第三章 〜夜叉〜(70P)
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――ピチョン
小さな水音にハッとした柚希が、一気に意識が現実に引き戻されるのを感じながら目を瞬かせる。コーヒーに落ちた滴が自らの眦から零れ落ちた物だと気付くと、柚希は自嘲の笑みを浮かべた。
「過去を思い出していると、意外と忘れていた事にも気付くものね。そうだった……私、シロが死んだと思ってたんだっけ。でもピアスが神経接続される直前に、むーちゃんの声が聞こえて……」
あの時意識を失う直前に聞こえた声は、大きな喜びと幸せを与えてくれていた。
『白夜叉は生きている』
それだけでもう、何もいらないとさえ思える程に。
「あの後ピアスが付けられていた時期の事は、ほとんど覚えてないのよね。多分シロの生存確認が出来たお陰で、心は安定してたと思うんだけど……。そういえば、何かがあると必ず傍にシロがいた気がするなぁ」
思い返せば記憶を操作され、時に意思を奪われながらも断片的に甦った記憶の中には、いつも白い髪の存在があった。だからこそあの頃、動作の不安定なピアスによって苦しめられることがありながらも、何とかやり過ごす事が出来ていたのだ。
そう、誰よりも自分の傍にいてくれていた『白い髪の持ち主』がいたから。
「……シロが、いた……?」
次の瞬間、ゾワリと全身が粟立つ。
思わず手がマグカップにぶつかり、台の上に中身をぶちまけてしまっても、柚希の意識がそちらに向く事は無かった。
「そんなはず無いじゃない。明らかにあの場所にシロはいなかった。私たちは攘夷戦争の最中に離れ離れになって以降、一度たりとも顔を合わせてはいなかったもの。私はずっと研究所にいたんだから尚更よ。それなのに白い髪の存在があった……過去の記憶との混乱なんかじゃない! あれは――」
『この枷は、お前を縛り付けると同時に生かすだろう』
――ピアスを付けた後も、八咫烏に縛られ続けていた
『俺と白夜叉の何が違うと言うのだ?』
――何かを思い出しそうになって苦しむ度に、包み込むものがあった
『俺はお前たちが憎い。松陽の弟子たちが……白夜叉が』
――憎しみと悲しみをぶつけられる度に、何故か胸が締め付けられていた
ピアスが外れても、思い出せなかったあの頃の記憶。
でもそれは思い出せなかったのではなく、思い出そうとしていなかったのだと、柚希は今になってようやく気付いた。
「あれは……朧だ……っ!」
小さな水音にハッとした柚希が、一気に意識が現実に引き戻されるのを感じながら目を瞬かせる。コーヒーに落ちた滴が自らの眦から零れ落ちた物だと気付くと、柚希は自嘲の笑みを浮かべた。
「過去を思い出していると、意外と忘れていた事にも気付くものね。そうだった……私、シロが死んだと思ってたんだっけ。でもピアスが神経接続される直前に、むーちゃんの声が聞こえて……」
あの時意識を失う直前に聞こえた声は、大きな喜びと幸せを与えてくれていた。
『白夜叉は生きている』
それだけでもう、何もいらないとさえ思える程に。
「あの後ピアスが付けられていた時期の事は、ほとんど覚えてないのよね。多分シロの生存確認が出来たお陰で、心は安定してたと思うんだけど……。そういえば、何かがあると必ず傍にシロがいた気がするなぁ」
思い返せば記憶を操作され、時に意思を奪われながらも断片的に甦った記憶の中には、いつも白い髪の存在があった。だからこそあの頃、動作の不安定なピアスによって苦しめられることがありながらも、何とかやり過ごす事が出来ていたのだ。
そう、誰よりも自分の傍にいてくれていた『白い髪の持ち主』がいたから。
「……シロが、いた……?」
次の瞬間、ゾワリと全身が粟立つ。
思わず手がマグカップにぶつかり、台の上に中身をぶちまけてしまっても、柚希の意識がそちらに向く事は無かった。
「そんなはず無いじゃない。明らかにあの場所にシロはいなかった。私たちは攘夷戦争の最中に離れ離れになって以降、一度たりとも顔を合わせてはいなかったもの。私はずっと研究所にいたんだから尚更よ。それなのに白い髪の存在があった……過去の記憶との混乱なんかじゃない! あれは――」
『この枷は、お前を縛り付けると同時に生かすだろう』
――ピアスを付けた後も、八咫烏に縛られ続けていた
『俺と白夜叉の何が違うと言うのだ?』
――何かを思い出しそうになって苦しむ度に、包み込むものがあった
『俺はお前たちが憎い。松陽の弟子たちが……白夜叉が』
――憎しみと悲しみをぶつけられる度に、何故か胸が締め付けられていた
ピアスが外れても、思い出せなかったあの頃の記憶。
でもそれは思い出せなかったのではなく、思い出そうとしていなかったのだと、柚希は今になってようやく気付いた。
「あれは……朧だ……っ!」