第三章 〜夜叉〜(70P)
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「親父、様……?」
「私にとっては柚希も、銀時も、そして朧も大切な存在なんです。……例えどのような末路を迎えようとも、ね」
そう言ってゆっくりと瞬きした松陽の目に、次の涙は存在しない。たった一粒零れた感情だからこそ、その存在は大きく、重い事を柚希は知った。
「もしあの子が私と同じか、貴方たちと同じように仲間と共に生きる道を選べていたならば……いや、もしかしたら今からでもやり直せるかもしれませんね。寂しい時に寄りかかり、寒い時は暖め合える存在があの子にもいるのだという事を、貴方や銀時がいればいつかきっと分かってくれる」
そっと差し出された松陽の手が、柚希の頭を優しく撫でる。
「私はあの子を護れなかったけれど、朧自身が貴方をここへと連れて来たのだから……柚希も銀時も、私たちにとって大きな希望なんですよ」
「親父様……?」
一人納得する松陽の顔に浮かぶのは、やはり笑顔。だが同じ笑顔でもそこに込められた感情は、先ほどまでとは全く違う曇りの無い物で、何かをやり遂げた時のような清々しさを思わせた。その事が逆に、柚希を不安にさせる。
しかし先ほどの涙がどうしても心に引っかかり、柚希は結局それ以上、朧について追及する気にはなれなかった。
そして別れの日はやって来る。
松陽が連れ去られ、泣き疲れて魂が抜けたような状態の柚希は、戻ってきた朧によって牢から連れ出されていた。そこは朧の個室であり、八咫烏としての指令を受ける時に必ず連れ込まれる場所でもある。
乱暴に畳へと投げ出された柚希は、そのぼんやりとした意識の中で朧の言葉を聞いた。
「松陽は死んだ。白夜叉の手にかかってな」
「――え?」
失われていた目の光が一瞬にして戻る。勢いよく立ち上がった柚希は、朧に掴みかかりながら叫んだ。
「親父様が……白夜叉の手にかかってってどういう事よっ!」
朧の胸倉を掴んで睨む柚希からは、殺気が吹き出している。しかし朧はそれを物ともせず、至って冷静に答えた。
「どういう事も何も、事実を述べたまで。吉田松陽は死に、その命を奪ったのは白夜叉だ」
「嘘……嘘よ、そんな……親父様……シロ……っ!」
「松陽を連れて行く時に言っておいたはずだがな。信じられないと言うのなら、これを見るが良い。松陽の形見だ」
「かた、み……?」
朧が懐に手を入れるのを見て、胸倉から手を離した柚希が見た物は、くしゃくしゃになってちぎれた小さな紙。誰の物かは分からないが、明らかに血痕だと分かるシミをいくつも携えたそれを渡されて確認した瞬間。
「――っ!」
声にならない悲鳴を上げ、柚希は頽れた。
「私にとっては柚希も、銀時も、そして朧も大切な存在なんです。……例えどのような末路を迎えようとも、ね」
そう言ってゆっくりと瞬きした松陽の目に、次の涙は存在しない。たった一粒零れた感情だからこそ、その存在は大きく、重い事を柚希は知った。
「もしあの子が私と同じか、貴方たちと同じように仲間と共に生きる道を選べていたならば……いや、もしかしたら今からでもやり直せるかもしれませんね。寂しい時に寄りかかり、寒い時は暖め合える存在があの子にもいるのだという事を、貴方や銀時がいればいつかきっと分かってくれる」
そっと差し出された松陽の手が、柚希の頭を優しく撫でる。
「私はあの子を護れなかったけれど、朧自身が貴方をここへと連れて来たのだから……柚希も銀時も、私たちにとって大きな希望なんですよ」
「親父様……?」
一人納得する松陽の顔に浮かぶのは、やはり笑顔。だが同じ笑顔でもそこに込められた感情は、先ほどまでとは全く違う曇りの無い物で、何かをやり遂げた時のような清々しさを思わせた。その事が逆に、柚希を不安にさせる。
しかし先ほどの涙がどうしても心に引っかかり、柚希は結局それ以上、朧について追及する気にはなれなかった。
そして別れの日はやって来る。
松陽が連れ去られ、泣き疲れて魂が抜けたような状態の柚希は、戻ってきた朧によって牢から連れ出されていた。そこは朧の個室であり、八咫烏としての指令を受ける時に必ず連れ込まれる場所でもある。
乱暴に畳へと投げ出された柚希は、そのぼんやりとした意識の中で朧の言葉を聞いた。
「松陽は死んだ。白夜叉の手にかかってな」
「――え?」
失われていた目の光が一瞬にして戻る。勢いよく立ち上がった柚希は、朧に掴みかかりながら叫んだ。
「親父様が……白夜叉の手にかかってってどういう事よっ!」
朧の胸倉を掴んで睨む柚希からは、殺気が吹き出している。しかし朧はそれを物ともせず、至って冷静に答えた。
「どういう事も何も、事実を述べたまで。吉田松陽は死に、その命を奪ったのは白夜叉だ」
「嘘……嘘よ、そんな……親父様……シロ……っ!」
「松陽を連れて行く時に言っておいたはずだがな。信じられないと言うのなら、これを見るが良い。松陽の形見だ」
「かた、み……?」
朧が懐に手を入れるのを見て、胸倉から手を離した柚希が見た物は、くしゃくしゃになってちぎれた小さな紙。誰の物かは分からないが、明らかに血痕だと分かるシミをいくつも携えたそれを渡されて確認した瞬間。
「――っ!」
声にならない悲鳴を上げ、柚希は頽れた。