第三章 〜夜叉〜(70P)
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「どうした? 柚希」
そこへやって来たのは銀時。柚希の気配が万事屋から出たのに気付き、追って来たらしい。
「俺がついて行くっつったろ? 一人で勝手に行っちまうなよ」
「だってあの子達と楽しそうに遊んでたんだもん。だったらその間にサクッと行って来ちゃおうかと思って」
「遊んじゃいねェよ。教育的指導をしてただけだ」
ムスッとしながら柚希を小突く銀時の手は優しくて。「いったぁい」と笑顔で言った柚希は、そのまま頭の上に置かれた銀時の手を握った。
「何かもう、取りに行くのが面倒になっちゃったなぁ……今日は諦めて部屋に戻ろう」
そう言って銀時の手を引っ張るようにしながら玄関に入る柚希。
「お、おい、良いのかよ」
どれだけ扇子を大事にしているのかを知っているだけに、銀時が訝しげに聞く。だがその質問に柚希は笑顔で答えた。
「うん、考えてみたら、さすがにこれだけ時間が経ってるんだもん。誰かが拾っちゃってるんじゃないかな? もし未だに拾われてなければ、もう暗くなるから明日の朝まで置きっぱなしだと思うわ。それに、話に夢中でお昼ご飯も抜いちゃったから、お腹もペコペコだしね」
そう言ったと同時に腹の虫がク〜ッと小さく鳴き、恥ずかしそうに舌を出す柚希。納得はいっていないようだったが、本人が言うのなら、と思ったのだろうか。
「そんじゃまァ、明日の朝にでも探しに行くか。一応落し物として届いてないか、後で土方に聞いてみてやるよ」
と言って、銀時も頷いたのだった。
夜になり、皆が寝静まった頃。
大きないびきをかいて深い眠りに落ちている銀時を横目に、柚希はそっと布団を抜け出した。
「ごめんね、シロ。騙すような事ばかりして……」
小さく声をかけても、銀時が眠りから覚める事はない。
「春雨で培った知識が、こう言う形で役に立つってのは複雑だけどね」
気配に気付かないはずのない銀時が、こうもぐっすりと眠りこけているのには、理由があった。
「副作用は少ないけど、効果の高い睡眠薬を食事に混ぜておいたわ」
味や香りで気取られぬよう、細心の注意を払って混ぜ込まれた睡眠薬には、さすがの銀時も気付かなかったようだ。そもそも柚希がそのような事をするなどとは、毛ほども思っていなかったのかもしれない。
実際これは、柚希にとっても苦渋の選択だった。
「呼吸の深さからして、薬の効果はしっかりと出ているようね。どの程度持続性があるかまでは、個体差があるから分からないけど、目覚めるまでに帰らなきゃ怒られちゃうよね」
そう言った柚希は、銀時の額にキスを落とす。そして先ほど万事屋の前に置かれていた扇子を懐から取り出すと、要を捻り取った。その中に押し込まれていた小さなメモを開けば、書かれていたのは『再逢瀬』の文字。
「私だから小さな重みの変化も感じ取れたけど、気付かれなかったらどうするつもりだったってのよ」
呆れたように言いながらも、その表情は固い。
要を元に戻して扇子とメモを懐に入れた柚希は、今度は銀時に唇を重ねると「やっぱり私はーー」と言いかけてすぐに首を横に振った。
「行って……こよう」
立ち上がって玄関へと向かった柚希が、銀時を振り返る事はない。小さく戸の開閉の音が聞こえ、階段を降りる足音が遠のけば、残されたのは静寂のみだった。
そこへやって来たのは銀時。柚希の気配が万事屋から出たのに気付き、追って来たらしい。
「俺がついて行くっつったろ? 一人で勝手に行っちまうなよ」
「だってあの子達と楽しそうに遊んでたんだもん。だったらその間にサクッと行って来ちゃおうかと思って」
「遊んじゃいねェよ。教育的指導をしてただけだ」
ムスッとしながら柚希を小突く銀時の手は優しくて。「いったぁい」と笑顔で言った柚希は、そのまま頭の上に置かれた銀時の手を握った。
「何かもう、取りに行くのが面倒になっちゃったなぁ……今日は諦めて部屋に戻ろう」
そう言って銀時の手を引っ張るようにしながら玄関に入る柚希。
「お、おい、良いのかよ」
どれだけ扇子を大事にしているのかを知っているだけに、銀時が訝しげに聞く。だがその質問に柚希は笑顔で答えた。
「うん、考えてみたら、さすがにこれだけ時間が経ってるんだもん。誰かが拾っちゃってるんじゃないかな? もし未だに拾われてなければ、もう暗くなるから明日の朝まで置きっぱなしだと思うわ。それに、話に夢中でお昼ご飯も抜いちゃったから、お腹もペコペコだしね」
そう言ったと同時に腹の虫がク〜ッと小さく鳴き、恥ずかしそうに舌を出す柚希。納得はいっていないようだったが、本人が言うのなら、と思ったのだろうか。
「そんじゃまァ、明日の朝にでも探しに行くか。一応落し物として届いてないか、後で土方に聞いてみてやるよ」
と言って、銀時も頷いたのだった。
夜になり、皆が寝静まった頃。
大きないびきをかいて深い眠りに落ちている銀時を横目に、柚希はそっと布団を抜け出した。
「ごめんね、シロ。騙すような事ばかりして……」
小さく声をかけても、銀時が眠りから覚める事はない。
「春雨で培った知識が、こう言う形で役に立つってのは複雑だけどね」
気配に気付かないはずのない銀時が、こうもぐっすりと眠りこけているのには、理由があった。
「副作用は少ないけど、効果の高い睡眠薬を食事に混ぜておいたわ」
味や香りで気取られぬよう、細心の注意を払って混ぜ込まれた睡眠薬には、さすがの銀時も気付かなかったようだ。そもそも柚希がそのような事をするなどとは、毛ほども思っていなかったのかもしれない。
実際これは、柚希にとっても苦渋の選択だった。
「呼吸の深さからして、薬の効果はしっかりと出ているようね。どの程度持続性があるかまでは、個体差があるから分からないけど、目覚めるまでに帰らなきゃ怒られちゃうよね」
そう言った柚希は、銀時の額にキスを落とす。そして先ほど万事屋の前に置かれていた扇子を懐から取り出すと、要を捻り取った。その中に押し込まれていた小さなメモを開けば、書かれていたのは『再逢瀬』の文字。
「私だから小さな重みの変化も感じ取れたけど、気付かれなかったらどうするつもりだったってのよ」
呆れたように言いながらも、その表情は固い。
要を元に戻して扇子とメモを懐に入れた柚希は、今度は銀時に唇を重ねると「やっぱり私はーー」と言いかけてすぐに首を横に振った。
「行って……こよう」
立ち上がって玄関へと向かった柚希が、銀時を振り返る事はない。小さく戸の開閉の音が聞こえ、階段を降りる足音が遠のけば、残されたのは静寂のみだった。