第三章 〜夜叉〜(70P)
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「やだ! 朧、やめて……いやだ!」
「うるさい、黙れ!」
痛みの数だけ紅に色付いていく八咫烏。ただ痕を付けられるよりも恐ろしく狂気をはらんだ行為に怯え、柚希は必死に叫んだ。
「何でこんな……っや、だ……朧、やめ……っ」
「黙れと言っている!」
暴れる柚希を黙らせようと重ねられた唇は、いつもの指令を与える儀式とは違い、初めての深い口付けとなる。何故こんな事になっているのか、何が起きているのかが分からぬ柚希がどんなにもがいても、朧から逃げ出す事など出来なかった。
差し込まれた舌が口内を這い回る。同時に先程まで何度も吸い付かれ、数え切れないほどの痕を付けられた胸を強く掴まれると、更なる恐怖に身が竦んだ。これが何を意味するのか、これから自らに起こる事か何なのか、分からないほど子供では無い。
「や……っ!」
死に物狂いで抵抗する柚希。しかし、ふとある事に気付いた柚希はピタリとその抵抗を辞めた。
「朧……?」
柚希の頬を伝う熱い物。それは決して柚希の物では無かった。
「泣いて、るの?」
柚希の言葉に、ビクリと朧の体が揺れる。すぐ目の前にある存在に焦点を合わせると、そこには溢れんばかりの涙を流す朧の顔があった。
その瞬間、察してしまう。
「本当は誰よりも……親父様が好きだったのね……」
「黙れ……っ!」
再び唇で柚希の言葉を抑え込む朧。だが深く触れれば触れるほど、朧の中にある感情は柚希へと流れ込んで行った。更には柚希の体温が直に朧へと伝わり、凍り付いていた朧の心を溶かし始める。
ずっと忘れていた『人の温もり』を感じてしまった朧が、心の奥底に隠し続けてきた感情を漏らしてしまったのは、当然かもしれない。
「松陽先生……」
吐息が触れる距離にいたからこそ、聞こえてしまった大切な人の名。そこにどれほどの深い愛情と、大きな想いが込められているかが分かる切ない声は、柚希が考えるよりも先に体を動かした。
抵抗し、朧を押しのけようとしていた手がゆっくりと朧の後頭部に回される。緩やかなウェーブの髪を優しく撫でれば、見た目とはかけ離れた硬さを感じさせた。それは柚希のよく知っている癖っ毛とは程遠く、余計に悲しみを増幅する。
「親父様が言ってたよ。朧は大切な存在だって……貴方を護れなかったって悔やんでた」
次から次へと頬に落ちてくる朧の涙を拭おうともせず、柚希は言った。
「親父様は、貴方を好きだったよ。きっと、貴方が思っているよりもずっと……」
「……っ!」
声にならない嗚咽を前に、柚希は朧の髪を撫で続ける。まるで小さな子供を宥めるかのように優しく撫でている自分に戸惑いながらも、柚希はその手を止めようとはしなかった。
「うるさい、黙れ!」
痛みの数だけ紅に色付いていく八咫烏。ただ痕を付けられるよりも恐ろしく狂気をはらんだ行為に怯え、柚希は必死に叫んだ。
「何でこんな……っや、だ……朧、やめ……っ」
「黙れと言っている!」
暴れる柚希を黙らせようと重ねられた唇は、いつもの指令を与える儀式とは違い、初めての深い口付けとなる。何故こんな事になっているのか、何が起きているのかが分からぬ柚希がどんなにもがいても、朧から逃げ出す事など出来なかった。
差し込まれた舌が口内を這い回る。同時に先程まで何度も吸い付かれ、数え切れないほどの痕を付けられた胸を強く掴まれると、更なる恐怖に身が竦んだ。これが何を意味するのか、これから自らに起こる事か何なのか、分からないほど子供では無い。
「や……っ!」
死に物狂いで抵抗する柚希。しかし、ふとある事に気付いた柚希はピタリとその抵抗を辞めた。
「朧……?」
柚希の頬を伝う熱い物。それは決して柚希の物では無かった。
「泣いて、るの?」
柚希の言葉に、ビクリと朧の体が揺れる。すぐ目の前にある存在に焦点を合わせると、そこには溢れんばかりの涙を流す朧の顔があった。
その瞬間、察してしまう。
「本当は誰よりも……親父様が好きだったのね……」
「黙れ……っ!」
再び唇で柚希の言葉を抑え込む朧。だが深く触れれば触れるほど、朧の中にある感情は柚希へと流れ込んで行った。更には柚希の体温が直に朧へと伝わり、凍り付いていた朧の心を溶かし始める。
ずっと忘れていた『人の温もり』を感じてしまった朧が、心の奥底に隠し続けてきた感情を漏らしてしまったのは、当然かもしれない。
「松陽先生……」
吐息が触れる距離にいたからこそ、聞こえてしまった大切な人の名。そこにどれほどの深い愛情と、大きな想いが込められているかが分かる切ない声は、柚希が考えるよりも先に体を動かした。
抵抗し、朧を押しのけようとしていた手がゆっくりと朧の後頭部に回される。緩やかなウェーブの髪を優しく撫でれば、見た目とはかけ離れた硬さを感じさせた。それは柚希のよく知っている癖っ毛とは程遠く、余計に悲しみを増幅する。
「親父様が言ってたよ。朧は大切な存在だって……貴方を護れなかったって悔やんでた」
次から次へと頬に落ちてくる朧の涙を拭おうともせず、柚希は言った。
「親父様は、貴方を好きだったよ。きっと、貴方が思っているよりもずっと……」
「……っ!」
声にならない嗚咽を前に、柚希は朧の髪を撫で続ける。まるで小さな子供を宥めるかのように優しく撫でている自分に戸惑いながらも、柚希はその手を止めようとはしなかった。