第三章 〜夜叉〜(70P)
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「今朝になって来てみたら、銀さんの眠り方が何だかいつもと違うんですもん。足に怪我もしてるみたいですし、夜中に何かあったんですか?」
「別に何もねーよ。ちっとばかし疲れてたのか、夜中に寝ぼけて便所に行ったらぶつけちまってよ。でもまァしっかり寝たから、今からジャンプを買いに走る事だって出来るぜ」
「それなら良かった。この後一件、雨漏りの修繕をお願いされてるんですけど、銀さん行ってくれますよね?」
「え? いやでも銀さん、足に怪我してっからね? しばらく安静に……」
「アンタ今、ジャンプを買いに行けるって自分で言ったばかりでしょうがッ!」
「銀ちゃん、働かざる者食うべからずヨ。仕事しないなら、今夜のスペシャル弁当は働いてきた私の物ネ」
「どんだけ強欲ゥッ!?」
いつも通りの騒がしい万事屋トークは止まる事を知らず、やれやれと肩を竦めた柚希は、「頑張れ」と笑顔で銀時の頭をポンポンと叩く。布団を被って抵抗していた銀時も、さすがに三対一では勝てないと諦めたのか大きくため息を吐くと、ノロノロと立ち上がった。
「ったく……面倒くせーなァ」
怠そうにボリボリと後頭部を掻く銀時の背中を押しながら、新八が言う。
「僕も一緒に行きますから、さっさと済ませて来ちゃいましょうよ。神楽ちゃんはどうする?」
「私は定春の散歩に行ってくるネ。今日はあまり動いて無いから、きっと物足りてないヨ」
チラリと定春の方に視線を向ければ、散歩の言葉で嬉しそうに尻尾を振っていた。早く行こうと催促するように「あん!」と鳴いて玄関へと向かって歩き出すと、神楽もその後をついていく。
そのまま万事屋を出た神楽たちの姿は、あっという間に見えなくなってしまった。
「さすが神楽ちゃん、フットワークが軽いですね。さ、銀さん。僕たちも行きましょう」
「へ~い」
眠そうに大きなあくびをしながら、例のごとく死んだ魚のような目で玄関に向かう銀時。その時玄関まで見送りに来た柚希がふと何かに気付き、「ちょっと待っててね」と慌てて台所へと駆け込んだ。ガサガサと音を立て、再び玄関に戻って来た時に手にしていた物。それは紙に包まれたサンドイッチと水筒だった。
「考えてみたら私たち、今日はまともに食事をしてなかったよね。銀時が元気出ないのは空腹も大きいよ。多めに入れてあるから、良かったら新八くんも摘まんでね。でも夕食が食べられる程度にはしておいて」
「はい、ありがとうござ……って、銀さん、もう食べてるんですか!?」
「ふぁってははへっへっから(だって腹減ってっから)」
モゴモゴと口一杯にサンドイッチを頬張る銀時の顔は幸せそうだ。それを見て顔を見合わせ、苦笑いをした新八と柚希は、今の銀時に何を言っても無駄だと理解しているのだろう。
「それじゃあ柚希さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
いつも通りに出がけの挨拶を交わすと、新八は銀時を引っ張るようにして万事屋を出て行った。
万事屋の者たちが出て行けば、途端に家の中が静かになる。
「まるで嵐ね」
クスリと笑った柚希は、玄関の戸を閉めると台所へと向かった。
「さてと、私も少し食べておこうかな」
スツールに腰を下ろして残りのサンドイッチに手を付け、淹れ立てのコーヒーを口にするとホウッとため息が漏れる。未だ半分中身の残ったマグカップをコトリと台に置き、頬杖をついた柚希は呟いた。
「何でこんな事になっちゃったのかなぁ……」
一人になれば、頭に浮かぶのはやはり先ほどの話。松陽の最期がどれ程に銀時を苦しめる事となったかは、想像に難くない。そしてその原因を作った男に、未だ縛られ続けている自分が不甲斐なかった。
「親父様への思いは同じだったはずなのに、辿る道が違えばこんなにも人を変えてしまうんだね」
ふとコーヒーの水面を見れば、そこに映っているのは哀しい瞳を揺らす夜叉。
「ごめんね親父様。一度は受け入れようとしたけれど……やっぱり私は、親父様の抱いてた希望を叶える事は出来そうにないや」
絞り出すように言った柚希の手は、真っ白になるほどに強く握りしめられていた。
「別に何もねーよ。ちっとばかし疲れてたのか、夜中に寝ぼけて便所に行ったらぶつけちまってよ。でもまァしっかり寝たから、今からジャンプを買いに走る事だって出来るぜ」
「それなら良かった。この後一件、雨漏りの修繕をお願いされてるんですけど、銀さん行ってくれますよね?」
「え? いやでも銀さん、足に怪我してっからね? しばらく安静に……」
「アンタ今、ジャンプを買いに行けるって自分で言ったばかりでしょうがッ!」
「銀ちゃん、働かざる者食うべからずヨ。仕事しないなら、今夜のスペシャル弁当は働いてきた私の物ネ」
「どんだけ強欲ゥッ!?」
いつも通りの騒がしい万事屋トークは止まる事を知らず、やれやれと肩を竦めた柚希は、「頑張れ」と笑顔で銀時の頭をポンポンと叩く。布団を被って抵抗していた銀時も、さすがに三対一では勝てないと諦めたのか大きくため息を吐くと、ノロノロと立ち上がった。
「ったく……面倒くせーなァ」
怠そうにボリボリと後頭部を掻く銀時の背中を押しながら、新八が言う。
「僕も一緒に行きますから、さっさと済ませて来ちゃいましょうよ。神楽ちゃんはどうする?」
「私は定春の散歩に行ってくるネ。今日はあまり動いて無いから、きっと物足りてないヨ」
チラリと定春の方に視線を向ければ、散歩の言葉で嬉しそうに尻尾を振っていた。早く行こうと催促するように「あん!」と鳴いて玄関へと向かって歩き出すと、神楽もその後をついていく。
そのまま万事屋を出た神楽たちの姿は、あっという間に見えなくなってしまった。
「さすが神楽ちゃん、フットワークが軽いですね。さ、銀さん。僕たちも行きましょう」
「へ~い」
眠そうに大きなあくびをしながら、例のごとく死んだ魚のような目で玄関に向かう銀時。その時玄関まで見送りに来た柚希がふと何かに気付き、「ちょっと待っててね」と慌てて台所へと駆け込んだ。ガサガサと音を立て、再び玄関に戻って来た時に手にしていた物。それは紙に包まれたサンドイッチと水筒だった。
「考えてみたら私たち、今日はまともに食事をしてなかったよね。銀時が元気出ないのは空腹も大きいよ。多めに入れてあるから、良かったら新八くんも摘まんでね。でも夕食が食べられる程度にはしておいて」
「はい、ありがとうござ……って、銀さん、もう食べてるんですか!?」
「ふぁってははへっへっから(だって腹減ってっから)」
モゴモゴと口一杯にサンドイッチを頬張る銀時の顔は幸せそうだ。それを見て顔を見合わせ、苦笑いをした新八と柚希は、今の銀時に何を言っても無駄だと理解しているのだろう。
「それじゃあ柚希さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
いつも通りに出がけの挨拶を交わすと、新八は銀時を引っ張るようにして万事屋を出て行った。
万事屋の者たちが出て行けば、途端に家の中が静かになる。
「まるで嵐ね」
クスリと笑った柚希は、玄関の戸を閉めると台所へと向かった。
「さてと、私も少し食べておこうかな」
スツールに腰を下ろして残りのサンドイッチに手を付け、淹れ立てのコーヒーを口にするとホウッとため息が漏れる。未だ半分中身の残ったマグカップをコトリと台に置き、頬杖をついた柚希は呟いた。
「何でこんな事になっちゃったのかなぁ……」
一人になれば、頭に浮かぶのはやはり先ほどの話。松陽の最期がどれ程に銀時を苦しめる事となったかは、想像に難くない。そしてその原因を作った男に、未だ縛られ続けている自分が不甲斐なかった。
「親父様への思いは同じだったはずなのに、辿る道が違えばこんなにも人を変えてしまうんだね」
ふとコーヒーの水面を見れば、そこに映っているのは哀しい瞳を揺らす夜叉。
「ごめんね親父様。一度は受け入れようとしたけれど……やっぱり私は、親父様の抱いてた希望を叶える事は出来そうにないや」
絞り出すように言った柚希の手は、真っ白になるほどに強く握りしめられていた。