第三章 〜夜叉〜(70P)
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「……え?」
一瞬、何が起きたか分からなかった。
目を見開いた柚希の唇に触れているのは、驚くほどに冷たい感触。咄嗟に口を閉じても、それを許さない朧が強引に舌で唇を割ると同時に、液体が口内へと流れ込んできた。
「ん……んうっ!」
せめて飲み込まぬよう抵抗しても、それを見越して鼻を摘ままれてしまい、呼吸のままならなくなった柚希は、液体を飲み込まざるを得なくなる。
柚希が飲み込んだのを確認し、朧が離れた時にはもう、柚希の体には異変が生じていた。
「胸元を見てみろ」
呼吸を阻まれた状態からようやく解放され、肩で息をしながら柚希が目にしたのは、つい今し方までは存在していなかったはずの鳥の模様。
「な……によ、これ……」
「今この瞬間から、お前は俺の傀儡だ。その八咫烏の紋章を背負い、絶望の中で俺の手足となって働いてもらう」
「は……? 何を言ってるの?」
「先ほどお前の肌から染み込ませた薬剤と、今俺が口移しで飲ませた液体には、俺の血液の成分が混ぜてある。その薬を取り込んだ以上、お前は俺の言う事に従うしか無い」
「ふざけないで! 何で私がそんな……」
ただの脅しであれば良い。そう思いながら反論しようとした柚希だったが、朧の目に全く嘘が無い事を悟り、言葉が続かなくなる。
「信じたくなければそれでも構わんが、その紋章がある以上、何処にいても俺はお前の居場所が分かるし、その身を操るも死に至らしめる事も容易い。どこぞの星で発明された薬らしいが、その効果はお墨付きだ」
しかも返ってきた答えは想像もしていなかった物で、柚希は呆然とするしかない。だがそんな事などおかまいなしに、朧は柚希の着物を手早く整えてやると、荒々しく持ち上げて肩に乗せた。
「え? ちょっと」
「何を飲まされたのかは知らんが、そっちの薬が抜けるのを待っていられるほど、こちらも暇では無いのでな」
チラリと視線を向けた先は、救護所。朧の出現で失念していたが、中で殺戮の限りを尽くしてきた天人たちが全てを終え、出てくるようだ。
恐る恐る柚希もそちらを見てみれば、天人たちが返り血を浴びて誇らしげに笑いながら出てくる。それはこの場所を護るべき柚希の完全なる失態であり、敗北を意味していた。
「護れなかった……私、皆を……」
数分前まで共に笑い合っていた仲間たちが、今はもう――。
現実を突きつけられ、柚希から大粒の涙が零れ落ちても、朧は眉一つ動かしはしない。
「奴らに用は無い。行くぞ」
そう言った朧は、天人の一人がこちらに気付くと同時に柚希を背負ったまま、一路松陽のいる牢へと走り出す。もう完全に抵抗する事を忘れた柚希は、凄まじい速さで遠のいていく戦場をぼんやりと眺めながら、ただ涙を流す事しか出来なかった。
一瞬、何が起きたか分からなかった。
目を見開いた柚希の唇に触れているのは、驚くほどに冷たい感触。咄嗟に口を閉じても、それを許さない朧が強引に舌で唇を割ると同時に、液体が口内へと流れ込んできた。
「ん……んうっ!」
せめて飲み込まぬよう抵抗しても、それを見越して鼻を摘ままれてしまい、呼吸のままならなくなった柚希は、液体を飲み込まざるを得なくなる。
柚希が飲み込んだのを確認し、朧が離れた時にはもう、柚希の体には異変が生じていた。
「胸元を見てみろ」
呼吸を阻まれた状態からようやく解放され、肩で息をしながら柚希が目にしたのは、つい今し方までは存在していなかったはずの鳥の模様。
「な……によ、これ……」
「今この瞬間から、お前は俺の傀儡だ。その八咫烏の紋章を背負い、絶望の中で俺の手足となって働いてもらう」
「は……? 何を言ってるの?」
「先ほどお前の肌から染み込ませた薬剤と、今俺が口移しで飲ませた液体には、俺の血液の成分が混ぜてある。その薬を取り込んだ以上、お前は俺の言う事に従うしか無い」
「ふざけないで! 何で私がそんな……」
ただの脅しであれば良い。そう思いながら反論しようとした柚希だったが、朧の目に全く嘘が無い事を悟り、言葉が続かなくなる。
「信じたくなければそれでも構わんが、その紋章がある以上、何処にいても俺はお前の居場所が分かるし、その身を操るも死に至らしめる事も容易い。どこぞの星で発明された薬らしいが、その効果はお墨付きだ」
しかも返ってきた答えは想像もしていなかった物で、柚希は呆然とするしかない。だがそんな事などおかまいなしに、朧は柚希の着物を手早く整えてやると、荒々しく持ち上げて肩に乗せた。
「え? ちょっと」
「何を飲まされたのかは知らんが、そっちの薬が抜けるのを待っていられるほど、こちらも暇では無いのでな」
チラリと視線を向けた先は、救護所。朧の出現で失念していたが、中で殺戮の限りを尽くしてきた天人たちが全てを終え、出てくるようだ。
恐る恐る柚希もそちらを見てみれば、天人たちが返り血を浴びて誇らしげに笑いながら出てくる。それはこの場所を護るべき柚希の完全なる失態であり、敗北を意味していた。
「護れなかった……私、皆を……」
数分前まで共に笑い合っていた仲間たちが、今はもう――。
現実を突きつけられ、柚希から大粒の涙が零れ落ちても、朧は眉一つ動かしはしない。
「奴らに用は無い。行くぞ」
そう言った朧は、天人の一人がこちらに気付くと同時に柚希を背負ったまま、一路松陽のいる牢へと走り出す。もう完全に抵抗する事を忘れた柚希は、凄まじい速さで遠のいていく戦場をぼんやりと眺めながら、ただ涙を流す事しか出来なかった。