第三章 〜夜叉〜(70P)
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「そんな事があったのか……」
救護所襲撃の経緯を一気に語った柚希を抱きしめながら、銀時が言った。その表情は苦し気に歪んでいる。自分の過去を悲しんでいる事は間違いないようだが、それ以上に何か引っかかる物を感じた柚希は、首を傾げながら尋ねた。
「何か気になる事があった?」
腕の中で心配そうに見上げてくる柚希を切なげに見つめながら、銀時は当時を思い返す。そして今は着物の下に隠れている、柚希の胸の紋章の位置に視線を移しながら言った。
「お前には辛い思いをさせちまったな。俺があの時、アイツを倒せてたらこんな事には……」
「どういう事?」
「あの日……お前と怪我人を救護所に置いて戦場に出た俺たちは、次の日の午後に朧と対峙してんだよ。お互いギリギリの状態の中、次の一太刀で決まるって時に奴の仲間がやって来て、朧は去って行った。『夜叉のお陰で命拾いしたな』ってな捨て台詞を残して消えやがったから、あん時は負け惜しみでも言ってんのかと思ってたんだけどよ……」
その翌日、朧は救護所に現れて柚希を捕らえている。これの意味する事が何か分からない程、愚かな二人では無い。
「早急に私を捕らえろって命令が下されたわけだ。でもシロと交戦直後の割には傷が……」
「やせ我慢してたんじゃねェのか? 左肩に深い傷を負わせたからな。少なくとも腕は上がらなかったはずだぜ」
「そう、なんだ……」
困ったように言った柚希は、小さなため息を吐く。その姿を訝し気に見る銀時に、柚希は苦笑いで答えた。
「私、左肩に担がれて親父様の所に連れて行かれたのよ」
「げ! それって重みで肩が外れ……」
「何の重みかしら?」
「いえ、柚希様は妖精のように軽いので、全くもって問題ありませェん!」
「もう、シロってば!」と拗ねて顔をそむけた柚希だったが、その時一瞬瞳を鋭く光らせた事を、銀時は気付いていない。
「とりあえず、有無を言わせずな所はありながらも、ある意味私も親父様の所へ連れて行かれる事には合意してた。そのまま私は親父様のいる牢に連れて行かれて、数日間一緒に過ごしたわ。岩ばかりの殺風景な場所ではあったけれど、あの段階では未だ殺すつもりは無かったのか、食事はきちんと出されたし、牢の中では拘束もされず自由に動けた。頼めば水浴びもさせてくれたわ」
「水浴びって……見張りがいるんだろ? まさか……」
「変な事考えないでよね! 私より少し年下の見張りの女の子がいたから、一緒に入ってたの。その子も八咫烏の紋章を背負ってたのには驚いたけど、親父様から文字を習ったりしてたし、どちらかと言うと私たちに好意的な子だったわ。確か……骸って呼ばれてたはずよ」
「女の子に付ける名前にしちゃァ、随分物騒だな」
「私もそう思ったから、一緒にいる時はむーちゃんって呼んでたんだ」
牢の中で待望の再会を果たし、号泣しながら松陽に抱きしめられる柚希の姿を、ガラスのような眼差しで見ていた骸には、感情と言う物が見えなかった。だがそれは単に感情の表現方法を知らぬだけで、声をかければぶっきら棒ながらも話が出来る。きっと松陽の教えの賜物なのだろう。顔を合わせていたのはほんの数日ではあったが、大きく年は離れていないという事もあり、それなりに打ち解けてはいた。
救護所襲撃の経緯を一気に語った柚希を抱きしめながら、銀時が言った。その表情は苦し気に歪んでいる。自分の過去を悲しんでいる事は間違いないようだが、それ以上に何か引っかかる物を感じた柚希は、首を傾げながら尋ねた。
「何か気になる事があった?」
腕の中で心配そうに見上げてくる柚希を切なげに見つめながら、銀時は当時を思い返す。そして今は着物の下に隠れている、柚希の胸の紋章の位置に視線を移しながら言った。
「お前には辛い思いをさせちまったな。俺があの時、アイツを倒せてたらこんな事には……」
「どういう事?」
「あの日……お前と怪我人を救護所に置いて戦場に出た俺たちは、次の日の午後に朧と対峙してんだよ。お互いギリギリの状態の中、次の一太刀で決まるって時に奴の仲間がやって来て、朧は去って行った。『夜叉のお陰で命拾いしたな』ってな捨て台詞を残して消えやがったから、あん時は負け惜しみでも言ってんのかと思ってたんだけどよ……」
その翌日、朧は救護所に現れて柚希を捕らえている。これの意味する事が何か分からない程、愚かな二人では無い。
「早急に私を捕らえろって命令が下されたわけだ。でもシロと交戦直後の割には傷が……」
「やせ我慢してたんじゃねェのか? 左肩に深い傷を負わせたからな。少なくとも腕は上がらなかったはずだぜ」
「そう、なんだ……」
困ったように言った柚希は、小さなため息を吐く。その姿を訝し気に見る銀時に、柚希は苦笑いで答えた。
「私、左肩に担がれて親父様の所に連れて行かれたのよ」
「げ! それって重みで肩が外れ……」
「何の重みかしら?」
「いえ、柚希様は妖精のように軽いので、全くもって問題ありませェん!」
「もう、シロってば!」と拗ねて顔をそむけた柚希だったが、その時一瞬瞳を鋭く光らせた事を、銀時は気付いていない。
「とりあえず、有無を言わせずな所はありながらも、ある意味私も親父様の所へ連れて行かれる事には合意してた。そのまま私は親父様のいる牢に連れて行かれて、数日間一緒に過ごしたわ。岩ばかりの殺風景な場所ではあったけれど、あの段階では未だ殺すつもりは無かったのか、食事はきちんと出されたし、牢の中では拘束もされず自由に動けた。頼めば水浴びもさせてくれたわ」
「水浴びって……見張りがいるんだろ? まさか……」
「変な事考えないでよね! 私より少し年下の見張りの女の子がいたから、一緒に入ってたの。その子も八咫烏の紋章を背負ってたのには驚いたけど、親父様から文字を習ったりしてたし、どちらかと言うと私たちに好意的な子だったわ。確か……骸って呼ばれてたはずよ」
「女の子に付ける名前にしちゃァ、随分物騒だな」
「私もそう思ったから、一緒にいる時はむーちゃんって呼んでたんだ」
牢の中で待望の再会を果たし、号泣しながら松陽に抱きしめられる柚希の姿を、ガラスのような眼差しで見ていた骸には、感情と言う物が見えなかった。だがそれは単に感情の表現方法を知らぬだけで、声をかければぶっきら棒ながらも話が出来る。きっと松陽の教えの賜物なのだろう。顔を合わせていたのはほんの数日ではあったが、大きく年は離れていないという事もあり、それなりに打ち解けてはいた。