第三章 〜夜叉〜(70P)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ばっかヤロー! 何で一人でのこのこ出かけやがった!」
頬を押さえて呆然とする柚希の目の前には、目を釣り上げて怒鳴りつけてくる銀時の姿。先ほどの朧に向けられた物とは違う、心から心配している事が伝わる怒りは、柚希の胸を締め付けた。
「お……」
「お? 何だよ。言い訳があるなら言ってみろってんだ」
「親父様にもぶたれた事無いのにっ!」
「よりにもよって、今それェッ!? せっかくの俺のシリアスなシーンが台無……」
銀時の言葉が途切れたのは、柚希に強く抱きつかれたから。弱々しく「ごめんなさい……ごめん……」と謝り続ける柚希に、これ以上強く言う事は出来なくて。大きくため息を吐いた銀時は、優しく柚希を抱きしめた。
「お前の事だ。俺に心配をかけないように、危険な目に合わせないようにと思っての行動だったんだろうけどよ……それは余計な心配を呼んじまうって事、いい加減気付けよな。もっと……俺を頼れ……っての……」
「シロ!?」
気が抜けたからだろうか。柚希を抱きしめていた銀時から、スゥッと力が抜けていく。グラリと体が傾き、慌てて柚希が手を伸ばすも支えきれず、銀時の体は定春の上で横倒しになってしまった。
意識はあるものの、閉じかかっている瞼は強い眠気を感じさせている。
「シロ!……そうか、これは……」
今更ながらに思い出す、睡眠薬の存在。本来なら未だ深い眠りの中にいるはずなのに、こうして柚希を助けに来られたのは、よほどの精神力を要したはずだ。
「だから足に傷を負ってたのね……」
足の出血は、少しずつ落ち着きを見せている。それでも眠気を覚まそうと自ら刺したと思しき傷は、なかなかに深い物だった。
「私なんかの為に……」
いつも持ち歩いている救急セットを取り出し、簡易的な治療を施す。もう痛みの効果も無いのか、意識を手放すギリギリの所で葛藤する銀時の手が、着物の裾を掴んだ事に気付いて柚希は言った。
「ごめんね、シロ。今はゆっくり休んで。大丈夫、ちゃんとこのままいっしょに万事屋に帰るから」
「や……くそく、だかんな……」
「うん、約束するよ」
「破ったら……おしお、き……」
ため息を吐くように息を吐き、そのまま静かな寝息を立てる銀時の瞼は、完全に閉じている。ずっと自らの背中を気にしながらも大人しくしていた定春が「くぅん」と心配そうに鳴くと、柚希は優しく毛を撫でてやった。
「大丈夫だよ、定春。お薬が効いて眠っただけだから」
「心配かけてごめんね」と言いながら、もう片方の手で銀時の顔にかかった髪を退けてやれば、幼い頃の面影を残した寝顔がある。それはとても愛おしい物であるにも関わらず、柚希の心に鋭い痛みを与えていた。
「似て非なる存在、か」
あの日まで……記憶を制御するピアスを付けられる直前まで何度も見ていた、銀時とは違う男の寝顔。全く違うはずなのにどこか似ている気がして、見る度に何度も涙していた。
「シロだから……頼れなかったのよ」
ゆっくりと万事屋に向けて歩き始めた定春の背に揺られながら、眠る銀時に語りかける。
「大切な存在であればある程、明かせないような道を私は選んでしまっていたから」
少しずつ速くなっていく景色の流れは、柚希の眦に浮かぶ水滴をさらって行った。
「私はね、シロ」
クリアになった視界に、空を映す。
赤みを帯びた丸い月を睨みながら、柚希は言った。
「誰よりもシロを愛していながら……朧を『哀 して』この身を委ねたのよ」
頬を押さえて呆然とする柚希の目の前には、目を釣り上げて怒鳴りつけてくる銀時の姿。先ほどの朧に向けられた物とは違う、心から心配している事が伝わる怒りは、柚希の胸を締め付けた。
「お……」
「お? 何だよ。言い訳があるなら言ってみろってんだ」
「親父様にもぶたれた事無いのにっ!」
「よりにもよって、今それェッ!? せっかくの俺のシリアスなシーンが台無……」
銀時の言葉が途切れたのは、柚希に強く抱きつかれたから。弱々しく「ごめんなさい……ごめん……」と謝り続ける柚希に、これ以上強く言う事は出来なくて。大きくため息を吐いた銀時は、優しく柚希を抱きしめた。
「お前の事だ。俺に心配をかけないように、危険な目に合わせないようにと思っての行動だったんだろうけどよ……それは余計な心配を呼んじまうって事、いい加減気付けよな。もっと……俺を頼れ……っての……」
「シロ!?」
気が抜けたからだろうか。柚希を抱きしめていた銀時から、スゥッと力が抜けていく。グラリと体が傾き、慌てて柚希が手を伸ばすも支えきれず、銀時の体は定春の上で横倒しになってしまった。
意識はあるものの、閉じかかっている瞼は強い眠気を感じさせている。
「シロ!……そうか、これは……」
今更ながらに思い出す、睡眠薬の存在。本来なら未だ深い眠りの中にいるはずなのに、こうして柚希を助けに来られたのは、よほどの精神力を要したはずだ。
「だから足に傷を負ってたのね……」
足の出血は、少しずつ落ち着きを見せている。それでも眠気を覚まそうと自ら刺したと思しき傷は、なかなかに深い物だった。
「私なんかの為に……」
いつも持ち歩いている救急セットを取り出し、簡易的な治療を施す。もう痛みの効果も無いのか、意識を手放すギリギリの所で葛藤する銀時の手が、着物の裾を掴んだ事に気付いて柚希は言った。
「ごめんね、シロ。今はゆっくり休んで。大丈夫、ちゃんとこのままいっしょに万事屋に帰るから」
「や……くそく、だかんな……」
「うん、約束するよ」
「破ったら……おしお、き……」
ため息を吐くように息を吐き、そのまま静かな寝息を立てる銀時の瞼は、完全に閉じている。ずっと自らの背中を気にしながらも大人しくしていた定春が「くぅん」と心配そうに鳴くと、柚希は優しく毛を撫でてやった。
「大丈夫だよ、定春。お薬が効いて眠っただけだから」
「心配かけてごめんね」と言いながら、もう片方の手で銀時の顔にかかった髪を退けてやれば、幼い頃の面影を残した寝顔がある。それはとても愛おしい物であるにも関わらず、柚希の心に鋭い痛みを与えていた。
「似て非なる存在、か」
あの日まで……記憶を制御するピアスを付けられる直前まで何度も見ていた、銀時とは違う男の寝顔。全く違うはずなのにどこか似ている気がして、見る度に何度も涙していた。
「シロだから……頼れなかったのよ」
ゆっくりと万事屋に向けて歩き始めた定春の背に揺られながら、眠る銀時に語りかける。
「大切な存在であればある程、明かせないような道を私は選んでしまっていたから」
少しずつ速くなっていく景色の流れは、柚希の眦に浮かぶ水滴をさらって行った。
「私はね、シロ」
クリアになった視界に、空を映す。
赤みを帯びた丸い月を睨みながら、柚希は言った。
「誰よりもシロを愛していながら……朧を『