第一章 ~再会~(49P)
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「ぐ……っ!」
思わず息が止まる。ギリギリ衝撃を逃したつもりだったが、ダメージは大きかった。感覚からして、あばらの2、3本はやられているかもしれない。
「な~にぼんやり空なんざ眺めてんだよ。未だ鬼ごっこは終わってねぇんだぜ? それとも何か? 気を抜いていても捕まんねぇってか。俺たちも随分なめられたもんだなぁ」
そこには、いつの間にか新たな追っ手の姿があった。柚希の周りを取り囲むように立つ天人たちは、先ほどの3倍はいるようだ。一番前に立って柚希を威圧してくる天人は、追っ手のリーダー格だろうか。わざとらしく下卑た笑みを浮かべ、柚希を見下ろしていた。
「まぁ俺たちと一緒で、鬼ごっこにも飽きてきてるだろうしよ。そんじゃ、いい加減お遊びはお仕舞いにしようや」
リーダーと思しき天人が合図を送ると同時に、全ての天人が殺気を放つ。緊張感と痛みに、柚希の頬を冷や汗が流れた。
――ここまでか……
もう覚悟を決めるしかないと思ったのだろう。握りしめていた扇子をゆっくりと開くと構えを取った。
「先手必勝!」
勢いよく振り降ろされた扇子から、鉛の玉が放たれる。玉は的確に敵の額を捕らえて穴を穿つと、紅い花弁をまき散らしながら主の元へと戻り、再び敵に襲い掛かる。
柚希の手が振り下ろされる度に一人、また一人と天人は倒れていった。
その姿はまるで白拍子が舞うかのごとく優美だというのに、導く先は冥府の扉。
「さすがだと言いたいとこだが、これ以上やられてたまるかってんだ。おい野郎ども! 何で俺がたった一人相手にこれだけの人数を連れてきたと思ってんだ。一度にかかれ!」
リーダーの声にバラバラだった天人の兵たちが一つになり、一斉に攻撃を仕掛ける。咄嗟にかわそうとするも、先ほど受けた傷の痛みが邪魔をして思ったように体が動かず、対応しきれない。
――やられる……っ!
柚希が思わず目を閉じたときだった。
顔前を鋭い風が吹き抜け、敵の連携が崩れたのが分かり目を開ける。そこにはどこから現れたのか、一人の男の背中があった。
「良い女をナンパしたいのは分かるが、もうちっとスマートに口説いてみようや」
軽口を叩きながらすぐそばの地面に突き刺さっていた木刀を引き抜いた男は、癖の強い白銀の髪をなびかせながら不遜な笑みを浮かべている。トントンと肩を叩く木刀には何故か『洞爺湖』の文字が彫られていた。
「口説き方が分かんねぇってんなら、俺が手ほどきしてやるぜ」
「なんだてめぇは。関係ねぇやつは引っ込んでな。死にてぇのかよ」
「あ~らら、捻りの無い常套句ばっかでカッコ悪いねぇ。聞いてるこっちが恥ずかしいわ」
そう言いながら白銀の髪の男は、柚希の前に膝をつく。
「こりゃまた派手にやられちゃってるねぇ。痛そ~」
傷の具合を見ても、この軽口。だがその瞳は決して笑ってはいなかった。
「ちょっと待ってな。すぐに病院に連れてってやるからよ」
「いや、こんなの自分で何とかできるから大丈夫。それよりあんたは……」
「無理してんじゃねぇよ。――姫」
「え……?」
何故か柚希を『姫』と呼んだ男は、ゆらりと立ち上がって木刀を構えた。その次の瞬間にはもう数人の天人が宙を舞っていて。
「な……っ!」
天人たちが驚いている間にも、一人、また一人と倒れていく。天人のリーダーが慌てて態勢を整えようとしたが間に合わず、気が付けばリーダーを含む全ての天人が地べたにはいつくばっていた。
あまりにも早い展開に柚希の頭はついていかず。痛みも忘れ、目を丸くしながら男の動向を見つめている。そんな柚希に苦笑いしながら歩み寄ってきた男は木刀を腰に差すと、何も言わずに柚希をそっと抱き上げた。
思わず息が止まる。ギリギリ衝撃を逃したつもりだったが、ダメージは大きかった。感覚からして、あばらの2、3本はやられているかもしれない。
「な~にぼんやり空なんざ眺めてんだよ。未だ鬼ごっこは終わってねぇんだぜ? それとも何か? 気を抜いていても捕まんねぇってか。俺たちも随分なめられたもんだなぁ」
そこには、いつの間にか新たな追っ手の姿があった。柚希の周りを取り囲むように立つ天人たちは、先ほどの3倍はいるようだ。一番前に立って柚希を威圧してくる天人は、追っ手のリーダー格だろうか。わざとらしく下卑た笑みを浮かべ、柚希を見下ろしていた。
「まぁ俺たちと一緒で、鬼ごっこにも飽きてきてるだろうしよ。そんじゃ、いい加減お遊びはお仕舞いにしようや」
リーダーと思しき天人が合図を送ると同時に、全ての天人が殺気を放つ。緊張感と痛みに、柚希の頬を冷や汗が流れた。
――ここまでか……
もう覚悟を決めるしかないと思ったのだろう。握りしめていた扇子をゆっくりと開くと構えを取った。
「先手必勝!」
勢いよく振り降ろされた扇子から、鉛の玉が放たれる。玉は的確に敵の額を捕らえて穴を穿つと、紅い花弁をまき散らしながら主の元へと戻り、再び敵に襲い掛かる。
柚希の手が振り下ろされる度に一人、また一人と天人は倒れていった。
その姿はまるで白拍子が舞うかのごとく優美だというのに、導く先は冥府の扉。
「さすがだと言いたいとこだが、これ以上やられてたまるかってんだ。おい野郎ども! 何で俺がたった一人相手にこれだけの人数を連れてきたと思ってんだ。一度にかかれ!」
リーダーの声にバラバラだった天人の兵たちが一つになり、一斉に攻撃を仕掛ける。咄嗟にかわそうとするも、先ほど受けた傷の痛みが邪魔をして思ったように体が動かず、対応しきれない。
――やられる……っ!
柚希が思わず目を閉じたときだった。
顔前を鋭い風が吹き抜け、敵の連携が崩れたのが分かり目を開ける。そこにはどこから現れたのか、一人の男の背中があった。
「良い女をナンパしたいのは分かるが、もうちっとスマートに口説いてみようや」
軽口を叩きながらすぐそばの地面に突き刺さっていた木刀を引き抜いた男は、癖の強い白銀の髪をなびかせながら不遜な笑みを浮かべている。トントンと肩を叩く木刀には何故か『洞爺湖』の文字が彫られていた。
「口説き方が分かんねぇってんなら、俺が手ほどきしてやるぜ」
「なんだてめぇは。関係ねぇやつは引っ込んでな。死にてぇのかよ」
「あ~らら、捻りの無い常套句ばっかでカッコ悪いねぇ。聞いてるこっちが恥ずかしいわ」
そう言いながら白銀の髪の男は、柚希の前に膝をつく。
「こりゃまた派手にやられちゃってるねぇ。痛そ~」
傷の具合を見ても、この軽口。だがその瞳は決して笑ってはいなかった。
「ちょっと待ってな。すぐに病院に連れてってやるからよ」
「いや、こんなの自分で何とかできるから大丈夫。それよりあんたは……」
「無理してんじゃねぇよ。――姫」
「え……?」
何故か柚希を『姫』と呼んだ男は、ゆらりと立ち上がって木刀を構えた。その次の瞬間にはもう数人の天人が宙を舞っていて。
「な……っ!」
天人たちが驚いている間にも、一人、また一人と倒れていく。天人のリーダーが慌てて態勢を整えようとしたが間に合わず、気が付けばリーダーを含む全ての天人が地べたにはいつくばっていた。
あまりにも早い展開に柚希の頭はついていかず。痛みも忘れ、目を丸くしながら男の動向を見つめている。そんな柚希に苦笑いしながら歩み寄ってきた男は木刀を腰に差すと、何も言わずに柚希をそっと抱き上げた。