第四章 〜絆〜(連載中)
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小一時間ほどで全てが片付き、うーんと伸びをした柚希がベッドを見ると、寝入った時のまま変わらず深い眠りに就いている桂。
「攘夷戦争中は常に緊張してたもんね。こんなに安心した顔で寝てる桂くんを見たのは初めてかもしれないな」
そっと額に手を当て、傷によって上がり始めている熱に少しだけ顔をしかめながらも、柚希の表情は穏やかだ。それは柚希の中にも緊張が存在していないという証だった。
「さてと、仕事は終わったから良いとして……この後どうしようかな。桂くんを一人でここには置いておけないし、今夜は熱も上がるだろうから側についていた方が良いよね」
時計を見れば、もう9時を回っている。時折残業で遅くなるとは言え、いい加減銀時がそわそわしているだろう。
「念の為、電話を入れておくとしますか」
デスクの上の電話に手をかけ、万事屋の番号を押す。だが何回コールしても誰も電話に出てはこなかった。
「いつもなら電話が鳴るより先にシロが出るくらいなのに。うたた寝でもしてるのかなぁ?」
もう一度かけ直してもやはり誰も出てこない。どうしたものかと困っていると、不意に柚希の肌がゾワリと粟立った。次の瞬間、駆け出した柚希は勢いよくカーテンを開く。窓越しに映し出された銀糸の持ち主は、静かな怒りを伴いそこに立っていた。
「シロ!」
窓を開け、その者の名を呼ぶ。ムッツリと不貞腐れた表情で窓から室内に入った銀時は、鍵とカーテンを閉めるとドカリと柚希の椅子に座った。両足を机の上に乗せ、ふてぶてしく背もたれに寄りかかる。
「ちょっとシロ! お行儀悪いーー」
「遅ェんだよ。ヅラを治療してたにしても、連絡くらいはできるだろーが」
余程心配していたのだろう。心底不機嫌な声で言う銀時に、柚希は苦笑いを見せながら言った。
「ひょっとして沖田くんから聞いたの?……ごめんなさい。でもこのくらいの時間ならよくある話じゃない」
「いつも通りの仕事ならな。今回は真選組に追われた攘夷浪士を匿ってるんだ。下手したらお前だってしょっ引かれんだぞ」
「その心配は無いって分かってるくせに。沖田くんが見逃してくれたんだから」
「そこが問題なんだっつーの。サド王子に借りなんざ作っちまったら、後で何させられるか分かったもんじゃねェぞ」
「サド王子って何? 沖田くんって佐渡島かどこかの出身?」
「違ェよ! とりあえず今後はすぐに俺に連絡すんだぞ! 良いな?」
「はぁい。これから気をつけま〜す」
今は何を言っても火に油を注ぐだけだろうと判断した柚希は素直にそう答えると、診察用ベッドの脇に置かれた患者用の椅子に座る。そして横たわっている桂の顔を見ながら小さく舌を出した。
「怒られちゃった」
「……お主を心配しての事だ。まぁ少々過保護ではあるがな」
柚希の言葉に、いつもよりも少し力のない声で答えたのは桂。どうやら目を覚まして二人の会話を聞いていたようだ。
「ヅラ、てめェ起きてたのかよ」
「あれだけ無粋な殺気を向けられれば、どんな間抜けでも起きるぞ。柚希が大事なのは分かるが、もう少し彼女の事も信用してやれ」
「信用してねーのは柚希以外のお前らだっつーの。ったく、コイツを巻き込むなってんだ」
ブツブツと言いながら怒っている銀時だったが、その顔は少しホッとした表情を見せている。診察室に入った直後、チラリと視界に入った青い顔の桂に一瞬動揺していた事を見抜いていた柚希は、銀時に気付かれないよう小さく微笑んだ。
「そんで? お前がこんな深傷を負わされるとは珍しいじゃねェか。誰にやられたんだよ」
「俺にもよく分かってはおらぬ。例の如く行きつけの蕎麦屋から出ると、突如真選組の者が襲ってきてな。懲りぬものだと思いながら、軽く遊んでやるつもりがこのザマだ」
「お前の事だから、真選組のメンツの面は把握できてんじゃねェのかよ?」
「いや、それが見たことの無い奴だったのだ。少なくとも幹部の者では無さそうだが、実力は幹部クラス……ともすればあの沖田に匹敵するやも知れぬ」
「真選組って、そんなにも実力派揃いなの?」
「確かに実力はあるだろうが、あれは……」
斬り付けられた時の事を思い返していた桂の顔が、不意に曇る。そして何故か銀時と柚希の顔を交互に見ると、柚希に向かって言った。
「きっと好物の蕎麦で気が緩んでいたからだろう。もう同じ轍は踏まぬよ。それよりも柚希、すまぬが茶をくれぬか? どうも喉が渇いて困る」
少し不自然さを感じる話題転換ながらも、傷のせいで熱の上がっている桂が喉の渇きを訴えるのは当然の事だ。何かを言いたげな表情をしながらも柚希は「分かったわ」と言って立ち上がると、給湯室へと向かった。
「攘夷戦争中は常に緊張してたもんね。こんなに安心した顔で寝てる桂くんを見たのは初めてかもしれないな」
そっと額に手を当て、傷によって上がり始めている熱に少しだけ顔をしかめながらも、柚希の表情は穏やかだ。それは柚希の中にも緊張が存在していないという証だった。
「さてと、仕事は終わったから良いとして……この後どうしようかな。桂くんを一人でここには置いておけないし、今夜は熱も上がるだろうから側についていた方が良いよね」
時計を見れば、もう9時を回っている。時折残業で遅くなるとは言え、いい加減銀時がそわそわしているだろう。
「念の為、電話を入れておくとしますか」
デスクの上の電話に手をかけ、万事屋の番号を押す。だが何回コールしても誰も電話に出てはこなかった。
「いつもなら電話が鳴るより先にシロが出るくらいなのに。うたた寝でもしてるのかなぁ?」
もう一度かけ直してもやはり誰も出てこない。どうしたものかと困っていると、不意に柚希の肌がゾワリと粟立った。次の瞬間、駆け出した柚希は勢いよくカーテンを開く。窓越しに映し出された銀糸の持ち主は、静かな怒りを伴いそこに立っていた。
「シロ!」
窓を開け、その者の名を呼ぶ。ムッツリと不貞腐れた表情で窓から室内に入った銀時は、鍵とカーテンを閉めるとドカリと柚希の椅子に座った。両足を机の上に乗せ、ふてぶてしく背もたれに寄りかかる。
「ちょっとシロ! お行儀悪いーー」
「遅ェんだよ。ヅラを治療してたにしても、連絡くらいはできるだろーが」
余程心配していたのだろう。心底不機嫌な声で言う銀時に、柚希は苦笑いを見せながら言った。
「ひょっとして沖田くんから聞いたの?……ごめんなさい。でもこのくらいの時間ならよくある話じゃない」
「いつも通りの仕事ならな。今回は真選組に追われた攘夷浪士を匿ってるんだ。下手したらお前だってしょっ引かれんだぞ」
「その心配は無いって分かってるくせに。沖田くんが見逃してくれたんだから」
「そこが問題なんだっつーの。サド王子に借りなんざ作っちまったら、後で何させられるか分かったもんじゃねェぞ」
「サド王子って何? 沖田くんって佐渡島かどこかの出身?」
「違ェよ! とりあえず今後はすぐに俺に連絡すんだぞ! 良いな?」
「はぁい。これから気をつけま〜す」
今は何を言っても火に油を注ぐだけだろうと判断した柚希は素直にそう答えると、診察用ベッドの脇に置かれた患者用の椅子に座る。そして横たわっている桂の顔を見ながら小さく舌を出した。
「怒られちゃった」
「……お主を心配しての事だ。まぁ少々過保護ではあるがな」
柚希の言葉に、いつもよりも少し力のない声で答えたのは桂。どうやら目を覚まして二人の会話を聞いていたようだ。
「ヅラ、てめェ起きてたのかよ」
「あれだけ無粋な殺気を向けられれば、どんな間抜けでも起きるぞ。柚希が大事なのは分かるが、もう少し彼女の事も信用してやれ」
「信用してねーのは柚希以外のお前らだっつーの。ったく、コイツを巻き込むなってんだ」
ブツブツと言いながら怒っている銀時だったが、その顔は少しホッとした表情を見せている。診察室に入った直後、チラリと視界に入った青い顔の桂に一瞬動揺していた事を見抜いていた柚希は、銀時に気付かれないよう小さく微笑んだ。
「そんで? お前がこんな深傷を負わされるとは珍しいじゃねェか。誰にやられたんだよ」
「俺にもよく分かってはおらぬ。例の如く行きつけの蕎麦屋から出ると、突如真選組の者が襲ってきてな。懲りぬものだと思いながら、軽く遊んでやるつもりがこのザマだ」
「お前の事だから、真選組のメンツの面は把握できてんじゃねェのかよ?」
「いや、それが見たことの無い奴だったのだ。少なくとも幹部の者では無さそうだが、実力は幹部クラス……ともすればあの沖田に匹敵するやも知れぬ」
「真選組って、そんなにも実力派揃いなの?」
「確かに実力はあるだろうが、あれは……」
斬り付けられた時の事を思い返していた桂の顔が、不意に曇る。そして何故か銀時と柚希の顔を交互に見ると、柚希に向かって言った。
「きっと好物の蕎麦で気が緩んでいたからだろう。もう同じ轍は踏まぬよ。それよりも柚希、すまぬが茶をくれぬか? どうも喉が渇いて困る」
少し不自然さを感じる話題転換ながらも、傷のせいで熱の上がっている桂が喉の渇きを訴えるのは当然の事だ。何かを言いたげな表情をしながらも柚希は「分かったわ」と言って立ち上がると、給湯室へと向かった。