第四章 〜絆〜(連載中)
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しばらくして万事屋に戻ってきた銀時と新八、そして散歩から帰った神楽を、柚希はいつもの笑顔で出迎えた。それ以降は不思議なほどに何事もなく、穏やかな毎日を過ごしている。
少し前から柚希は、万事屋からほど近い病院で働き始めていた。お登勢の紹介という事もあったが、何よりその腕の良さが街の者たちを惹きつけ、今ではかぶき町で知らない者はいない程だ。街に出れば既に顔なじみも多く、何処に行っても声をかけられた。それらは全て好意的なものであり、柚希を苦しめていた過去をも消し去ってくれそうに優しい。初めは意識して作っていた笑顔も、いつしか自然なものとなり始めていた。
そんなある日の事。
診療を終えてカルテを片付けていると、病院の外が騒がしい事に気付いた。窓から外を確認すると、警察の走り回る姿が見える。
「随分慌ただしいけど、事件でもあったのかな? あの制服は真選組だよね?」
そう言いながらも、自分には関係のない事だと気にせず作業を続けていた柚希だったが、不意に何かを感じ取ったらしく懐から扇子を取り出した。
ーー先生も看護師さんも先に帰ったよね。今ここに残ってるのは私だけのはず。
自分に対しての殺意はないが、明らかにピリリとした空気を纏った存在が院内に入り込んでいる。柚希は気配と共に電気を消すと、今いる部屋からそっと抜け出した。
ガラスが割れる音などはしていない。となれば、侵入経路は鍵の開いた玄関だけだ。
自分が侵入者ならどう動くかをシミュレーションしつつゆっくりと廊下を歩き、気配を探りながら玄関前の待合室を覗くと……。
ーーいた。
真っ暗な待合室で外から見えないよう、窓の下に身を沈める人影が一つ。
万が一を考え、いつでも反撃できるよう扇子を構えながら死角を選んで近付いていくと、次第にハッキリしてきたその姿は、長髪の男のようだった。
ーーどうやら手負いのようね。
仕事柄、そして過去の経験から敏感になっている血の匂いは、男の状態をある程度読み取らせてくれる。
ーーこれは一気に押さえ込むのが得策だな。
そう判断した瞬間にはもう、柚希は動いていた。
即座に振り下ろした扇子から飛び出した玉が男を襲う。だが驚いたことに、手負いにも関わらず軽やかに飛んで避けた男は、着地と同時に抜刀した。
「お主、何者だ!?」
「あんたこそ何者!? 加減してたとは言え、私の攻撃を簡単にかわすなんて……只者じゃ無いわね」
間髪入れず次の玉を放てば、男が刀で弾き返す。だが全てを落とすには間に合わず、玉の一つが男の腕を捉えた。
「くっ……!」
「何をやらかしたのかは知らないけど、逃げ込んだ場所が間違いだったわよ」
そのまま糸をグイと引いて体勢を崩した男の後ろに回り込むと、腕を後ろに捻じ上げながら床に押さえつける。そして刀を取り上げて言った。
「抵抗しないなら治療してあげても良いわ。……よくこの深傷で私の攻撃を避けられたわね」
暗くて患部を視認することは出来ないが、押さえた背中に触れた事で感じた熱い滑りから、傷の度合いは測れる。柚希が驚く程に、男の傷は深いようだ。自身もそれが分かっている為か、男は観念したように言った。
「……分かった、抵抗しない。だが一つ聞かせてくれ。お主は俺がここに逃げ込むことを予想して先回りしていた真選組の者か?」
「いいえ。私はここの雇われ医師よ」
「医師……だと?」
柚希の返答に、男が驚いたように言う。「まさかそんな……いや、でも……」と狼狽える男を不審に思いながらも、柚希は糸を外して扇子を閉じた。そして止血くらいはしてやろうと、患部を見るために胸ポケットから取り出したペンライトのスイッチを入れる。その光が柚希の顔を照らし出した時ーー。
「先ほどの扇子と身のこなし、そしてその顔……やはりお主、姫夜叉か?」
名を呼ばれた瞬間、柚希は大きく飛び下がって男と距離を取った。カラリと音を立てて落ちたペンライトが、未だ床に横たわったままの男へと転がっていく。
「あんたは誰? その名前をどこで……」
「やはり姫夜叉……吉田柚希なのだな」
「……っ!」
加速する心臓の鼓動。もうこの世から忘れられているはずの名を紡がれ、真の名まで呼ばれた事で、柚希の緊張はピークに達していた。
少し前から柚希は、万事屋からほど近い病院で働き始めていた。お登勢の紹介という事もあったが、何よりその腕の良さが街の者たちを惹きつけ、今ではかぶき町で知らない者はいない程だ。街に出れば既に顔なじみも多く、何処に行っても声をかけられた。それらは全て好意的なものであり、柚希を苦しめていた過去をも消し去ってくれそうに優しい。初めは意識して作っていた笑顔も、いつしか自然なものとなり始めていた。
そんなある日の事。
診療を終えてカルテを片付けていると、病院の外が騒がしい事に気付いた。窓から外を確認すると、警察の走り回る姿が見える。
「随分慌ただしいけど、事件でもあったのかな? あの制服は真選組だよね?」
そう言いながらも、自分には関係のない事だと気にせず作業を続けていた柚希だったが、不意に何かを感じ取ったらしく懐から扇子を取り出した。
ーー先生も看護師さんも先に帰ったよね。今ここに残ってるのは私だけのはず。
自分に対しての殺意はないが、明らかにピリリとした空気を纏った存在が院内に入り込んでいる。柚希は気配と共に電気を消すと、今いる部屋からそっと抜け出した。
ガラスが割れる音などはしていない。となれば、侵入経路は鍵の開いた玄関だけだ。
自分が侵入者ならどう動くかをシミュレーションしつつゆっくりと廊下を歩き、気配を探りながら玄関前の待合室を覗くと……。
ーーいた。
真っ暗な待合室で外から見えないよう、窓の下に身を沈める人影が一つ。
万が一を考え、いつでも反撃できるよう扇子を構えながら死角を選んで近付いていくと、次第にハッキリしてきたその姿は、長髪の男のようだった。
ーーどうやら手負いのようね。
仕事柄、そして過去の経験から敏感になっている血の匂いは、男の状態をある程度読み取らせてくれる。
ーーこれは一気に押さえ込むのが得策だな。
そう判断した瞬間にはもう、柚希は動いていた。
即座に振り下ろした扇子から飛び出した玉が男を襲う。だが驚いたことに、手負いにも関わらず軽やかに飛んで避けた男は、着地と同時に抜刀した。
「お主、何者だ!?」
「あんたこそ何者!? 加減してたとは言え、私の攻撃を簡単にかわすなんて……只者じゃ無いわね」
間髪入れず次の玉を放てば、男が刀で弾き返す。だが全てを落とすには間に合わず、玉の一つが男の腕を捉えた。
「くっ……!」
「何をやらかしたのかは知らないけど、逃げ込んだ場所が間違いだったわよ」
そのまま糸をグイと引いて体勢を崩した男の後ろに回り込むと、腕を後ろに捻じ上げながら床に押さえつける。そして刀を取り上げて言った。
「抵抗しないなら治療してあげても良いわ。……よくこの深傷で私の攻撃を避けられたわね」
暗くて患部を視認することは出来ないが、押さえた背中に触れた事で感じた熱い滑りから、傷の度合いは測れる。柚希が驚く程に、男の傷は深いようだ。自身もそれが分かっている為か、男は観念したように言った。
「……分かった、抵抗しない。だが一つ聞かせてくれ。お主は俺がここに逃げ込むことを予想して先回りしていた真選組の者か?」
「いいえ。私はここの雇われ医師よ」
「医師……だと?」
柚希の返答に、男が驚いたように言う。「まさかそんな……いや、でも……」と狼狽える男を不審に思いながらも、柚希は糸を外して扇子を閉じた。そして止血くらいはしてやろうと、患部を見るために胸ポケットから取り出したペンライトのスイッチを入れる。その光が柚希の顔を照らし出した時ーー。
「先ほどの扇子と身のこなし、そしてその顔……やはりお主、姫夜叉か?」
名を呼ばれた瞬間、柚希は大きく飛び下がって男と距離を取った。カラリと音を立てて落ちたペンライトが、未だ床に横たわったままの男へと転がっていく。
「あんたは誰? その名前をどこで……」
「やはり姫夜叉……吉田柚希なのだな」
「……っ!」
加速する心臓の鼓動。もうこの世から忘れられているはずの名を紡がれ、真の名まで呼ばれた事で、柚希の緊張はピークに達していた。
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