第三章 〜夜叉〜(70P)
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やがて涙の止まった朧が、柚希を見つめる。先程とは違う優しいキスを落とすと、柚希は抵抗無くそれを受け入れた。
「……何故抗わない?」
自らの行為にも拘らず、訝しげに朧が聞く。だが柚希にもその理由は分からなかった。
「何故……だろうね。貴方の涙を見たからなのか、親父様を失った悲しみを分かち合いたいと思ったからなのか……」
見下ろしてくる朧の澄んだ目を見つめながら、柚希は言う。
「ただ、今私を見ている貴方の目は多分、昔親父様を見ていた時の目と同じなんだろうなと思ったら、拒む事を忘れてた」
その言葉の意味を、自らの目を見る事の出来ない朧が理解する事は不可能だ。少しイラつきながら目を細めた朧は、この不愉快な言動を紡ぐ柚希の唇に指で軽く触れながら言った。
「俺は、お前の大切な者を追い詰め奪った張本人だぞ。しかも更に大切な物を奪われようとしているこの状況を、本当に分かっていないのか?」
「分かってる。だから貴方を認める事なんて出来ないし、ましてや愛して受け入れる事なんて出来るはずがない。でも……」
「でも?」
「親父様の思いと朧の思い。両方を知ってしまった私にできる事は、これしか思いつかないから……」
そこまで言った柚希の言葉を遮ろうとしたのか、朧の指先が柚希の唇を少し強めになぞる。ほんの少し不快そうな表情を見せた柚希に皮肉な笑みを向けた朧は次の瞬間、強引に指を口内へと挿し入れた。
「ふん、可哀そうな兄弟子に同情したとでも言うのか? そんな安い同情など誰が欲しがるか」
柚希が苦し気に口を開いたのを確認し、指を外して唇を重ねた朧は、更に舌を挿し込んで口内を蹂躙する。言葉ではああ言ったものの、実際にその行為が始まれば恐怖で身が竦み、本能で拒否を始める柚希。だが朧はそれを許さず、柚希の体に触れながら言った。
「お前の同情を更に安くする為に、抱かれる理由をやろう。俺に逆らわない限りあちらから手出しをしなければ、俺は白夜叉たちに手を出さない」
「……何よそれ。そんな理由って……」
「いつか白夜叉と顔を合わせた時に、お前はこの事を言えるのか? 俺と寝た、と。松陽を奪った敵に自ら抱かれたのだと」
「……っ!」
全身を覆う痛みは心と体、どちらの物なのか。はっきりと言葉にされてしまった行為は枷となり、柚希を苦しめる。
それでも柚希は歯を食いしばりながら言った。
「どうせ……シロにはもう会えないんでしょ。それに、親父様は貴方への思いを私達に託したんだから……今ここにいる私が親父様の代わりに『哀』さなきゃ……っ」
「自己犠牲も、ここまで行くと滑稽だな。……どこぞの馬鹿を思い出して虫唾が走る」
冷たい言葉と熱い肌。そのちぐはぐさに翻弄される柚希から零れ落ちるのは、熱い吐息と哀しい涙。
「何とでも……言えば良い……わ……っ」
「ならば今は溺れていろ。松陽と白夜叉と……お前の言う『哀』とやらに縛られながら、な」
そこから先に、言葉は無い。
やがて疲れ切って眠ってしまった柚希にそっと布団をかけ、朧が見上げた窓からは、かの人を思わせる優しい月の光が差し込んでいた。
「……何故抗わない?」
自らの行為にも拘らず、訝しげに朧が聞く。だが柚希にもその理由は分からなかった。
「何故……だろうね。貴方の涙を見たからなのか、親父様を失った悲しみを分かち合いたいと思ったからなのか……」
見下ろしてくる朧の澄んだ目を見つめながら、柚希は言う。
「ただ、今私を見ている貴方の目は多分、昔親父様を見ていた時の目と同じなんだろうなと思ったら、拒む事を忘れてた」
その言葉の意味を、自らの目を見る事の出来ない朧が理解する事は不可能だ。少しイラつきながら目を細めた朧は、この不愉快な言動を紡ぐ柚希の唇に指で軽く触れながら言った。
「俺は、お前の大切な者を追い詰め奪った張本人だぞ。しかも更に大切な物を奪われようとしているこの状況を、本当に分かっていないのか?」
「分かってる。だから貴方を認める事なんて出来ないし、ましてや愛して受け入れる事なんて出来るはずがない。でも……」
「でも?」
「親父様の思いと朧の思い。両方を知ってしまった私にできる事は、これしか思いつかないから……」
そこまで言った柚希の言葉を遮ろうとしたのか、朧の指先が柚希の唇を少し強めになぞる。ほんの少し不快そうな表情を見せた柚希に皮肉な笑みを向けた朧は次の瞬間、強引に指を口内へと挿し入れた。
「ふん、可哀そうな兄弟子に同情したとでも言うのか? そんな安い同情など誰が欲しがるか」
柚希が苦し気に口を開いたのを確認し、指を外して唇を重ねた朧は、更に舌を挿し込んで口内を蹂躙する。言葉ではああ言ったものの、実際にその行為が始まれば恐怖で身が竦み、本能で拒否を始める柚希。だが朧はそれを許さず、柚希の体に触れながら言った。
「お前の同情を更に安くする為に、抱かれる理由をやろう。俺に逆らわない限りあちらから手出しをしなければ、俺は白夜叉たちに手を出さない」
「……何よそれ。そんな理由って……」
「いつか白夜叉と顔を合わせた時に、お前はこの事を言えるのか? 俺と寝た、と。松陽を奪った敵に自ら抱かれたのだと」
「……っ!」
全身を覆う痛みは心と体、どちらの物なのか。はっきりと言葉にされてしまった行為は枷となり、柚希を苦しめる。
それでも柚希は歯を食いしばりながら言った。
「どうせ……シロにはもう会えないんでしょ。それに、親父様は貴方への思いを私達に託したんだから……今ここにいる私が親父様の代わりに『哀』さなきゃ……っ」
「自己犠牲も、ここまで行くと滑稽だな。……どこぞの馬鹿を思い出して虫唾が走る」
冷たい言葉と熱い肌。そのちぐはぐさに翻弄される柚希から零れ落ちるのは、熱い吐息と哀しい涙。
「何とでも……言えば良い……わ……っ」
「ならば今は溺れていろ。松陽と白夜叉と……お前の言う『哀』とやらに縛られながら、な」
そこから先に、言葉は無い。
やがて疲れ切って眠ってしまった柚希にそっと布団をかけ、朧が見上げた窓からは、かの人を思わせる優しい月の光が差し込んでいた。