第三章 〜夜叉〜(70P)
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「すっかり忘れてたわ。痛みも無かったしな」
「塗り薬に、痛み止めの効果も入ってるからね。でもちゃんと治るまで無理はしないで」
「へーへー」
こういう時は、茶化してはいけないと分かっている。銀時は柚希の処置を受けるべく、素直に足を伸ばして見せた。
傷の手当てをしながら、着衣前の銀時の全身を流し見て確認する柚希の顔は、紛れもない医師の顔である。
「随分傷が増えたね、シロ。あの頃にはなかった傷痕がいくつもあるわ」
考えてみれば、記憶が戻ってから明るい場所で、銀時の体をマジマジと見るのはこれが初めてだ。普段のおちゃらけた彼からは想像もできない、数多くの生々しい傷痕は、いかに多くの命がけの戦いを潜り抜けて来たかを如実に表していた。
「お前の姿が消えてからも攘夷戦争は続いてたし、その後もなんやかんやで色々と、な」
傷の手当てが終わり、身なりを整えた銀時は、柚希の準備したいちご牛乳を一気に飲み干す。部屋の隅に置かれたゴミ箱に、器用に空のパックを投げ込むと、座り直してまっすぐ柚希を見つめた。
「お互い心積もりは出来ただろ。そろそろ聞かせろよ、お前の話」
優しさを感じさせる、でも真剣な声で言った銀時に、柚希がコクリと頷く。
「どこから話せば良いのか分からないから、まずは私が戦場を離れた日の事を話すね」
そう言った柚希は、ゆっくりと語り始めた。
「あれは――シロたちが新たな戦場に向かった二日後だったと思う。あの日、救護所には怪我人以外、私ともう一人の志士だけが残っていたのは覚えてる? その数日前に、派手な戦闘で近隣の天人を排除していたから、暫く危険はないだろうという事で、人を置いて無かったでしょ。その隙を突かれて、天人の襲撃を受けたんだ」
「それは聞いてる。だが襲ってきた天人は雑魚ばっかのはずだろ。お前一人でも十分対処出来てたんじゃねーのか?」
「確かに天人は雑魚しかいなかったよ。普通に戦えば、楽に倒せた相手だったんだけどね」
「普通に戦えば? 何か問題でもあったのかよ」
不思議そうに言った銀時に柚希が見せたのは、怒りと悔しさの綯交ぜになった表情だった。
「味方に裏切り者がいるなんて、考えないじゃない」
「裏切り者!?」
驚く銀時に頷いた柚希は、先を続ける。
「怪我人の一人が天人と内通していたのよ。人質になったフリをして、まずは一緒に残っていた志士を天人に殺させたの。そして私も、救護所にいた怪我人達の命と引き換えという事で、天人に引き渡されたわ」
「……んだよ、それ」
「でも救護所から離れてしまえば、隙を見て倒す事が出来ると思ってね。ついでにやつらのアジトが分かれば一網打尽、くらいに考えてたんだけど……」
不意に、柚希の表情が暗くなった。どうやらそこで言いにくい出来事が起きたらしい。話を促すか否かで迷った銀時だったが、何かを感じてここは辛抱強く柚希が口を開くのを待つ事にした。
「塗り薬に、痛み止めの効果も入ってるからね。でもちゃんと治るまで無理はしないで」
「へーへー」
こういう時は、茶化してはいけないと分かっている。銀時は柚希の処置を受けるべく、素直に足を伸ばして見せた。
傷の手当てをしながら、着衣前の銀時の全身を流し見て確認する柚希の顔は、紛れもない医師の顔である。
「随分傷が増えたね、シロ。あの頃にはなかった傷痕がいくつもあるわ」
考えてみれば、記憶が戻ってから明るい場所で、銀時の体をマジマジと見るのはこれが初めてだ。普段のおちゃらけた彼からは想像もできない、数多くの生々しい傷痕は、いかに多くの命がけの戦いを潜り抜けて来たかを如実に表していた。
「お前の姿が消えてからも攘夷戦争は続いてたし、その後もなんやかんやで色々と、な」
傷の手当てが終わり、身なりを整えた銀時は、柚希の準備したいちご牛乳を一気に飲み干す。部屋の隅に置かれたゴミ箱に、器用に空のパックを投げ込むと、座り直してまっすぐ柚希を見つめた。
「お互い心積もりは出来ただろ。そろそろ聞かせろよ、お前の話」
優しさを感じさせる、でも真剣な声で言った銀時に、柚希がコクリと頷く。
「どこから話せば良いのか分からないから、まずは私が戦場を離れた日の事を話すね」
そう言った柚希は、ゆっくりと語り始めた。
「あれは――シロたちが新たな戦場に向かった二日後だったと思う。あの日、救護所には怪我人以外、私ともう一人の志士だけが残っていたのは覚えてる? その数日前に、派手な戦闘で近隣の天人を排除していたから、暫く危険はないだろうという事で、人を置いて無かったでしょ。その隙を突かれて、天人の襲撃を受けたんだ」
「それは聞いてる。だが襲ってきた天人は雑魚ばっかのはずだろ。お前一人でも十分対処出来てたんじゃねーのか?」
「確かに天人は雑魚しかいなかったよ。普通に戦えば、楽に倒せた相手だったんだけどね」
「普通に戦えば? 何か問題でもあったのかよ」
不思議そうに言った銀時に柚希が見せたのは、怒りと悔しさの綯交ぜになった表情だった。
「味方に裏切り者がいるなんて、考えないじゃない」
「裏切り者!?」
驚く銀時に頷いた柚希は、先を続ける。
「怪我人の一人が天人と内通していたのよ。人質になったフリをして、まずは一緒に残っていた志士を天人に殺させたの。そして私も、救護所にいた怪我人達の命と引き換えという事で、天人に引き渡されたわ」
「……んだよ、それ」
「でも救護所から離れてしまえば、隙を見て倒す事が出来ると思ってね。ついでにやつらのアジトが分かれば一網打尽、くらいに考えてたんだけど……」
不意に、柚希の表情が暗くなった。どうやらそこで言いにくい出来事が起きたらしい。話を促すか否かで迷った銀時だったが、何かを感じてここは辛抱強く柚希が口を開くのを待つ事にした。