第三章 〜夜叉〜(70P)
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「わしには、全てが無くなっちまったようには見えんがな。目の前には必死にお前さんを護ろうとしているこの嬢ちゃんがいて、わしもいる。そしてお前さんには命と才がある。少し頭を冷やしてその事を考えてみろ」
「……いの、ち……」
ぼそりと呟く柚希の目は、焦点が合っていない。
何かを考える事すら億劫なのか、ただ玄黒の言葉を反芻するだけで、そこに柚希の意思は感じられなかった。
「ったく、手こずらせやがってこの女……さっさと牢にぶち込むぞ!」
柚希が抵抗しない事を確認して安心したのか、再び横柄な態度を見せ始めた司令官が、柚希を突き飛ばすようにしながら牢へと歩き始める。
「柚希!」
慌てた骸が追いかけようとするも、周りの者たちが一斉に骸に向けて銃を向けた為、身動きが取れない。だが柚希の姿が見えなくなり、兵たちも散開すると玄黒が言った。
「大丈夫じゃよ。あの子はわしが何とかしてやる」
そう言いながら玄黒は、置き忘れられた柚希の扇子を拾う。巻き取られていなかった糸を丁寧に手繰り寄せると、そっと懐にしまい込んだ。
「だがそれには情報が必要じゃ。見た所お前さんにとってもわしにとっても、柚希は必要な存在のようだ。そこでじゃな、これまでに何があったのかを教えてくれんか? あの子がどうしてあんなにも自暴自棄になってしまったのか、知り得る限りの情報を話してくれ」
まっすぐ骸の目を見ながら言う玄黒の表情は優しい。それは少し前まで骸が見ていた、今はもうこの世に存在していない男に似た眼差しのようで、骸の心は揺れた。
「……貴方が柚希を助けるって事? 私には貴方が信じるに値する人物か、判断がつかない」
「少なくともお前さんよりはココの事を知っておるし、それなりの発言力もあるのは見ていたと思うが、不満かな?」
余裕の笑みを浮かべる玄黒に、こちらを騙す意思や偽りは無さそうだ。
しばし玄黒を探るように見ていた骸だったが、迷いを残しつつも覚悟を決めたのか、
「確かにそうね。柚希も貴方に懐いてたみたいだし……」
と言って、実はずっと握りしめたままだった短刀を懐に納めると、これまでの出来事を静かに語り始めたのだった。
「……いの、ち……」
ぼそりと呟く柚希の目は、焦点が合っていない。
何かを考える事すら億劫なのか、ただ玄黒の言葉を反芻するだけで、そこに柚希の意思は感じられなかった。
「ったく、手こずらせやがってこの女……さっさと牢にぶち込むぞ!」
柚希が抵抗しない事を確認して安心したのか、再び横柄な態度を見せ始めた司令官が、柚希を突き飛ばすようにしながら牢へと歩き始める。
「柚希!」
慌てた骸が追いかけようとするも、周りの者たちが一斉に骸に向けて銃を向けた為、身動きが取れない。だが柚希の姿が見えなくなり、兵たちも散開すると玄黒が言った。
「大丈夫じゃよ。あの子はわしが何とかしてやる」
そう言いながら玄黒は、置き忘れられた柚希の扇子を拾う。巻き取られていなかった糸を丁寧に手繰り寄せると、そっと懐にしまい込んだ。
「だがそれには情報が必要じゃ。見た所お前さんにとってもわしにとっても、柚希は必要な存在のようだ。そこでじゃな、これまでに何があったのかを教えてくれんか? あの子がどうしてあんなにも自暴自棄になってしまったのか、知り得る限りの情報を話してくれ」
まっすぐ骸の目を見ながら言う玄黒の表情は優しい。それは少し前まで骸が見ていた、今はもうこの世に存在していない男に似た眼差しのようで、骸の心は揺れた。
「……貴方が柚希を助けるって事? 私には貴方が信じるに値する人物か、判断がつかない」
「少なくともお前さんよりはココの事を知っておるし、それなりの発言力もあるのは見ていたと思うが、不満かな?」
余裕の笑みを浮かべる玄黒に、こちらを騙す意思や偽りは無さそうだ。
しばし玄黒を探るように見ていた骸だったが、迷いを残しつつも覚悟を決めたのか、
「確かにそうね。柚希も貴方に懐いてたみたいだし……」
と言って、実はずっと握りしめたままだった短刀を懐に納めると、これまでの出来事を静かに語り始めたのだった。