第四章 〜絆〜(連載中)
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「もう大丈夫よ、桂くん。奥で手当てするから出て来られる?」
柚希が声をかけると、身を潜めていた桂がゆるりと姿を現した。この間も出血が続いていたのだろう。先ほどよりも顔色は悪い。
「すまぬな、迷惑をかける」
「水臭い事言わないの。それよりも診察室まで歩ける? 傷の具合は?」
「ああ、傷は……」
診察室に移動しながら話を聞き、桂が診察用のベッドに倒れこむと同時に治療を開始する。その手際の良さは、攘夷戦争の頃と変わらぬ懐かしいもので、思わず桂は目を細めた。
「あれからもう10年以上経ったか……お主の医師としての才はあの頃のままだな。いや、大人としての経験が備わっている分、以前にも増して存在に人を惹きつける物がある。せっかく再会しても、銀時は気の休まる事が無さそうだ」
「相変わらず口が達者ね。本命には言えない癖に、こう言う時は歯の浮くようなセリフをサラリと言えちゃうんだから」
普段柚希に憎まれ口ばかり叩いていた銀時と高杉とは違い、桂は柚希を褒める事が多かった。それはあの頃の仲間の誰よりも、知識と知恵がある柚希への尊敬の念からであり、また憧れの気持ちもあったからだ。
その為一時は柚希に気があるのではと銀時達にからかわれ、大げんかになった事もある。しかしひょんな事から桂のNTR好きな性癖が判明し、柚希は恋愛の対象にはなり得ぬと分かった事で疑いは晴れていた。
「別に俺はいつもと変わらず本心を言ってるだけだぞ。それに褒める事は悪い事では無かろう」
「はいはい、ありがたく受け取っておきますよ。とりあえず大きな傷は縫っておいたし、出血の割には命に別状も無さそう。それにしても一体何があったの? 沖田くんに斬られたようには見えないんだけど」
「やはり分かるか」
「傷口が粗いからね。沖田くんの剣ならもっと綺麗に斬られてただろうし」
「だろうな。真選組の中でも一、二を争う剣の使い手だ。奴との対峙は極力避けたい」
溜め息をついて苦笑いする桂に、柚希もつられて苦笑いを見せる。
ピアスを外してから今まで、真選組は自分と銀時を元攘夷志士と認識していながらも捕縛しようとはしていない。それなのに桂は追われていると言う事実が、自分たちは彼らにかなりの優遇をさせているのだと思い出させた。
「こういう事はよくあるの?」
「真選組に追われる事が多いのかと聞かれれば……仕方あるまい。攘夷浪士として名も顔も売れてしまっているからな。日本全国どこにいても、俺の顔写真は貼られているぞ。お陰で昔の仲間も含めて様々な者から連絡が入る」
柚希の問いに答えた桂は、袖口から紙を取り出す。見るとそれは1枚の大きなポスターだった。しかも桂の顔写真がでかでかと印刷され、このような文言が書かれている。
集え! 攘夷を目指す地球の侍たちよ!
いざ共に立ち上がらん!
我々はいつでも、君の熱い思いを待っている
連絡先はこちら→xxx-xxxx-xxxx
代表;桂小太郎(元攘夷志士)
「……バカでしょ」
「バカとは何だ、バカとは! 俺は純粋に仲間を集めようとしているのだぞ」
「こんな派手なポスターをばら撒いてたら、仲間より先に敵が連絡してくるじゃない。自分から居所をバラしてどうするのよ」
「だが連絡先が分からぬと、集えぬでは……」
ポスターを握る手をプルプルと震わせ、呆れたように言う柚希に反論しようとした桂だったが、その言葉が途切れる。ポスターから顔を上げた柚希の笑顔が、未だ松陽が健在だった頃の物と同じだったから。
「ほんと、桂くんってば変わって無いなぁ」
堪え切れなかった笑いが噴きだし、お腹を抱えて笑う柚希。その笑顔を見てフッと微笑んだ桂は言った。
「それはお主も同じであろう。人間、そう簡単に変われる物では無いさ」
「え~? 私にはさっき魅力的な美しい女性になったって褒めてくれたばかりじゃない」
「俺はそこまで言った覚えは無いが……何にしても根本的な所は変わらんさ。特に心からの笑顔という物はな。銀時にもその笑顔は見せてやったのか?」
「笑顔? う~ん、そういう聞かれ方をすると、何と答えて良いのやら。特に意識はしてないからなぁ」
「……そうか」
一人納得したように頷いた桂は、ふうっと大きく息を吐きながら目を瞑る。軽妙に話してはいたが実際の所、縫わねばならぬ程に大きな傷を負っていた体は悲鳴を上げていたようだ。
「すまぬが、迷惑ついでにひと眠り……させてくれ……」
「ん、良いよ。ちゃんと護ってあげるから安心して寝ておいて」
「ああ、助かる……」
柚希の返事に安心したのか、礼の言葉が小さくなっていく。
「この姿……緒方先生や畑中殿にも見せたい……もの……だ……」
「え……?」
すうっと眠りに落ちていく桂が口にした言葉に、思わず反応する柚希。それは柚希が会えるものなら会いたいと願っていた者たちの名だった。
「もしかして先生達と……」
『会ったの?』と確認したかったが、もう既に桂の意識はない。規則正しい呼吸で深い眠りに就いた桂を確認した柚希は、逸る気持ちを抑えながら備え付けの布団を取ってきた。そっと布団をかけた桂の呼吸を改めて確認すると、小さく息を吐いて給湯室へと向かう。
「起きたら話を聞かせてもらおう」
コーヒーとチョコレートを盆に乗せ、診察室へと戻った柚希は、カルテの片付けの続きに取り掛かった。
柚希が声をかけると、身を潜めていた桂がゆるりと姿を現した。この間も出血が続いていたのだろう。先ほどよりも顔色は悪い。
「すまぬな、迷惑をかける」
「水臭い事言わないの。それよりも診察室まで歩ける? 傷の具合は?」
「ああ、傷は……」
診察室に移動しながら話を聞き、桂が診察用のベッドに倒れこむと同時に治療を開始する。その手際の良さは、攘夷戦争の頃と変わらぬ懐かしいもので、思わず桂は目を細めた。
「あれからもう10年以上経ったか……お主の医師としての才はあの頃のままだな。いや、大人としての経験が備わっている分、以前にも増して存在に人を惹きつける物がある。せっかく再会しても、銀時は気の休まる事が無さそうだ」
「相変わらず口が達者ね。本命には言えない癖に、こう言う時は歯の浮くようなセリフをサラリと言えちゃうんだから」
普段柚希に憎まれ口ばかり叩いていた銀時と高杉とは違い、桂は柚希を褒める事が多かった。それはあの頃の仲間の誰よりも、知識と知恵がある柚希への尊敬の念からであり、また憧れの気持ちもあったからだ。
その為一時は柚希に気があるのではと銀時達にからかわれ、大げんかになった事もある。しかしひょんな事から桂のNTR好きな性癖が判明し、柚希は恋愛の対象にはなり得ぬと分かった事で疑いは晴れていた。
「別に俺はいつもと変わらず本心を言ってるだけだぞ。それに褒める事は悪い事では無かろう」
「はいはい、ありがたく受け取っておきますよ。とりあえず大きな傷は縫っておいたし、出血の割には命に別状も無さそう。それにしても一体何があったの? 沖田くんに斬られたようには見えないんだけど」
「やはり分かるか」
「傷口が粗いからね。沖田くんの剣ならもっと綺麗に斬られてただろうし」
「だろうな。真選組の中でも一、二を争う剣の使い手だ。奴との対峙は極力避けたい」
溜め息をついて苦笑いする桂に、柚希もつられて苦笑いを見せる。
ピアスを外してから今まで、真選組は自分と銀時を元攘夷志士と認識していながらも捕縛しようとはしていない。それなのに桂は追われていると言う事実が、自分たちは彼らにかなりの優遇をさせているのだと思い出させた。
「こういう事はよくあるの?」
「真選組に追われる事が多いのかと聞かれれば……仕方あるまい。攘夷浪士として名も顔も売れてしまっているからな。日本全国どこにいても、俺の顔写真は貼られているぞ。お陰で昔の仲間も含めて様々な者から連絡が入る」
柚希の問いに答えた桂は、袖口から紙を取り出す。見るとそれは1枚の大きなポスターだった。しかも桂の顔写真がでかでかと印刷され、このような文言が書かれている。
集え! 攘夷を目指す地球の侍たちよ!
いざ共に立ち上がらん!
我々はいつでも、君の熱い思いを待っている
連絡先はこちら→xxx-xxxx-xxxx
代表;桂小太郎(元攘夷志士)
「……バカでしょ」
「バカとは何だ、バカとは! 俺は純粋に仲間を集めようとしているのだぞ」
「こんな派手なポスターをばら撒いてたら、仲間より先に敵が連絡してくるじゃない。自分から居所をバラしてどうするのよ」
「だが連絡先が分からぬと、集えぬでは……」
ポスターを握る手をプルプルと震わせ、呆れたように言う柚希に反論しようとした桂だったが、その言葉が途切れる。ポスターから顔を上げた柚希の笑顔が、未だ松陽が健在だった頃の物と同じだったから。
「ほんと、桂くんってば変わって無いなぁ」
堪え切れなかった笑いが噴きだし、お腹を抱えて笑う柚希。その笑顔を見てフッと微笑んだ桂は言った。
「それはお主も同じであろう。人間、そう簡単に変われる物では無いさ」
「え~? 私にはさっき魅力的な美しい女性になったって褒めてくれたばかりじゃない」
「俺はそこまで言った覚えは無いが……何にしても根本的な所は変わらんさ。特に心からの笑顔という物はな。銀時にもその笑顔は見せてやったのか?」
「笑顔? う~ん、そういう聞かれ方をすると、何と答えて良いのやら。特に意識はしてないからなぁ」
「……そうか」
一人納得したように頷いた桂は、ふうっと大きく息を吐きながら目を瞑る。軽妙に話してはいたが実際の所、縫わねばならぬ程に大きな傷を負っていた体は悲鳴を上げていたようだ。
「すまぬが、迷惑ついでにひと眠り……させてくれ……」
「ん、良いよ。ちゃんと護ってあげるから安心して寝ておいて」
「ああ、助かる……」
柚希の返事に安心したのか、礼の言葉が小さくなっていく。
「この姿……緒方先生や畑中殿にも見せたい……もの……だ……」
「え……?」
すうっと眠りに落ちていく桂が口にした言葉に、思わず反応する柚希。それは柚希が会えるものなら会いたいと願っていた者たちの名だった。
「もしかして先生達と……」
『会ったの?』と確認したかったが、もう既に桂の意識はない。規則正しい呼吸で深い眠りに就いた桂を確認した柚希は、逸る気持ちを抑えながら備え付けの布団を取ってきた。そっと布団をかけた桂の呼吸を改めて確認すると、小さく息を吐いて給湯室へと向かう。
「起きたら話を聞かせてもらおう」
コーヒーとチョコレートを盆に乗せ、診察室へと戻った柚希は、カルテの片付けの続きに取り掛かった。