第三章 〜夜叉〜(70P)
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柚希が身支度を整え、気怠さを残したまま骸と共に春雨の研究所に戻った頃にはもう、夜になっていた。
時間的に仕事は翌日からで良かったが、現状の確認だけでもしておこうと自らの所属しているフロアに向かう途中、投げかけられた言葉に息を吞む。
「お姫様のご帰還だぜ。こうして姫夜叉は春雨に縛りつけられ、今や我らの従順な下僕。白夜叉は虫の息ときたもんだ。攘夷戦争の夜叉伝説も、もはや過去の幻影だな」
「いけない、柚希」
咄嗟に骸が止めようとした時にはもう、柚希の手はその天人の腕をねじり上げていた。
「ってぇっ!」
「虫の息って何? 誰が下僕ですって?」
「な、何をする! 俺は間違った事など言ってないだろ! 現にお前は言われるがまま、地球に仇なす薬剤の研究を行っているじゃないか。何があったかは知らないが、白夜叉の勢いも一気に衰えて、噂じゃ戦場から這う這うの体で逃げ出したって話だ」
「嘘……」
「嘘じゃねぇ。この何日かは本格的に天導衆が動いてるって話もあるし、攘夷四天王も今となってはバラバラだ。攘夷志士たちの希望は潰えたんだよ。そろそろ白夜叉も追っ手に殺されて死んじまってるだろうさ」
「天導衆……? シロが死んだ……?」
チリ、と肌が焼け付く感覚に、骸は思わず柚希から飛び離れて距離を取る。次の瞬間には柚希の周辺にいた天人たちの命は失われており、ゆっくりと体が倒れていった。
「柚希……っ」
「ねぇ、むーちゃん。朧は……朧は今何処にいるの?」
「……知らない」
「天導衆が動いてるって事は、奈落も動いてるって事だよね。今朝朧が言ってた任務ってまさか……」
「私は……何も聞いてない……」
骸の頬を冷や汗が伝う。今目の前にいるのは、これまで骸が見て来た柚希とはまるで別の存在だった。
「約束したのに……シロたちには手を出さないって……」
驚くほどに無機質な眼差しが、骸を見つめる。しかもその手には、いつの間にか柚希の武器である扇子が握られていた。
「親父様が大切に思ってて……もうこれ以上誰も苦しんで欲しくなくて……だから私は……朧を……」
ヒュッと鋭い音が柚希の周辺を包む。柚希と骸以外の者を全て排除するかのように空を切り裂いた扇子の玉は、各々紅を纏って柚希の元へと戻った。再び振り下ろされた扇子から飛び出した玉は、騒ぎを聞いて駆けつけて来た春雨の兵たちを的確に射貫いていく。
「何の為に私が……あんな……っ!」
「柚希!」
常に身に付けている短刀を構えた骸が柚希に駆け寄ろうとするも、柚希に死角は無いのか一定の距離以上近付けない。その間にも次々と、骸以外の存在は命を落としていった。
時間的に仕事は翌日からで良かったが、現状の確認だけでもしておこうと自らの所属しているフロアに向かう途中、投げかけられた言葉に息を吞む。
「お姫様のご帰還だぜ。こうして姫夜叉は春雨に縛りつけられ、今や我らの従順な下僕。白夜叉は虫の息ときたもんだ。攘夷戦争の夜叉伝説も、もはや過去の幻影だな」
「いけない、柚希」
咄嗟に骸が止めようとした時にはもう、柚希の手はその天人の腕をねじり上げていた。
「ってぇっ!」
「虫の息って何? 誰が下僕ですって?」
「な、何をする! 俺は間違った事など言ってないだろ! 現にお前は言われるがまま、地球に仇なす薬剤の研究を行っているじゃないか。何があったかは知らないが、白夜叉の勢いも一気に衰えて、噂じゃ戦場から這う這うの体で逃げ出したって話だ」
「嘘……」
「嘘じゃねぇ。この何日かは本格的に天導衆が動いてるって話もあるし、攘夷四天王も今となってはバラバラだ。攘夷志士たちの希望は潰えたんだよ。そろそろ白夜叉も追っ手に殺されて死んじまってるだろうさ」
「天導衆……? シロが死んだ……?」
チリ、と肌が焼け付く感覚に、骸は思わず柚希から飛び離れて距離を取る。次の瞬間には柚希の周辺にいた天人たちの命は失われており、ゆっくりと体が倒れていった。
「柚希……っ」
「ねぇ、むーちゃん。朧は……朧は今何処にいるの?」
「……知らない」
「天導衆が動いてるって事は、奈落も動いてるって事だよね。今朝朧が言ってた任務ってまさか……」
「私は……何も聞いてない……」
骸の頬を冷や汗が伝う。今目の前にいるのは、これまで骸が見て来た柚希とはまるで別の存在だった。
「約束したのに……シロたちには手を出さないって……」
驚くほどに無機質な眼差しが、骸を見つめる。しかもその手には、いつの間にか柚希の武器である扇子が握られていた。
「親父様が大切に思ってて……もうこれ以上誰も苦しんで欲しくなくて……だから私は……朧を……」
ヒュッと鋭い音が柚希の周辺を包む。柚希と骸以外の者を全て排除するかのように空を切り裂いた扇子の玉は、各々紅を纏って柚希の元へと戻った。再び振り下ろされた扇子から飛び出した玉は、騒ぎを聞いて駆けつけて来た春雨の兵たちを的確に射貫いていく。
「何の為に私が……あんな……っ!」
「柚希!」
常に身に付けている短刀を構えた骸が柚希に駆け寄ろうとするも、柚希に死角は無いのか一定の距離以上近付けない。その間にも次々と、骸以外の存在は命を落としていった。