第三章 〜夜叉〜(70P)
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「牢で過ごした数日間は、とても穏やかな時間だったよ。親父様が連れ去られた後の私たちの事や、親父様がその間どうしていたかも話したの」
「そっか。……そん時の松陽は笑ってたのか?」
「うん。相変わらず、のほほんとした笑顔を見せてたよ。シロたちの話を聞く時なんて、顔が蕩けて崩壊寸前だったんだから」
「……お前、どんな話をしたんだ?」
「えっと、まあ色々、かな」
ペロリと舌を出しながら言った柚希に呆れながらも、銀時の表情は優しい。やはり二人にとって、松陽の明るい話題は嬉しい物だった。
「その話は、今は横に置いといて……それなりに話も出来て落ち着いた頃、暫く姿を見せていなかった朧が戻って来たの。その時に言われたのが、春雨で働く事。春雨では様々な薬の研究を行っているから、そこで研究員として働けって。しかもご丁寧に、春雨に不穏な動きが無いか監視するお役目まで頂戴しちゃったの。要は八咫烏の……朧の配下であることを隠して潜入しろって事よね」
「随分勝手な話だな」
「私も上の事はよく知らないけど、一応結託をしているようで、その実お互いを牽制しながら相手の足元をすくおうとしてたんじゃないかな。当時春雨は地球の医学的知識を持つ人間を欲しがってたから、私の存在は色々と都合が良かったみたい。八咫烏の紋章はきっかけがないと現れないから、疑われてもバレにくいしね」
紋章を掴むようにしながら困ったように言う柚希の手に、銀時の手が乗せられる。冷たくなっている柚希の指先に、温もりが心地良かった。
「断る事は出来なかったのか?」
「仕事の代価として、親父様の命の保証を出されたらね。選択の余地は無かったわ」
「だったら何で松陽は……」
――命を落とさねばならなかった?
そう喉まで出かかった言葉を銀時は飲み込む。松陽の命と、柚希の束縛との関係がちぐはぐに感じられながらも、深く追求するのは柚希を追い込むのと同じだと思ったようだ。
だが銀時が言葉にせずとも、柚希は自らその先を口にした。
「私にも分からない。言われた通り春雨に潜入して、手を抜くことなく薬の研究をしていたのよ。何故か時折親父様のいる牢へ戻る事は許されてたから、その都度見聞きしてきた春雨の内部情報を伝えてもいた。それなのにあの日……私の目の前で、親父様は連れて行かれたの」
「そっか。……そん時の松陽は笑ってたのか?」
「うん。相変わらず、のほほんとした笑顔を見せてたよ。シロたちの話を聞く時なんて、顔が蕩けて崩壊寸前だったんだから」
「……お前、どんな話をしたんだ?」
「えっと、まあ色々、かな」
ペロリと舌を出しながら言った柚希に呆れながらも、銀時の表情は優しい。やはり二人にとって、松陽の明るい話題は嬉しい物だった。
「その話は、今は横に置いといて……それなりに話も出来て落ち着いた頃、暫く姿を見せていなかった朧が戻って来たの。その時に言われたのが、春雨で働く事。春雨では様々な薬の研究を行っているから、そこで研究員として働けって。しかもご丁寧に、春雨に不穏な動きが無いか監視するお役目まで頂戴しちゃったの。要は八咫烏の……朧の配下であることを隠して潜入しろって事よね」
「随分勝手な話だな」
「私も上の事はよく知らないけど、一応結託をしているようで、その実お互いを牽制しながら相手の足元をすくおうとしてたんじゃないかな。当時春雨は地球の医学的知識を持つ人間を欲しがってたから、私の存在は色々と都合が良かったみたい。八咫烏の紋章はきっかけがないと現れないから、疑われてもバレにくいしね」
紋章を掴むようにしながら困ったように言う柚希の手に、銀時の手が乗せられる。冷たくなっている柚希の指先に、温もりが心地良かった。
「断る事は出来なかったのか?」
「仕事の代価として、親父様の命の保証を出されたらね。選択の余地は無かったわ」
「だったら何で松陽は……」
――命を落とさねばならなかった?
そう喉まで出かかった言葉を銀時は飲み込む。松陽の命と、柚希の束縛との関係がちぐはぐに感じられながらも、深く追求するのは柚希を追い込むのと同じだと思ったようだ。
だが銀時が言葉にせずとも、柚希は自らその先を口にした。
「私にも分からない。言われた通り春雨に潜入して、手を抜くことなく薬の研究をしていたのよ。何故か時折親父様のいる牢へ戻る事は許されてたから、その都度見聞きしてきた春雨の内部情報を伝えてもいた。それなのにあの日……私の目の前で、親父様は連れて行かれたの」