第三章 〜夜叉〜(70P)
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万事屋を出た柚希が目指したのは、天導衆のあの男と対峙した場所。時間の指定は無かったが、今行けば確実に待っているであろうと、柚希は何故か確信していた。
「デートのお誘いには不向きな場所だと思うんだけど?」
目的地にたどり着いた柚希は、出来る限り死角の無い場所に立って言う。全方向に神経を張り巡らせ、どこから攻撃を受けても良いようにと、両手に扇子を構えた。
「出てこないのなら、帰っちゃうわよ」
ソワソワと辺りを見回す柚希は、明らかにいつもとは違う。実際のところ、冷静さを保てない程に柚希は怯えていた。
「待つのは嫌いだから、帰るわよ!」
そう叫んだ柚希は、到着してから五分と経たずしてその場を立ち去ろうとした。
ところが。
「帰ってしまえばどうなるか、分かっているのではないのか? 柚希」
「後ろか……っ!」
背後から聞こえた声に向けて玉を放とうと、振り向き様に扇子を振り上げる。しかしあっさりとその手は捕らわれてしまった。
「刻を経るごとに動きが鈍って行くな。まあ常に前線に身を置いていなければ、衰えるのも無理はない話だが」
「朧……っ!」
そこにいたのは、前回顔を合わせた時とは違い、天蓋を被らず素顔を晒した一人の男。
柚希が『朧』と呼んだ、緩やかなウェーブの白髪と顔に大きな傷を持ったこの男は、蔑むような目で柚希を見ていた。
「親父様は死んで、松下村塾も完全に解体した。もう私たちに固執する理由なんてないでしょ!」
何とか朧の腕から逃れようと足掻きながら叫ぶ柚希に、朧は涼しい顔で言う。
「言っただろう。根絶やしにする、と」
「根絶やしって何をよ! あれだけ私たちを苦しめて、壊して……それでも未だ足りないって言うの!?」
怒りと恐怖で震える体を叱咤し、自由な方の手で再度攻撃を仕掛けようとするも、悲しいほどにあっさりと打ち払われてしまったのはやはり、萎縮してしまっているから。
「く……っ」
両腕を掴まれてしまい、次の攻撃へと転じる事も出来ない柚希に、朧は小さく口角を上げながら言った。
「ああ……未だ足りないな」
ゆっくりと、朧の顔が近付く。その瞳には、恐怖と怒りに加えて、切なさが入り混じった柚希の顔が映っている。
「足りているはずが、ないだろう?」
「やだ、やめて! おぼ……っ!」
抗い切れぬまま重ねられた唇は、柚希の悲鳴を飲み込んだ。代わりに溢れ出た涙が柚希の頬を伝って地に落ちると、その体から力が抜けて行く。
「こうなる事が分かっていて来たのだろう? でなければあの男を……松陽の弟子を共に引き連れて来ていたはずだ」
唇を離し、頬から首筋へとキスを落としながら言う朧に、柚希は答えようとはしない。ただ涙を流し、されるがままに立ち尽くす柚希はまるで、生きた屍のようになっていた。
「デートのお誘いには不向きな場所だと思うんだけど?」
目的地にたどり着いた柚希は、出来る限り死角の無い場所に立って言う。全方向に神経を張り巡らせ、どこから攻撃を受けても良いようにと、両手に扇子を構えた。
「出てこないのなら、帰っちゃうわよ」
ソワソワと辺りを見回す柚希は、明らかにいつもとは違う。実際のところ、冷静さを保てない程に柚希は怯えていた。
「待つのは嫌いだから、帰るわよ!」
そう叫んだ柚希は、到着してから五分と経たずしてその場を立ち去ろうとした。
ところが。
「帰ってしまえばどうなるか、分かっているのではないのか? 柚希」
「後ろか……っ!」
背後から聞こえた声に向けて玉を放とうと、振り向き様に扇子を振り上げる。しかしあっさりとその手は捕らわれてしまった。
「刻を経るごとに動きが鈍って行くな。まあ常に前線に身を置いていなければ、衰えるのも無理はない話だが」
「朧……っ!」
そこにいたのは、前回顔を合わせた時とは違い、天蓋を被らず素顔を晒した一人の男。
柚希が『朧』と呼んだ、緩やかなウェーブの白髪と顔に大きな傷を持ったこの男は、蔑むような目で柚希を見ていた。
「親父様は死んで、松下村塾も完全に解体した。もう私たちに固執する理由なんてないでしょ!」
何とか朧の腕から逃れようと足掻きながら叫ぶ柚希に、朧は涼しい顔で言う。
「言っただろう。根絶やしにする、と」
「根絶やしって何をよ! あれだけ私たちを苦しめて、壊して……それでも未だ足りないって言うの!?」
怒りと恐怖で震える体を叱咤し、自由な方の手で再度攻撃を仕掛けようとするも、悲しいほどにあっさりと打ち払われてしまったのはやはり、萎縮してしまっているから。
「く……っ」
両腕を掴まれてしまい、次の攻撃へと転じる事も出来ない柚希に、朧は小さく口角を上げながら言った。
「ああ……未だ足りないな」
ゆっくりと、朧の顔が近付く。その瞳には、恐怖と怒りに加えて、切なさが入り混じった柚希の顔が映っている。
「足りているはずが、ないだろう?」
「やだ、やめて! おぼ……っ!」
抗い切れぬまま重ねられた唇は、柚希の悲鳴を飲み込んだ。代わりに溢れ出た涙が柚希の頬を伝って地に落ちると、その体から力が抜けて行く。
「こうなる事が分かっていて来たのだろう? でなければあの男を……松陽の弟子を共に引き連れて来ていたはずだ」
唇を離し、頬から首筋へとキスを落としながら言う朧に、柚希は答えようとはしない。ただ涙を流し、されるがままに立ち尽くす柚希はまるで、生きた屍のようになっていた。