第三章 〜夜叉〜(70P)
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あれは、松陽との永遠の別れを迎える数日前の事。牢に戻っていた柚希から春雨の情報を聞き出し、去って行く朧の後ろ姿を見ていた松陽は、珍しく朧について語りだした。
これまでにも何度か柚希からは聞いた事もあったのだが、何だかんだではぐらかされている。よほど話したくない事なのだろうかと思っていた柚希は、突然の事に漠然とした不安を抱きながらも、松陽の話に耳を傾けた。
「朧は私の一番弟子であり、息子のようなものなのですよ。とは言っても、世話を焼いていたのはどちらかというと朧の方で、私はいつもあの子に助けられていました」
大きな傷を受けていた朧と出会い、二人で旅をした日々を振り返りながら懐かしそうに目を細める松陽。その表情はとても幸せそうなのに、何故か強い悲しみが感じられた柚希は、思い切って尋ねた。
「って事は、朧は私たちの兄弟子みたいなもんだよね。親父様の事だから、シロや私みたいに朧の事も凄く可愛がってたんだろうけど……そんな彼が何で私たちにこんな酷い事をするの? そもそも何で親父様の弟子が、あんな奈落のような危険な集団のトップにいるのよ。それに、親父様が捕らわれるきっかけになったのも朧だって言うじゃない。一応捕らえられた理由は聞かされたけど、私には何かが違う気がしてならない。本当はもっとこう、政治的な物じゃなくて……感情的な何かが左右してるような気がするの」
「本当に柚希は聡い子ですねぇ。さすが私の娘です」
「そこで茶化さない! ねぇ親父様、本当はこうなってしまった事の全貌が見えてるんじゃないの? これから私たちがどうなっていくのか、どうしたら良いのかを知ってて、ここから動かずにいるんだとしか思えないのよ」
ずっと腹の中に抱え込んでいた疑問をぶつければ、困った顔を見せる松陽。だが、柚希の真剣な眼差しから何かを決意したのか、ふっと小さく笑みを浮かべて言った。
「聡い子、と言ったのは別に茶化してませんよ。心からの言葉です。柚希は私が何も言わずして、その答えを導き出しているのですから。ただそうですね……答えとしては半分当っていて、半分ハズレているかもしれません」
「それってどういう事?」
「何と言いましょうか、きっと朧は私たちに酷い事をしたいと思ってやったのでは無いのだと思います。ただ、彼には自由な選択肢が無かった。私は貴方達に新たな人生をもらうことができましたが、あの子の周りにそれは無かった。私が全てを奪ってしまったんです」
「ごめん、親父様の言ってる意味が理解できないよ。もっと噛み砕いて説明してくれる?」
「これが全てですよ。朧は自分の全てを賭けて私を思ってくれていた。それだけが真実です」
「そんな答えじゃ分かんな――」
どうしてもその言葉の意味が理解できず、もっと追及したかった柚希だが、静かな笑顔を見せる松陽の目から零れ落ちた一粒の涙を見た瞬間、言葉を失う。
それは松陽が柚希と出会ってから初めて見せた悲しい涙だった。
これまでにも何度か柚希からは聞いた事もあったのだが、何だかんだではぐらかされている。よほど話したくない事なのだろうかと思っていた柚希は、突然の事に漠然とした不安を抱きながらも、松陽の話に耳を傾けた。
「朧は私の一番弟子であり、息子のようなものなのですよ。とは言っても、世話を焼いていたのはどちらかというと朧の方で、私はいつもあの子に助けられていました」
大きな傷を受けていた朧と出会い、二人で旅をした日々を振り返りながら懐かしそうに目を細める松陽。その表情はとても幸せそうなのに、何故か強い悲しみが感じられた柚希は、思い切って尋ねた。
「って事は、朧は私たちの兄弟子みたいなもんだよね。親父様の事だから、シロや私みたいに朧の事も凄く可愛がってたんだろうけど……そんな彼が何で私たちにこんな酷い事をするの? そもそも何で親父様の弟子が、あんな奈落のような危険な集団のトップにいるのよ。それに、親父様が捕らわれるきっかけになったのも朧だって言うじゃない。一応捕らえられた理由は聞かされたけど、私には何かが違う気がしてならない。本当はもっとこう、政治的な物じゃなくて……感情的な何かが左右してるような気がするの」
「本当に柚希は聡い子ですねぇ。さすが私の娘です」
「そこで茶化さない! ねぇ親父様、本当はこうなってしまった事の全貌が見えてるんじゃないの? これから私たちがどうなっていくのか、どうしたら良いのかを知ってて、ここから動かずにいるんだとしか思えないのよ」
ずっと腹の中に抱え込んでいた疑問をぶつければ、困った顔を見せる松陽。だが、柚希の真剣な眼差しから何かを決意したのか、ふっと小さく笑みを浮かべて言った。
「聡い子、と言ったのは別に茶化してませんよ。心からの言葉です。柚希は私が何も言わずして、その答えを導き出しているのですから。ただそうですね……答えとしては半分当っていて、半分ハズレているかもしれません」
「それってどういう事?」
「何と言いましょうか、きっと朧は私たちに酷い事をしたいと思ってやったのでは無いのだと思います。ただ、彼には自由な選択肢が無かった。私は貴方達に新たな人生をもらうことができましたが、あの子の周りにそれは無かった。私が全てを奪ってしまったんです」
「ごめん、親父様の言ってる意味が理解できないよ。もっと噛み砕いて説明してくれる?」
「これが全てですよ。朧は自分の全てを賭けて私を思ってくれていた。それだけが真実です」
「そんな答えじゃ分かんな――」
どうしてもその言葉の意味が理解できず、もっと追及したかった柚希だが、静かな笑顔を見せる松陽の目から零れ落ちた一粒の涙を見た瞬間、言葉を失う。
それは松陽が柚希と出会ってから初めて見せた悲しい涙だった。