにも見せた。
【こちらこそ】
【ちなみに急ぐなら桂さんと一緒に運べる】
【遠慮なく言えばいい】
まるで吹き出しの如く突然現れ、こちらが読んだ事を確認すると消えてしまうプラカードは一体どのような原理なのか。不思議に思いながらも、何となくそこは突っ込んではいけないのだと空気を読んだ柚希は答えた。
「ありがとう。でもさすがに私まで背負ったら、エリザベスさんの負担が大き過ぎるよ」
【エリザベスで良い】
【運ぶのが一人増えたところで大して変わらない】
【むしろ時短になる。乗れ】
「でも荷物だってあるから重……えぇぇっ!?」
「重いよ?」と言おうとしていた柚希の言葉は、体がふわりと浮いた事で遮られる。そのままポフリと着地した場所は、何故か不安定に揺れていた。
「エリザベス……ってば浮いてるの!?」
「おお、凄いではないかエリザベス。お前が飛べるとは俺も知らなかったぞ。肩車より、背中に乗る方がよっぽど快適だ」
「いやちょっと待って。これって実写版のお遊び設定じゃないの!? 原作でこんな設定ってあった!?」
「お主が何を言っているのかは分からぬが、一度文字にしてしまった以上、この設定は活かさねばなるまい。エリザベス。なるべく人目に付かぬ道を選んで目的地まで飛んでくれ」
【承知】
「嘘でしょぉっ!?」
柚希が驚きの悲鳴をあげるのも気にせず、エリザベスは二人を乗せたまま目的地へと飛び立つ。そのありえない展開にしばし呆然としていた柚希だったが、高速で流れていく景色と頬に当たる風に慣れた頃にはもう、大人しくエリザベスにしがみついていた。
それは単にツッコミを諦めたのではない。
ーー本人は隠そうとはしてたけど、肩車では歩く時の振動が傷口に伝わってキツそうだったものね。確かにこの移動法の方が桂くんの負担は少ないか。
ふと目に入った桂のホッとした顔が、それだけの情報を柚希に与え、現状を納得させたのだった。