第四章 〜絆〜(連載中)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
だが柚希とは裏腹に、男は完全に警戒を解く。そして転がってきたペンライトを拾ってその場に座ると自らの顔に光を当てて言った。
「この顔に見覚えはないか? 柚希」
「顔……?」
この流れで顔をアピールされ、戸惑いながらもゆっくりと男に近付いた柚希は、扇子を構えながら顔を確認する。しばし考え込んでいた柚希だったが、何かを思い出したのかハッとしたように目を見開いた。
「ヅラ!」
「ヅラじゃない、桂だ!……どうやら思い出したようだな」
「このやり取り、間違いなく桂くん……! 銀時には皆が生きてるとは聞いてたけど、まさかこんな形で会えるとは思ってなかったから驚いたわ」
たった今まで張り詰めていた物が霧散し、懐かしさで一杯になる。目の前にいたのは、柚希の旧知であり大切な仲間の1人である桂小太郎だった。
「俺もまさかこうして柚希と再会できるとは思ってもみなかった。今までどうしていたのだ? お主が姿を消して以降、どれだけ捜索しても見つからず、正直なところ諦めていたのだぞ」
「全てを話すにはかなりの時間が必要になるわ。それよりも今は傷の手当てと……追っ手から逃れる事が最優先じゃないの?」
「……そうだな」
感動の再会を堪能したくはあったが、今それは許されない。複数の人間が病院に近付いてくる気配を察した柚希は、桂にすぐ側の部屋に入るよう目で促した。その意味を理解した桂も、傷を押さえながら指示された場所へと身を隠す。
柚希はと言うと、その間にも機敏な動きでペンライトを拾い、懐のハンカチで可能な限り桂の血痕を拭き消していった。
やがて予想通り真選組がやって来る。
開いていたはずの鍵は、桂が侵入した際に閉められており、それがまた時間を稼ぐ事にもなった。
チャイムが鳴り、何食わぬ顔で柚希が対応する。
「はーい、どなた……って沖田さん」
「こりゃどーも。最近ここに腕の良い女医が入ったと聞きやしたが……アンタだったんですかィ」
「お登勢さんの紹介で、ここで働かせて貰うようになったんです。そう言えば未だきちんとお礼を言えてませんでしたね。先日の件ではお世話になりました」
「俺は別に……土方を殺し損ねただけで何もしてやせんぜ」
「……一応ここ、病院なので。物騒な事を言うのはやめてもらえます?」
「病院なら、土方を一瞬で亡き者にできる薬でも分けてくれやせんかね」
「どれだけ土方さんを抹殺したいのよ! そんな事より何かあったんですか? さっきから外が騒がしいですけど」
ふざけた会話をしているようだが、沖田の目が抜かりなく病院内を観察している事に気づいていた柚希は、早めに話を切り上げさせようと先を促した。
「そろそろ私も帰りたいのに、外に出ちゃいけないような雰囲気なんだもの」
「そいつァ悪かったですね。なァに、この辺りを超一級の極悪人が逃げ回ってるので包囲してるだけでさァ」
「何だか物凄く危険な相手みたいね。鉢合わせしちゃったらやだなぁ」
「アンタがそんな殊勝な事を言うとは意外ですねェ。むしろ『私が逮捕しちゃうぞ♡』くらいの勢いで飛び出て行くかと思いやした」
「……どんな風に私を見てるのよ、貴方」
「言葉通りでさァ。……で? どこに隠れてるんですかィ?」
「はい?」
軽い話をしているようで、実はこちらの腹の中を探ろうとしていたのは分かっている。柚希は一分の隙も見せる事なく言った。
「隠れてるって……別に私は隠れてませんよ。沖田さんの目の前にいるじゃないですか」
「さすが姫夜叉様。カケラも動揺を見せちゃくれねェか。まァお仲間を庇う為にはそのくらいの図太さが無きゃいけねェやな」
「ちょっと、誰が図太いですって? さっきから何を言ってるのか分からないですけど、とりあえず用が終わったならお引き取り願えるかしら。さっさと片付けて帰らないと、神楽ちゃんが飢え死にしちゃうの」
「チャイナの餌まで準備してるんですかィ? そいつァ大変だ」
「分かってくれます? でも時にはゆっくりしたい事もあるし、沖田さんが彼女を食事に連れて行ってあげてくれると嬉しいんだけどな〜」
「……何で俺がチャイナを連れて行かなきゃならねェんですかィ?」
自然と切り替えられた話の内容が不満だったのか、ムスッとした表情を見せる沖田。だがそれは計算通りの反応だったらしく、柚希は口角を上げて言った。
「だっていつも仲が良いでしょ? 神楽ちゃんも満更じゃなさそうだし、お似合いの二人だなと思っていつも見てるんですよ」
クスクスと笑いながら沖田の鼻に指を当て、「若いって良いなぁ」と駄目押しすれば、心底嫌そうな顔を見せられる。だがその頬が少し赤くなっている事を柚希は見逃さない。
「何だったら今夜彼女を誘ってーー」
そう畳み掛けるように言いかけた柚希だったが、最後まで言う事は出来なかった。
「悪ィがお宅の旦那と違って、おまわりさんは忙しいんでさァ。そういうわけで、チャイナと食事なんて死んでも行く気はねェですから。じゃ、失礼しやす」
「あ、沖田さん!」
強引に話を切り上げた沖田は、さっさと踵を返して立ち去っていく。
「万事屋とはとことん相性悪ィや」
そう言い残したのはある意味負け惜しみなのか、それともーー。
どちらにしても、中に桂がいる事を分かっていながら引いてくれたのだろうと察した柚希は、小さく「ありがとう」と言って戸を閉めたのだった。
「この顔に見覚えはないか? 柚希」
「顔……?」
この流れで顔をアピールされ、戸惑いながらもゆっくりと男に近付いた柚希は、扇子を構えながら顔を確認する。しばし考え込んでいた柚希だったが、何かを思い出したのかハッとしたように目を見開いた。
「ヅラ!」
「ヅラじゃない、桂だ!……どうやら思い出したようだな」
「このやり取り、間違いなく桂くん……! 銀時には皆が生きてるとは聞いてたけど、まさかこんな形で会えるとは思ってなかったから驚いたわ」
たった今まで張り詰めていた物が霧散し、懐かしさで一杯になる。目の前にいたのは、柚希の旧知であり大切な仲間の1人である桂小太郎だった。
「俺もまさかこうして柚希と再会できるとは思ってもみなかった。今までどうしていたのだ? お主が姿を消して以降、どれだけ捜索しても見つからず、正直なところ諦めていたのだぞ」
「全てを話すにはかなりの時間が必要になるわ。それよりも今は傷の手当てと……追っ手から逃れる事が最優先じゃないの?」
「……そうだな」
感動の再会を堪能したくはあったが、今それは許されない。複数の人間が病院に近付いてくる気配を察した柚希は、桂にすぐ側の部屋に入るよう目で促した。その意味を理解した桂も、傷を押さえながら指示された場所へと身を隠す。
柚希はと言うと、その間にも機敏な動きでペンライトを拾い、懐のハンカチで可能な限り桂の血痕を拭き消していった。
やがて予想通り真選組がやって来る。
開いていたはずの鍵は、桂が侵入した際に閉められており、それがまた時間を稼ぐ事にもなった。
チャイムが鳴り、何食わぬ顔で柚希が対応する。
「はーい、どなた……って沖田さん」
「こりゃどーも。最近ここに腕の良い女医が入ったと聞きやしたが……アンタだったんですかィ」
「お登勢さんの紹介で、ここで働かせて貰うようになったんです。そう言えば未だきちんとお礼を言えてませんでしたね。先日の件ではお世話になりました」
「俺は別に……土方を殺し損ねただけで何もしてやせんぜ」
「……一応ここ、病院なので。物騒な事を言うのはやめてもらえます?」
「病院なら、土方を一瞬で亡き者にできる薬でも分けてくれやせんかね」
「どれだけ土方さんを抹殺したいのよ! そんな事より何かあったんですか? さっきから外が騒がしいですけど」
ふざけた会話をしているようだが、沖田の目が抜かりなく病院内を観察している事に気づいていた柚希は、早めに話を切り上げさせようと先を促した。
「そろそろ私も帰りたいのに、外に出ちゃいけないような雰囲気なんだもの」
「そいつァ悪かったですね。なァに、この辺りを超一級の極悪人が逃げ回ってるので包囲してるだけでさァ」
「何だか物凄く危険な相手みたいね。鉢合わせしちゃったらやだなぁ」
「アンタがそんな殊勝な事を言うとは意外ですねェ。むしろ『私が逮捕しちゃうぞ♡』くらいの勢いで飛び出て行くかと思いやした」
「……どんな風に私を見てるのよ、貴方」
「言葉通りでさァ。……で? どこに隠れてるんですかィ?」
「はい?」
軽い話をしているようで、実はこちらの腹の中を探ろうとしていたのは分かっている。柚希は一分の隙も見せる事なく言った。
「隠れてるって……別に私は隠れてませんよ。沖田さんの目の前にいるじゃないですか」
「さすが姫夜叉様。カケラも動揺を見せちゃくれねェか。まァお仲間を庇う為にはそのくらいの図太さが無きゃいけねェやな」
「ちょっと、誰が図太いですって? さっきから何を言ってるのか分からないですけど、とりあえず用が終わったならお引き取り願えるかしら。さっさと片付けて帰らないと、神楽ちゃんが飢え死にしちゃうの」
「チャイナの餌まで準備してるんですかィ? そいつァ大変だ」
「分かってくれます? でも時にはゆっくりしたい事もあるし、沖田さんが彼女を食事に連れて行ってあげてくれると嬉しいんだけどな〜」
「……何で俺がチャイナを連れて行かなきゃならねェんですかィ?」
自然と切り替えられた話の内容が不満だったのか、ムスッとした表情を見せる沖田。だがそれは計算通りの反応だったらしく、柚希は口角を上げて言った。
「だっていつも仲が良いでしょ? 神楽ちゃんも満更じゃなさそうだし、お似合いの二人だなと思っていつも見てるんですよ」
クスクスと笑いながら沖田の鼻に指を当て、「若いって良いなぁ」と駄目押しすれば、心底嫌そうな顔を見せられる。だがその頬が少し赤くなっている事を柚希は見逃さない。
「何だったら今夜彼女を誘ってーー」
そう畳み掛けるように言いかけた柚希だったが、最後まで言う事は出来なかった。
「悪ィがお宅の旦那と違って、おまわりさんは忙しいんでさァ。そういうわけで、チャイナと食事なんて死んでも行く気はねェですから。じゃ、失礼しやす」
「あ、沖田さん!」
強引に話を切り上げた沖田は、さっさと踵を返して立ち去っていく。
「万事屋とはとことん相性悪ィや」
そう言い残したのはある意味負け惜しみなのか、それともーー。
どちらにしても、中に桂がいる事を分かっていながら引いてくれたのだろうと察した柚希は、小さく「ありがとう」と言って戸を閉めたのだった。