第三章 〜夜叉〜(70P)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
未だ戦場に一人でいた幼い頃は、生きる術として刀を振るってはいたものの、命の意味を理解してはいなかった。だが松陽に拾われ、柚希と出会った今は命の尊さを知り、大切なものも数多く存在している。
そんな銀時が初めて出た戦場で、斬りつけた天人の死にゆく様を目の当たりにした時。その生々しい光景と感触に背筋が凍った。吹き出す血飛沫と悲鳴に心が折れそうになり、吐き気が止まらなかった。
それでも逃げようとしなかったのは、共に戦う仲間がいたから。そして周りの大人達の反対を押し切り、銀時の側で戦う柚希の姿があったからだ。
軽やかに扇子を操り、次々と敵を討ち倒していく様は、敵である天人ですらも見惚れてしまうほどに美しく、夜叉と呼ばれるに相応しい恐ろしさだった。
「躊躇いがあるのなら、今すぐ戦線離脱しなさい、シロ!」
そう叫びながら銀時の前に立ち、庇うようにして戦う柚希の後ろ姿を見るのは、男としてのプライドが許さない。自分の代わりに矢面に立ち、傷を負わせるなんてまっぴらごめんだ。
そう思った銀時は、吐き気を覚える自らの体を叱咤し、柚希より前へと走り出た。
我武者羅に刀を振り、次々と敵の命を奪っていく。気が付けば銀時の周りは死屍累々。生き残っている者も恐れをなし、退却を始める。
「姫夜叉の側にいるあの髪の白いの! あいつも夜叉だ!」
「夜叉がまた一人増えたぞ! 白い夜叉……白夜叉だ!」
そんな叫びが聞こえる中、全身に赤を帯びた銀時は振り向いて柚希を見た。
ほとんど返り血を浴びていない、キレイなままの柚希は、隙を見て攻撃を仕掛けてこようとしている天人を数人葬り去ると、銀時に向けて悲しい笑みを見せる。
「シロまで『夜叉』と呼ばれる事になりそうね」
完全に戦意喪失した天人たちが逃げ去り、生きた敵が周りからいなくなると、ほっと溜息を吐いた。ただし、気を抜いているわけでは無い。いつ何時、どこから敵が狙ってくるかは分からないのだから。
「名が売れれば、武勲をあげる為に敵に真っ先に狙われるわ。出来るだけ皆に紛れ込めるように地味な装束を選びなさいよ」
傷の手当ての為に戻った救護所で柚希に言われ、支給された中から銀時が選びだしたのは、それまで着ていた地味な色では無く、たった一枚紛れ込んでいた白い着物。
その日以降、「戦場でそんな目立つ色を着るなんて!」と柚希に怒られても、銀時は敢えて白を纏い続けた。
自らの名を売るために。
少しでも、『姫夜叉』の噂を打ち消すために。
やがて『白夜叉』の名は、敵味方関係なく知れ渡っていく。
敵に襲われる数が増える毎に腕も上がっていき、気付けば『白夜叉』は攘夷志士の象徴であり、英雄となっていた。
「今日白夜叉の刀の錆になったのは、三十八人だとよ」
「昨日は二十九人だったよな」
「明日は四十人を超えるか?」
敵を倒せば倒すほど命を奪う事を望まれ、いつしか天人を斬る事への躊躇いは無くなっていて。
おおっぴらには言えないがやはり、認められて求められる快感の度合いは、返り血を浴びる回数に比例していた。
そんな銀時が初めて出た戦場で、斬りつけた天人の死にゆく様を目の当たりにした時。その生々しい光景と感触に背筋が凍った。吹き出す血飛沫と悲鳴に心が折れそうになり、吐き気が止まらなかった。
それでも逃げようとしなかったのは、共に戦う仲間がいたから。そして周りの大人達の反対を押し切り、銀時の側で戦う柚希の姿があったからだ。
軽やかに扇子を操り、次々と敵を討ち倒していく様は、敵である天人ですらも見惚れてしまうほどに美しく、夜叉と呼ばれるに相応しい恐ろしさだった。
「躊躇いがあるのなら、今すぐ戦線離脱しなさい、シロ!」
そう叫びながら銀時の前に立ち、庇うようにして戦う柚希の後ろ姿を見るのは、男としてのプライドが許さない。自分の代わりに矢面に立ち、傷を負わせるなんてまっぴらごめんだ。
そう思った銀時は、吐き気を覚える自らの体を叱咤し、柚希より前へと走り出た。
我武者羅に刀を振り、次々と敵の命を奪っていく。気が付けば銀時の周りは死屍累々。生き残っている者も恐れをなし、退却を始める。
「姫夜叉の側にいるあの髪の白いの! あいつも夜叉だ!」
「夜叉がまた一人増えたぞ! 白い夜叉……白夜叉だ!」
そんな叫びが聞こえる中、全身に赤を帯びた銀時は振り向いて柚希を見た。
ほとんど返り血を浴びていない、キレイなままの柚希は、隙を見て攻撃を仕掛けてこようとしている天人を数人葬り去ると、銀時に向けて悲しい笑みを見せる。
「シロまで『夜叉』と呼ばれる事になりそうね」
完全に戦意喪失した天人たちが逃げ去り、生きた敵が周りからいなくなると、ほっと溜息を吐いた。ただし、気を抜いているわけでは無い。いつ何時、どこから敵が狙ってくるかは分からないのだから。
「名が売れれば、武勲をあげる為に敵に真っ先に狙われるわ。出来るだけ皆に紛れ込めるように地味な装束を選びなさいよ」
傷の手当ての為に戻った救護所で柚希に言われ、支給された中から銀時が選びだしたのは、それまで着ていた地味な色では無く、たった一枚紛れ込んでいた白い着物。
その日以降、「戦場でそんな目立つ色を着るなんて!」と柚希に怒られても、銀時は敢えて白を纏い続けた。
自らの名を売るために。
少しでも、『姫夜叉』の噂を打ち消すために。
やがて『白夜叉』の名は、敵味方関係なく知れ渡っていく。
敵に襲われる数が増える毎に腕も上がっていき、気付けば『白夜叉』は攘夷志士の象徴であり、英雄となっていた。
「今日白夜叉の刀の錆になったのは、三十八人だとよ」
「昨日は二十九人だったよな」
「明日は四十人を超えるか?」
敵を倒せば倒すほど命を奪う事を望まれ、いつしか天人を斬る事への躊躇いは無くなっていて。
おおっぴらには言えないがやはり、認められて求められる快感の度合いは、返り血を浴びる回数に比例していた。