第三章 〜夜叉〜(70P)
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春雨で行った研究によって多くの人間や天人を死に至らしめ、苦しんでいた時も。
奈落の姫夜叉として暗殺を遂行させられ、涙した時も。
不安定なピアスの影響で、記憶が混乱した時も。
気が付くと傍にいたのは、朧だった。
「何よ、これ……」
思考が付いて行かない。
鮮明に思い出されたあの時の記憶が、つい先刻まで朧など受け入れられぬと思っていた柚希の心を揺さぶる。
「何で……」
頭を抱えながら、絞り出すように柚希は言った。
「こんな記憶、思い出さなきゃ良かった……っ!」
しかし思い出してしまった物を忘れる事は出来ない。この後も次々と浮上してくる記憶の数々にしばらく固まっていた柚希だったが、やがて一つ大きなため息を吐くと、重い体を動かして零れていたコーヒーを片付け始めた。
「前に親父様が言ってたもんね。答えが出ない時は、時間を空けて考えなさいって。多分今の私は冷静じゃない。間違いを起こさないためにも……またシロに苦しい思いをさせないためにも、私がしっかりしなきゃ」
作業台を拭きながら、自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉にする柚希の表情は、強張っていた。
「やれる事を……やるしかない」
「何をやるって?」
「ひゃぁっ!」
真剣に考えていた柚希の後ろから、突如ふうっと耳に息を吹きかけるように言われた言葉。思わず悲鳴を上げた柚希を抱きしめたのは、他の誰でもない、銀時だった。
「いつもなら気配を消してても気付くってのに、本気で分かって無かったのか? お前にしちゃァ珍しいな」
「べ、別に。ちょっと考え事をしてたから……それにこの家で私を襲う人間なんて、シロ以外ありえないじゃない」
「へェ。って事は俺に襲われる事は了承済みってか。んじゃ、遠慮なく」
「そういう事じゃな……んっ……!」
体の向きを変え、与えられた強引な口付けに言葉が続けられなくなる。何度も角度を変えて深く柚希を探る銀時からは、何故か怒りが感じられた。
「シロ、待って……も……ぁっ……」
いつもの優しいキスとは明らかに違う事に戸惑い、どうしたのかと尋ねたいのに、銀時はそれを許してはくれず。呼吸をする事もままならず苦しさに逃げ出そうとしても、強い力で抱きしめられている為に体を捩る事すら出来ない。
「ん……っ」
何とか銀時を落ち着かせようと必死にもがいていると、台の上に置かれたままの、先ほどのマグカップが肘に当たった。床に転がり落ちたカップが割れ、その音でようやく銀時がハッとしたように唇を離す。
「……悪ィ」
頬を上気させ、涙目で自分を見上げる柚希を見た銀時は、バツが悪そうに目をそらした。だがその腕はしっかりと柚希を抱きしめたまま離そうとはしない。
「でもお前も悪いんだぜ。また一人で背負い込もうとしてるだろ」
「別に私は……」
「俺はお前が一人で苦しんでいる時、お前の傍にはいられなかった。それなのにアイツは……朧はお前の傍にいたんだな」
「……っ!」
独り言を聞かれていた事にようやく気付いた柚希が目を見開いて驚けば、銀時は悲しげな瞳で言った。
奈落の姫夜叉として暗殺を遂行させられ、涙した時も。
不安定なピアスの影響で、記憶が混乱した時も。
気が付くと傍にいたのは、朧だった。
「何よ、これ……」
思考が付いて行かない。
鮮明に思い出されたあの時の記憶が、つい先刻まで朧など受け入れられぬと思っていた柚希の心を揺さぶる。
「何で……」
頭を抱えながら、絞り出すように柚希は言った。
「こんな記憶、思い出さなきゃ良かった……っ!」
しかし思い出してしまった物を忘れる事は出来ない。この後も次々と浮上してくる記憶の数々にしばらく固まっていた柚希だったが、やがて一つ大きなため息を吐くと、重い体を動かして零れていたコーヒーを片付け始めた。
「前に親父様が言ってたもんね。答えが出ない時は、時間を空けて考えなさいって。多分今の私は冷静じゃない。間違いを起こさないためにも……またシロに苦しい思いをさせないためにも、私がしっかりしなきゃ」
作業台を拭きながら、自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉にする柚希の表情は、強張っていた。
「やれる事を……やるしかない」
「何をやるって?」
「ひゃぁっ!」
真剣に考えていた柚希の後ろから、突如ふうっと耳に息を吹きかけるように言われた言葉。思わず悲鳴を上げた柚希を抱きしめたのは、他の誰でもない、銀時だった。
「いつもなら気配を消してても気付くってのに、本気で分かって無かったのか? お前にしちゃァ珍しいな」
「べ、別に。ちょっと考え事をしてたから……それにこの家で私を襲う人間なんて、シロ以外ありえないじゃない」
「へェ。って事は俺に襲われる事は了承済みってか。んじゃ、遠慮なく」
「そういう事じゃな……んっ……!」
体の向きを変え、与えられた強引な口付けに言葉が続けられなくなる。何度も角度を変えて深く柚希を探る銀時からは、何故か怒りが感じられた。
「シロ、待って……も……ぁっ……」
いつもの優しいキスとは明らかに違う事に戸惑い、どうしたのかと尋ねたいのに、銀時はそれを許してはくれず。呼吸をする事もままならず苦しさに逃げ出そうとしても、強い力で抱きしめられている為に体を捩る事すら出来ない。
「ん……っ」
何とか銀時を落ち着かせようと必死にもがいていると、台の上に置かれたままの、先ほどのマグカップが肘に当たった。床に転がり落ちたカップが割れ、その音でようやく銀時がハッとしたように唇を離す。
「……悪ィ」
頬を上気させ、涙目で自分を見上げる柚希を見た銀時は、バツが悪そうに目をそらした。だがその腕はしっかりと柚希を抱きしめたまま離そうとはしない。
「でもお前も悪いんだぜ。また一人で背負い込もうとしてるだろ」
「別に私は……」
「俺はお前が一人で苦しんでいる時、お前の傍にはいられなかった。それなのにアイツは……朧はお前の傍にいたんだな」
「……っ!」
独り言を聞かれていた事にようやく気付いた柚希が目を見開いて驚けば、銀時は悲しげな瞳で言った。